夫婦別姓、セクシャルマイノリティ…裁判所任せでなく国会で議論を

2021.7.19

社会

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夫婦別姓、セクシャルマイノリティ…裁判所任せでなく国会で議論を

写真:つのだよしお/アフロ

夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定が「違憲」だとして事実婚のカップルが国に損害賠償を求めていた裁判で、最高裁大法廷が6月、憲法に違反しない(合憲)との判断を示した。最高裁による合憲との判断は2015年に続いて2度目。最高裁はこの問題について国会で議論して決めるべきだと指摘しているが、自民党内の意見は真っ二つに割れている。世論では見直し機運が高まっているのに対し、永田町では法改正への機運が盛り上がっていない。

最高裁が夫婦同姓に2度目の合憲

「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」。日本ではこの民法750条の規定により、夫婦は夫もしくは妻のどちらかの姓を名乗らなければならないこととなっている。また、戸籍法第74条により、その「夫婦が称する氏」を婚姻届けに記載し、届出しなければならない。この2つの法律により、日本では夫婦別姓が認められていない。

これに対し、今回の裁判では別々の姓で役所に婚姻届けを提出し、不受理とされた3組の事実婚カップルが提訴。夫婦同姓を求める規定は「法の下(もと)の平等」を保障する憲法14条と「婚姻の自由」を定める24条に反すると訴えたが、最高裁は2015年に初めて民法の規定が憲法に違反しない(合憲)と判断した判決を踏襲し、関連する戸籍法も合憲だと示した。15人の裁判官のうち11人が合憲、4人が違憲との判断を提示。違憲判断は2015年の5人から1人減った。

同時期にソフトウエア開発会社サイボウズの青野慶久社長ら4人が、日本人と外国人の結婚では夫婦別姓を選べるのに、日本人同士では選べないのは違憲だとして国に損害賠償を求めた訴訟でも、最高裁が6月末に原告側の上告を退けると決定。こちらも敗訴が確定した。

最高裁大法廷の判決では合憲判断の理由について「女性の有業率の上昇、管理職に占める女性の割合の増加その他社会の変化や、選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者の割合の増加等を踏まえても、2015年判決の判断を変更すべきとは認められない」と説明。その上で「夫婦の氏(姓)についてどのような制度を採るのが立法政策として相当かという問題と、夫婦同氏(姓)制を定める現行法の規定が憲法に違反して無効であるか否かという憲法適合性の問題とは次元を異にするものである」と指摘した。

つまり夫婦同姓を続けるか、選択的夫婦別姓などの新たな制度を導入するかは裁判所ではなく、国会で議論すべきだというのだ。

これらの判決について原告は「最高裁が判断することから逃げた」と批判しているが、裁判所の言い分には頷ける。これだけ重要な政策の判断は見識ある15人の裁判官に委ねるのではなく、国民的議論の上で国会が議論し、決定するのが筋である。

選択的夫婦別姓、若いほど賛成の割合多く

最高裁の指摘するように、世論では夫婦別姓への理解が進みつつある。朝日新聞が2021年4月に行った世論調査によると、夫婦が同じ苗字でも、別々の苗字でも自由に選べるようにする「選択的夫婦別姓」制度について、67%が賛成で反対の26%を大きく上回った。同様に日本経済新聞の3月の世論調査でも賛成67%で反対26%。年齢が若いほど賛成の割合が多く、18~39歳では賛成が84%に上ったという。保守層の多い自民党支持層に限っても賛成が61%で反対の32%を2倍近く上回っている。

こうした世論の動きを踏まえ、自民党の有志議員は3月に「選択的夫婦別氏(姓)制度を早期に実現する議員連盟」を発足。100人超の議員が参加し、6月には制度を導入しても夫婦と子どもが一つの戸籍となる現在の戸籍制度の原則は維持することなど基本的な考えをまとめた。

しかし、一方で夫婦別姓に慎重な立場の議員らも対抗して「婚姻前の氏の通称使用拡大・周知を促進する議員連盟」を結成。夫婦別姓ではなく、結婚前の旧姓を通称として使用しやすくなるよう、戸籍に旧姓を通称として記載できるよう法改正すべきとの決議をまとめた。同議連には150人の議員が名を連ねているという。

保守層の票を意識して思想が保守化する国会議員も

政策課題として女性の社会での活躍に注目が集まり、社会で選択的夫婦別姓への理解が広がるなか、自民党内で反対意見が根強いのはこの問題が“保守であるかどうかのフィルター”のような存在になっているからだ。保守的な有権者には「夫婦別姓に反対する議員こそ、日本の伝統的な家族制度を維持する保守議員」と映り、「夫婦別姓に賛同する議員は日本の古き良き伝統を壊そうとする破壊者」と映る。ある自民党若手議員は「自民党内には保守層の票を意識するあまり、思想が保守化していく議員が少なくない」と明かす。保守層はネット上などでの発信力が強いため、影響を受けやすいというわけだ。

夫婦別姓と似ているのがいわゆるLGBT法案への対応だ。セクシャルマイノリティへの理解が広がるなか、自民党を含む超党派の議員連盟が「LGBT理解増進法案」をまとめ、今年の通常国会に提出する方向で与野党の調整が進んでいた。しかし、自民党内の保守系議員が条文案にある「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されない」との文言に反発。「訴訟が頻発する」などの反対意見が相次ぎ、国会提出が見送られた経緯がある。反対する議員たちの多くは夫婦別姓にも反対で、自分と異なる意見に耳を貸そうともしない。

法務省によると、夫婦同姓を法律で義務付けているのは世界で日本しかないという。家族の在り方を変えるかもしれない重要な政策だけに、海外の潮流に乗らなければならない、とは思わない。しかし、国民の多くが賛成するなか、一部の保守系議員の反対によって議論すらしないというのはおかしいではないか。異なる意見をシャットダウンし、耳障りのいい意見しか聞かないのであれば、それこそ憲法の定める「国民の代表」とは言えない。