参院選にはいくらお金がかかる? リアルな選挙費用の実態

2022.6.23

政治

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参院選にはいくらお金がかかる? リアルな選挙費用の実態

27年ぶりに500人超が立候補した第26回参院選。激戦とされる東京選挙区には当選数6の枠に対し、なんと34人が立候補した。多くの候補は当選が見込めないなかで、なぜこれだけ多くの候補者が乱立するのか。「選挙にはカネがかかる」と言われるが、皆、平気なのだろうか。過去の参院選を例に、リアルな選挙費用の実態に迫る。

先進国でもトップクラスに高い日本の「供託金」

立候補するのにあたり、必ず必要なのが「供託金」だ。当選する気もない人の売名行為などを防止するための制度で、立候補する際に法務局に預け、一定の票を集めれば返還、一定票に届かなければ没収されるお金。参院選の場合は選挙区300万円、比例代表600万円となっている。

供託金の返還ラインは選挙区の場合、選挙区の有効投票数を選挙区の定数で割って、その8分の1となっている。例えば前回2019年の参院選で、東京選挙区の有効投票数は約555万票。定数は6なので、11万5600票ほどが返還ラインとなった。このときは20人が立候補し、半数の10人が没収となった。

比例代表の場合は政党ごとに当選者数の2倍分だけ返還される。例えば自民党は2019参院選で33人を擁立し、19人が当選したので全員分返還されたが、共産党は26人が立候補し、当選者は4人だったので18人分が没収された計算だ。

ちなみに日本の供託金は諸外国に比べて高すぎるとの指摘も多い。供託金が違憲だとして2016年に国を訴えた弁護団によると、経済協力開発機構(OECD)加盟の35カ国(当時)のうち、アメリカやフランスなど23カ国は供託金制度がなかったという。制度がある国でも数万円から10万円程度の国が多く、日本が最高額だった。

選挙事務所・人件費・広報物の印刷費や広告費…

ただ、供託金が高いとはいえ、主要政党の候補は大体戻ってくるし、政党側が用意することも多いので現状、そこまで立候補の足かせとなっていることはない。それよりも大きいのは選挙事務所の家賃やウグイス嬢などの人件費、広報物の印刷費や広告費などだ。

例えば北海道がインターネットで公表している「選挙運動に関する収支報告書要旨」によると、北海道選挙区で2019年に初当選した自民党新人候補の支出は多い順に広告費565万円、印刷費558万円、休泊日411万円、人件費349万円、家屋費287万円などを計上しており、総額は2451万円にのぼる。ただ、このうち政見放送のための録画費やポスター・ビラの作成費など818万円分は公費で賄われるため、実質負担は1830万円となっている。

支出の1830万円のうち、1650万円は自民党の政党支部からの寄付。残り180万円は個人からの寄付で賄ったとしている。

これだけ見ると「本人は1円も払っていないじゃないか」と思われるかもしれないが、この収支報告書はいわゆる“選挙期間中”に限ったもの。実際には遅くとも半年前には実質的な選挙活動が始まっており、その間にかかった費用は含まれていない。選挙事務所は選挙の数カ月前から開設するのが常識だし、選挙カーも選挙の数カ月前から見かけるようになるだろう。駅前で配っているビラの印刷代も、町で見かけるポスターも、すべて選挙費用とは別に用意しなければならない。

大政党からの候補者は資金にあまり困らない

この候補者に関連する2019年の政治資金収支報告書を調べると、政党支部の支出総額が9447万円で、後援会の支出総額が2469万円。政党支部の収入の元は自民党本部からの交付金4300万円や国政報告会の会費194万円、個人献金700万円、企業献金2713万円、団体献金532万円などで、後援会の収入の元はパーティー券収入640万円と各種団体や政党支部からの寄付2024万円など。それでも足りない分なのか、候補者本人が政党支部に1300万円を貸し付けている。これが実質的な本人の負担分だ。

同じく2019年に北海道選挙区で初当選した立憲民主党の新人候補の収支報告によると、支出合計は公費負担を除いて1407万円。このうち1385万円が政党本部や北海道連、支部からの寄付。残り22万円は団体からの寄付で賄っている。

2019年の政治資金収支報告書を見ると、政党支部の支出は1592万円で、政治資金管理団体の支出は490万円。収入は大部分が政党からの寄付で、他にはパーティー券収入として500万円を計上している程度だ。こちらは本人が負担した形跡はない。

ここで挙げた2人は新人候補なので党からの支援が大半だが、ベテランになると様相が異なる。同じ選挙で北海道選挙区から初当選した自民党候補は新人ながら元知事の知名度を生かし、1回のパーティーで1841万円の収入を得ている。同じ選挙で東京選挙区から4度目の当選を果たした自民党議員は支援団体から1年で4100万円の寄付を受けた。選挙資金にも普段の政治活動の資金にも困ることがないだろう。

多額の税金が投入される選挙を見過ごしますか?

ここまで紹介したのは大政党の話。2019年の参院選北海道選挙区で、最も選挙活動資金が少なかった候補の支出はわずか8万2074円。すべて広告費だという。恐らくポスターもはらず、選挙カーも作らず、事務所も構えなかったのだろう。それでも9人中6番目の投票を得ている。

多額のお金がかかると言われる選挙。でも実は中身を見ると本人がすべて払っているわけではなく、政党を通じた政党交付金や、支援者や団体からの寄付で支えられている。政党交付金の元は国民の税金。一人でも多くの有権者が注目しないと、せっかく税金を使って選挙をやる意義が薄れてしまう。