支持率低迷の岸田内閣 安倍元首相国葬、国論二分の理由を振り返る

2022.11.17

政治

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支持率低迷の岸田内閣 安倍元首相国葬、国論二分の理由を振り返る

写真:ロイター/アフロ

7月に亡くなった安倍晋三元首相の国葬が9月27日、東京・千代田の日本武道館で執り行われた。国内外から約4000人が参列し、一般向けの献花台にも市民による長蛇の列ができる一方、武道館周辺など各地で国葬反対派によるデモが行われた。なぜ、国葬の是非をめぐって国論が二分されたのか。岸田政権の目論見が外れた理由とは。支持率低迷のきっかけとなった安倍元首相国葬の背景を振り返る。

岸田首相はなぜ「国葬」にこだわったのか

「あなたが敷いた土台の上に、持続的で、全ての人が輝く包摂的な日本を、地域を、世界を作っていくことを誓う。安倍さん、安倍総理。お疲れ様でした。そして、本当にありがとうございました」

厳かな空気が漂う日本武道館で、岸田文雄首相は追悼の辞をこう締めくくった。

国葬には海外からアメリカのハリス副大統領やインドのモディ首相ら現職の首脳級35人を含む約700人が参列。会場近くに設けられた一般向けの献花台には2万5889人が列を作ったという。一方で、会場周辺では献花に訪れた人と反対派による乱闘も起きた。

安倍氏が参院選の応援演説中に奈良県で銃撃され、死去したのは7月8日。岸田首相はその6日後に国葬を行うと表明した。当初は世論にも賛成の声が多かったが、国葬の判断基準があいまいなことなどへの批判が増加。反対派が徐々に優勢となり、報道機関の世論調査では軒並み反対が過半数を超えた。日本経済新聞とテレビ東京の調査では7月末には反対が47%だったが、9月中旬では13%増の60%にのぼった。

政策への評価は分かれるにせよ、歴代最長政権を担った元首相の死を多くの国民が悼んでいるのは間違いない。それにもかかわらず、国葬への反対論が日増しに強まったのはなぜか。そこには3つの理由がある。

閣議決定による実施

1つ目の理由は決定プロセスの不透明さだ。首相経験者の国葬は戦後、1967年に亡くなった吉田茂元首相ただ一人。1975年に佐藤栄作元首相が亡くなった際もノーベル平和賞を受賞した経歴などを勘案して国葬が検討されたが、根拠となる法律が無いことなどが問題視され政府と自民党、国民有志の主催による「国民葬」となった。それ以降は1980年の大平正芳元首相から2020年の中曽根康弘元首相まで、ほぼ内閣と自民党による合同葬の形式がとられている。

しかし、首相は国葬にこだわり、憲法や法律の解釈を担う内閣法制局と協議を重ねて「閣議決定による国葬の実施」という半ば強引な解釈を生み出した。その間、野党や国会と協議や相談、報告することはなかった。ちなみに吉田茂氏の国葬の際は、当時首相だった佐藤栄作氏が野党に根回ししたとされる。

世論から批判も参考にせず

2つ目の理由は岸田首相の人気の源泉である「聞く力」が発揮されなかったことだ。岸田首相は安倍元首相や菅義偉前首相の政治スタイルと異なり、丁寧に説明し、時には世論を踏まえて判断を変える柔軟性が支持されてきた。NHKの世論調査で政権発足直後、49%だった内閣支持率はその後、徐々に上昇。2022年に入ってからは50%台半ばから後半で推移していた。政権発足時は「ご祝儀相場」となるのが通例で、そこから支持率が上がっていくのは異例だ。

しかし、国葬をめぐる議論では一切、結論を変えることがなかった。「説明不足」との批判を受けて国会の閉会中審査に出席。安倍氏が歴代最長政権を担ったこと、内政や外交で大きな実績を残したこと、国際社会からの高い評価を得たこと、蛮行による死去に国内外から哀悼の意など4つの理由を挙げて「国葬儀を執り行うことが適切だと判断した」と述べたが、「丁寧な説明」ではなく「丁寧な繰り返し」と揶揄された。結果的に支持率は40%まで急落し、急増した「支持しない」の40%と並んだ。国葬後に行われた朝日新聞や読売新聞の調査では初めて支持率を不支持率が逆転した。

国民の声に向き合おうとしない姿勢は自民党幹部も同じだ。自民党の茂木敏充幹事長は記者会見で「国民から国葬にすることについて『いかがなものか』という指摘があるとは認識していない。野党の主張は国民の声や認識とはかなりずれているのではないか」と発言。すでに世論から批判の声が出ていたにもかかわらず、全く無視するような発言に、国葬への反対論を勢いづかせた。

旧統一会協会問題の対応不備

3つ目にして最大の理由は自民党の「旧統一教会問題」への向き合い方だ。安倍元首相の銃撃事件を機に、犯行の動機となった世界平和統一家庭連合、旧統一教会が再び世間の耳目を集めるようになった。旧統一教会と安倍氏や現職閣僚らとの関係が次々と明らかになるなか、福田達夫総務会長(当時)は薄ら笑いを浮かべて「何が問題かよくわからない」と言い放ち、世間の猛烈な批判を浴びた。

政府・自民党は批判を受けて渋々閣僚や所属議員の調査に乗り出したが、問題発覚のきっかけとなった安倍氏については「お亡くなりになった今、確認するには限界がある」(岸田首相)として対象外に。調査結果を発表後も続々と議員と旧統一教会との接点が明らかとなっている。

首相は事態打開に向けて内閣改造・自民党人事を前倒しで実施。首相は「(旧統一教会との)関係を厳正に見直すよう厳命し、了解した者のみを任命した」と強調したが、新たな閣僚や政権幹部にも続々と旧統一教会との接点が見つかり、10月24日には中でも接点が多く発覚した山際大志郎経済再生担当相を事実上、更迭した。

「国葬」と「旧統一教会」は別問題だが、安倍元首相の死去という事実でつながっている。結果的に自民党と旧統一教会との問題への批判は国葬への批判に直結した。

保守派への配慮で党内基盤を固め、弔問外交で政権浮揚につなげる――。岸田首相の目論見は不発に終わり、10月3日に召集された臨時国会で野党の集中砲火を浴びている。