生きていくことと、働くことは同義語だ。一部の富裕層ならいざ知らず、普通の人たちは働かずに生きることはできない。働き方の多様化が進みつつある昨今、人生の大半の時間を費やす仕事において、僕らはどんな働き方をするべきなのか? 「年収1億円シリーズ」で知られるファイナンシャルプランナー・江上治が、本連載を通してその答えを導く。
やりたいことと稼ぐことはかみ合わない
このたび、電子雑誌で連載をすることになりました。自慢じゃありませんが、私は社員が背負った5000万円の借金を、5年かけて全額返済させたことがあります。その社員は、私を除けば今やうちの稼ぎ頭。本連載では、そのノウハウを提供していきたいと思います。でも、稼ぎ方を教えるわけではありません。どうやって働くか、です。
何で生計を立てるかを決めるとき、ほとんどの人ができないのが、能力と感情のマトリックスというものです。自分がやりたいことで、かつ能力的にも社会が評価できるというのが一番幸せだと思いますが、そんなケースは稀です。
やりたいことだけ追求するというのは、見方によってはわがままですよね。芸術家みたいなものです。お金にならないことを覚悟したほうがいい。多くの場合、やりたいことと稼げることはほとんどかみ合わないので。でも世の中、自分がやりたいことでお金持ちになりたいという虫のいい人が多い。好きなことをやるのだったらお金はあきらめなきゃいけないのに……。稼ごうと思ったら、自分がやりたいことではなくて、”人に評価されること”をやらなければならないのです。
自分の能力を生かす仕事を選ぶ
プロ野球選手とかがわかりやすい。彼らは小さいときから野球をやっていて、それで評価されてドラフトとかに指名されます。評価されることをずっとやっているからプロになれるわけで、これが一般のビジネスマンとなるとわからないですよね。
サラリーマンの例でいうと、友達から「人に気遣いができる」と言われたら、その人はサービス業に向いているのかもしれませんが、ほとんどそういうことがわからずに面接を受けてしまうので、学歴とかワンパターンなことでアピールしてしまう。評価される自分がわかっていれば、職業選択はもちろん、(入るべき)会社の部署もわかるはずなんです。
だから、入社して最初の3年間くらいは、自分が評価されることを探したほうがいい。それには毎日記録することが大事。上司やお客さんに褒められたこと、認められたことを記録するのです。そうすれば知らず知らず、自分の武器ができていきます。
その人が能力を発揮するかどうかは、結局、自己肯定感だと思うのです。自分が人から認められているとか、そこがすごく大事。自分を信じる力だと思う。それが40、50歳になってもない人が多すぎる!
私のところを訪ねる経営者に、「オレの料理がうまい!」という方がいて、でも全然客が入っていないわけです。評価というのは他者がすること。彼は「オレの料理がうまい」と思い込んでいる。こういう能力と感情の評価がズレている人は不幸です。
でも世間的にはよくあることで、自分が思っている自分と、人や社会から見られている自分はズレていることは多い。だから記録して、それを明らかにする。書き出すとよく見えるので、私は今でも毎日記録しています。
仕事はあとから好きになる
感情というのは評価されると変わると思います。ほとんどの人間の感情というのは、「マズローの5欲求」のように、まず生理的欲求があって、安定の欲求があって、最後に自己実現が来ますが、「承認の欲求」っていうのも手前にある。人から承認されると、それ自体を好きになるんです。
例の借金5000万円を完済した社員。彼女は今、マネー・セミナー講師をやっているのですが、返済計画を考えていた当時、普通の仕事をやっていてもとても返せないから、1対100という規模で多数の人の面談をできる講師になれって言ったんです。ところが彼女は最初、「私、人前で話すのはいやです」と拒否していた。でも今では、テレビや雑誌にも出ています。SNSでもテレビに取り上げられたことを紹介していたり、どうやらうれしく思っているみたいです。
ね? 人ってそんなものなんじゃないかと思います。食わず嫌いは損をする……というか、自分の可能性を狭めることがあります。やったことがないことでも、人に認められると、「やりたい」とか「もっと頑張りたい」とか思うようになる。自分に合った働き方を見つけるには、その階段を一つひとつ上がっていくしかないと思います。