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経済

株主提案通過で旧村上ファンド勢に軍配 黒田電気の新任役員・安延申氏が抱くある懸念

2017年07月12日
読了時間: 04分00秒

文:編集長 佐藤尊徳

6月29日に行われた電子部品商社・黒田電気(東証一部)の株主総会で、旧村上ファンドの関係者が運営する投資会社、レノ の株主提案が通り、社外役員1名が選出された。会社側は、この株主提案に反対を表明していたためプロキシーファイトになったのだが、レノ側に軍配が上がった格好だ。会社側が反対表明をした株主提案が通るのは、日本では8年ぶりという異例な状況だ。社外役員に選出された安延申氏に背景を聞いた。

株主提案によるマイノリティーの社外取締役選出は国内初

旧村上ファンドの創始者・村上世彰氏とは20年弱の付き合いだが、私情は別にして、この件で肩を持つということは無い。黒田電気の筆頭株主で村上氏の長女・絢氏にも考えを聞いた上で、あくまで経済ジャーナリストとして公平に判断しようと思っている。

8年前のアデランスの経営をめぐるプロキシ―ファイトでは、米系投資ファンドのスティール・パートナーズの提案に会社側が負け、過半数の役員を送り込まれた。今回の黒田電気の場合は、社外役員を1人だけ選任するというものだから、会社の支配権を取ろうというものでもなく、そういう意味では日本で初めての事例ということになるかもしれない。

もともとレノ側は株主提案ではなく、会社提案でこの事案を出してはどうかと打診していたようだが、結局跳ね返され、やむなく株主提案として出したというものだ。

だいたい会社側がこの提案を受け入れなかったのは理解に苦しむ。反対の理由は、「一部株主の要求を飲んだら、他の株主価値を毀損する」というものだったようだ。

過半数の役員を提案したわけでもあるまいし、しかも、社外役員に選任されたのは、元通産官僚で村上氏の先輩ではあるが、一部上場企業の社長まで経験した安延申氏。安延氏とは僕も15年以上の付き合いをしているが、良識を持ち、非常に優れた人物だ。レノだけの利益を図るような人ではないし、僕が聞いてもそのように答えている。

こう言っては何だが、2年前に3200億円(2015年3月期連結)あった売上げを2300億円(2017年3月期連結)に減らしてしまった役員たちよりよっぽどましだ。いけしゃあしゃあと居残っている方が恥ずかしい。

黒田電気が探られたくない腹の内

2年前の臨時株主総会で、レノ側が4人の取締役を選任する提案をしたときには、4対6で会社側が勝利。そのとき、レノ側は2割弱しか株式を所有していなかったにもかかわらず、僅差の勝負だったのだ。

現在の黒田電気は絢氏が筆頭株主で、レノ側寄りの株主は40%弱を占める。最近の業績が芳しくないことや、2年前よりずっと緩い提案ということを考えても、プロキシーファイトになれば、会社側が負けることは必至だった。

常識的に考えて、会社はレノと手を組んで企業価値を高めることの方が得策だと思えるのだが。何かよっぽど知られたくないことでもあるのではないかと勘繰りたくなる。

僕は早速旧知の間柄である安延氏と会い、話を聞いた。

「今回の結果を受けて、株主の多数が、今のままの経営ではダメだと感じていて、今後は新任役員(自分)と手を携えて経営改革に臨むべきだ、という意思表示をした、と黒田電気の経営陣が思えればいいのですが、そう思わなかった場合は、取締役会で6対1になるわけで、僕の提案がすべて否決されることもあり得ます」(安延氏)

株主総会以降、コンプライアンス上も問題になるので、レノ側とは連絡もしてしないという安延氏は、黒田電気の社長とも会えていないそうだ(7月5日現在)。これから一緒に経営をしていこうという新任役員と、真っ先に会って話をするのが普通だと思うのだが。

知り合いの記者たちに聞いたら、会社側に取材の申込みをしても、社長はおろか、IR担当者さえ会わない始末だという。上場企業として考えられない。逃げ回っているとしか思えない。これを読んで僕に連絡をくれたら、いくらでもその主張を掲載するのだが、こんな経営者ではまず無理だろう。

安延氏が今回レノ側の主張に賛同した理由は3点。[1]M&Aを使って事業の成長を図るべきということ。[2]2年前の捏造事件から、コンプライアンスの向上がまだまだ不十分ということ。[3]フリーキャッシュが十分あり、投資分を除いてもまだ余るので、自社株買いをして株主還元をしたらどうか、という点。

いずれも特定株主の利益に偏る提案とは思えないので、会社側が反対した理由はやはりよくわからない。しかも、会社提案にしておけば、この3点は表に出す必要がなかったので、株主へのコミットにする必要もなく、内部で粛々と進めることができたはず。

旧村上ファンドの提案は、それでも否決されるとでも思っていたのだろうか。甘過ぎる。逃げ回っている経営陣が、これからどのような経営方針でいくのか見ものである。

佐藤尊徳プロフィール佐藤尊德(さとうそんとく) 1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年、経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌「経済界」の編集長も務める。2013年、22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌「政経電論」を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の"信念の貫き方"』(双葉社)。
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