写真/芹澤裕介 文/編集部

政治

【お笑いジャーナリスト たかまつなな×佐藤尊徳】選挙で投票しない20・30代の皆さん、早く起きてください

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日本の投票率が激しく低い。全体で約50%、20代に至っては3分の2が投票に行かないご時世だ。民主主義は多くの国民の意見を反映するための仕組みのはずなのに、こんな状況で民主主義と言えるのだろうか。お笑いを通して社会問題の大切さを伝えようと活動するたかまつななと尊徳編集長が、若者が政治参加しない日本の未来を語る対談。

株式会社損得舎 代表取締役社長/「政経電論」編集長

佐藤尊徳 さとう そんとく

1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年、経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌「経済界」の編集長も務める。2013年、22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌「政経電論」を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の”信念の貫き方”』(双葉社)。

Twitter:@SonsonSugar

ブログ:https://seikeidenron.jp/blog/sontokublog/

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 お笑いジャーナリスト

たかまつなな たかまつなな

1993年7月5日生まれ。新宿を開拓した先祖を持つ名家に生まれる。フェリス女学院中高卒。2016年、慶應義塾大学卒。現在、慶應大学大学院、東京大学大学院情報学環教育部の2校に在学。2013年に「ワラチャン!U-20お笑い日本一決定戦」(日テレ系)で優勝。お笑いジャーナリスト、お嬢様芸人、株式会社笑下村塾取締役。

たかまつななオフィシャルサイト

Twitter:@nanatakamatsu

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お嬢様がなぜ政治や社会問題を発信するのか

尊徳 著書『政治の絵本』(弘文堂)を読みました。たかまつさんは、なぜ、お笑いで社会問題を発信しようと思ったんですか?

たかまつ 18歳選挙権が大きなきっかけです。私が23年間生きてきた中で、昨年が一番、若者と政治をどうしようということが議論されていました。これで高校生や私たち若者向けた政治コンテンツがたくさん出てくると思ってめちゃくちゃ楽しみにしていたんですよ。

でも、いざ18歳選挙権の解禁が近づいても、そういったものは出てきませんでした。テレビを見ていても、現役高校生をキャスティングしておけばいいみたいな雰囲気で、それは違うんじゃないかと思いました。

待っていたら何十年先になるかしれないと思って、それで自分で会社を設立して、いろんな学校を回り始めたんです。

たかまつ

尊徳 商売としてやるならわかるんだけどね、たかまつさんはお嬢様でしょう? ご自身の意義って何なんだろう。

たかまつ 政治や社会問題に興味を持ったのは小学生4年生のときです。アルピニスト・野口健さんが富士山でやる環境学校に参加して、ゴミの不法投棄を知ったのがきっかけでした。そこで目の当たりにした光景にショックを受けて、子どもなりにも”伝えなきゃ”って思ったんです。

それから伝える方法をずっと模索して、学校新聞や新聞社の子ども記者もやりましたが、反響があるのは親世代ばかりで同級生は無反応。たびたびショックを受けていました。

そんなときに『憲法九条を世界遺産に』(集英社新書)という本に出合いました。そこで爆笑問題の太田(光)さんが、憲法についてめちゃくちゃ面白い話をしていたんです。「お笑い」というのは伝える手段としてありだなと思って、お笑い芸人になりました。

尊徳 ということはお笑い芸人は”手段”であって、あくまで社会問題を伝えて社会を変えたいという思いが先にあるんだね。

たかまつ 社会を変える方法はいろいろあると思います。優秀すぎる人は、「何でこの人は理解できないのか」と感じて落とし込めないと思いますが、私はフェリス女学院で自分自身が落ちこぼれという経験もありましたし、勉強できない人の気持ちもわかる。ですので、私としては興味の無い人に伝えることが、一番できることだと思います。

尊徳 僕も小さい頃から政治を変えたいと思ってきた。とにかく既得権を壊したいんだよ。一銭の足しにもならないこともあるけど、僕もやりたいから「政経電論」やっているわけで、政治を伝えようと活動しているたかまつさんのような方は応援したいと思っています。

たかまつ ありがとうございます。

尊徳

興味の無い人に伝えるには”楽しい”が大事

尊徳 たかまつさんは、いろんな学校に行って授業をされて、投票率84%にしたということもあると聞いています。それまで政治に興味のなかった学生たちは、どのように変化すると感じましたか?

たかまつ 学生が政治と距離を置くのは、自分と関係が無いと思っていたり、触れてはいけないような社会的なムードもあると思いますが、一番多い理由は”難しい”からです。逆に、難しい言葉を使わなければわかるんですよ。

例えば「国民主権」という言葉については小学校で学びますが、そのときにどういう意味か理解している子ってほぼゼロに近いのではないかと思います。だから私は”体感”を大事にしていて、授業をワークショップ形式にしたりとか、難しい言葉を使わないということを、一番気をつけています。それと楽しく学べることも大事。

尊徳 例えばどういうこと? 今の学生は何を楽しいと思うのかな。

たかまつ 「人狼ゲーム」という今の高校生のほとんどがやったことがあるゲームをちょっと改良して、「悪い政治家を見抜く人狼ゲーム」というのを作りました。内容はディベートゲームとそんなに変わりません。でも、普段の国語の授業より”楽しい”のが違う。

普通、ディベートゲームをやると、しゃべれる子としゃべれない子に分かれてしまうのですが、この人狼ゲームの要素があるとみんなしゃべれるようになります。政策についての知識が無い子も「あの人は怪しい」とかは言えるのです。

そうやって駆け引きをしてゲームをするうちに、”政治について話すのは楽しいね”という感覚になる。それがすごく大事だと思います。あと、モヤモヤのようなものを残すようにはしています。

たかまつ

日本人はディベート力を身に着けないとダメ

尊徳 若者に政治や社会問題を伝えることで、将来的には何を目指しているの?

たかまつ 今、メディアと政治家の質が悪いと言われていますが、それは国民の質が悪いと言っていることと同じ。どちらが先かわかりませんが、私は国民にリーチすることをやろうとしています。

私のプログラムは、政治だけでなく国際協力やキャリア教育などもやっていますが、一番は社会問題全般に興味を持ってほしい、というのがあります。

尊徳 いろんなことを知って、自分の可能性を広めていったら、みんなが幸福になるし心が豊かになると。

たかまつ そうです、知らないと何も進まないと思います。いろんな立場の人の考え方を知るというのが大事。まず正しく理解して、相手の立場に立たなければ建設的な議論はできません。

それは社会問題だけの話ではなく、会社の上司との関係や恋愛においても同じ。ディベートができない日本人がその考え方を身に着けるというのは、個人にとっても社会全体にとっても必要なことだと思います。

たかまつ

若者が投票すれば政治はもっと良くなる

尊徳 日本は先生も一方的に授業をするから、学生が自分の意見を主張することもない。でも、いろんな人の意見を理解するためには、まず先に自分が意見を持たないといけないんだよね。

間接民主制の日本では、投票することが意見を言うことになるわけだけど、そういう教育を受けていたら投票しようというきは起きないよな。でも、自分の一票は何万分の一、何十万分の一かもしれないけど、ゼロよりは全然大きい。それが集まれば政権交代だって起こるんだから意味無くなんかない。みんながそういう意識を持ってほしい。

みんなが投票するようになれば、政治家も本当に全体最適を考えなければ当選できないようになるからね。今はシルバー世代に強いし、そっちに傾いている。若い人向けの政策なんて票にならないなんてことを平気で言う政治家がいるくらいだから。

尊徳

たかまつ たぶん9割の政治家の方がそう思っているでしょうね。

尊徳 僕の知り合いの1回生議員なんかは、年末になると地元に帰って200~300件くらいの宴会に行く。とても大変だ。でもそれが3回生くらいになると、本人ではなくて秘書が行ってもOK。さらに5回生くらいになると電報でOKになる。

そうやって楽になってくると、それまで変えようと頑張ってきた政治家が既得権側になって、変えようとしなくなるのを見てきた。だから、有権者は監視しなければいけないし、政治家も有権者に送り出されるような人物にならなければならないよね。

政治を伝えるには政治家よりもお笑い芸人がいい

たかまつ 私はこういう活動をしているので「政治家になるんでしょ?」とよく言われるのですが、まったくその気はありません。それは、政治家として政治を変えるよりも、お笑い芸人として政治を発信して変えるほうが世の中を動かせると思うからです。

政治家として何かを変えようと思ったら、ときにはバカになったり、交渉したり、相当大変だと思うんです。それよりも、国民側から論点を整理したり、問題提起したり、解決策を提示したりしたほうがいい。それはある種メディアの役割でもあると思うのですが、今は果たし切れていないので、私がしたいと思っています。

たかまつ

尊徳 政治家は国民の鏡だから、国民のレベルによって政治家のレベルが決まる。国民が声を上げなければ政治家に好き勝手にやられてしまう。まずは国民を変えていかないと政治も変わっていかないよ。

たかまつ 私自身がメディアになることはすごく意義があると思っているんです。だから芸人としてももっと有名になりたいと思っていますし、自分が動くことで目を向けてもらえることを目標としています。

尊徳 日本は文科省が政治的な中立を標榜していて、政治的なポリシーに関する植え付けを避けているから制度的なことしか教えないけど、たかまつさん自身はどんな政治的ポリシーを持っているんですか。

たかまつ 右にも左にも振れるのが人間本来の姿だと思います。まったく支持できない考えを持っている人ってそんなにいなんじゃないかと。

政治ってトレードオフじゃないですか。共産党が言っていることも正しいかもしれないし、民進党だって維新の党だって自民党だって正しいかもしれないというなかで、どこをどのくらいの比重でやっていくのかが民主主義。多数決が絶対ではありますが、その前の話し合いや調整がすごく大事だと思います。

たかまつ

尊徳 中には、意見がずれているどころか、聞く耳を持っていない人たちもいる。まったくかみ合わないそういう人たちとは話もしたくないし、自分の労力を使いたくないけどね。

たかまつ 実は私も同じ考えを持っているんです。高校生のときに平和大使というのをやっていまして、核兵器廃絶を求めて署名を集めて、それを国連に持っていくという活動なんですが、私の年に東日本大震災原発事故が起こりました。

そこから、その団体が原発を無くす活動もしはじめたんです。でもそれはイコールではないしちょっと違うんじゃないかと思って、無くす方法や代替エネルギーはどうするのかという話をしたら、「核兵器を容認するのか!」とすごい反発されて。

「これは正しい」と思い込んでしまっているんですね。そこで学んだのは、世の中を変えようと思っているよりも、同じ考えの人で集まって内輪で楽しんでいることが多いということです。

同じ環境を守る団体でも、野鳥を守る会と富士山を守る会では考え方が全然違う。本当は一緒になって伝えていかなければいけないのに、SEALDsとか同世代の人たちを見ても、今の日本の体制では難しいのだなと感じました。

何も知らないから、目の前にある政治的な旗印を見つけていいと思ったら、それが100%正しいと思ってしまう。そうなったらほかの旗印を見ても批判的になってしまうんです。

だから変な思想とか宗教にだまされないためにも、何が正しくて正しくないかを読み取る能力が必要。そういう意味では、大人になってからでは遅いと思っているので、教育で、若い人から変えていこうと思っています。

たかまつ・尊徳

下からの押し上げで政治的意識が芽生えるかも?

尊徳 選挙で投票しない世代は政治的なものに無関心なように見えて、知識が無い分、実は影響されやすくもあるのかもしれない。でも、こちらがいくら伝えようとしても行動に移さない人たちは必ずいて、その人たちには何を言っても無駄だと思うけどね。

たかまつ 20代も大きな政治的なイシューがあれば投票率は上がると思います。でもそれがすぐに起こるかといったら可能性は低い。

それよりも、10代の投票率が上がったらほかの世代は危機感を持つはずです。子どもが帰ってきて「お母さん選挙行った?」と言ったらちょっと焦ると思うんですよ(笑)。

教育が一番平等に与えられた機会だし、学校の先生が負担にならないようにシステム化することが大事だと思います。私のようなお笑い芸人が行けば、先生が教材を開発する必要もありません。

尊徳 僕もたかまつさんのことを応援していきたいと思うけど、今後はどういうふうにやっていくつもり?

たかまつ 「笑える!使える!政治教育ショー」は、計算上、芸人さん100人が出張したら1年間で200万人に授業できます。18歳、19歳の親有権者をほとんどカバーできるので、社会的なムーブメントになると思うのです。なので私がすべきなのは芸人さんたちを巻き込むこと。それに全力を注ぎたいと思います。

そうやって政治ショーが稼げるようになったら、ほかの企業が本気で参入して面白い教材がいっぱい出てくるでしょうし、そうなったら勝ちですよね。私の恋愛する時間もとれるなと思います(笑)。