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パレスチナ問題を地方創生の視点で考えて見えてきた可能性

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2016年8月上旬、衆議院の内閣委員会理事として中東にITやサイバーセキュリティーに関する視察に訪れた平議員。ドバイをはじめ、IT立国のモーリシャスやキプロスなどを巡りましたが、イスラエルで豊かな観光資源やパレスチナ問題に触れた際、地方創生の次の可能性を見たといいます。

ベンチャースピリットにあふれた国、イスラエル

地中海東岸に面した中東の国・イスラエルには、あまり知られていませんが、魅力的なスタートアップ企業がたくさんあります。自動ブレーキや自動運転など、ドイツや日本のグローバル自動車メーカーが導入している自動走行技術を手掛けるモービルアイや、霞が関では最もシェアが高いと推測されるサイバーセキュリティソフトを開発するチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズも、もともとはイスラエルの企業です。

スタートアップが盛んな理由はいくつかありますが、一番は「軍事技術の転用」です。例えば、カプセル内視鏡で腸の検査をする技術を持つベンチャー企業がイスラエルにありますが、あれはミサイルの誘導技術を応用しているんです。インターネットやGPSが軍事技術から転用され、さまざまなベンチャーを生み出したアメリカに似ています。

イスラエルは男女ともに兵役があり、優秀な学生たちも卒業すると軍隊に入ることになるのですが、そこで軍事技術研究に参画した彼らは、兵役後にその技術を基に起業したりします。ベンチャーキャピタルのバーテックスなどもありますし、軍もスタートアップに向けて技術を使いやすく配慮しているようで、起業しやすい環境が整っているのです。

2つ目は「失敗に寛容なこと」。むしろ失敗してもキャリアが増すという考え方ですね。
3つ目は「環境」。周辺にはイスラエルと友好的ではない国が多くあるので、常に新しいことに取り組んで、技術的に有利を保っていないと、将来的にどうなるかわからないという不安があることも、新たな挑戦をするモチベーションにつながっていると思います。

豊かな観光資源とパレスチナ問題

そんなイスラエルですが、パレスチナ問題が示すように、地理的・歴史的・宗教的にも重要拠点だったこともあり、今でも周りのアラブの国々と緊張関係にあります。ヨルダン川西岸を統治しているパレスチナ自治政府(アッバス大統領)は、この問題を平和的に解決するスタンスを明らかにしているため、国際社会からもさまざまな協力を得ています。

一方、イスラム原理主義ハマスが治めるガザ地区からはミサイルが飛んで来たり、逆にイスラエルが報復と称して空爆したりと緊迫した関係が続いているようです。歴史的にも大変根の深い話で、一朝一夕で解決できる問題ではありません。

今回、エルサレムにも行きました。ユダヤ教の聖地でもある「嘆きの壁」という4000年前の神殿の壁が残っていて、触っているだけでユダヤ教徒でもない私ですが、その歴史の重さに涙が出てきます。また、今回は行くことができませんでしたが、「嘆きの壁」のすぐ上にはイスラム教の第3の聖地である「岩のドーム」があります。

そしてそれらのすぐ近く、キリストが十字架に磔にされた「ゴルゴタの丘」のあった場所といわれるところにキリストの墓とされる「聖墳墓教会」もあります。ユダヤ教の4000年の歴史とキリスト教の2000年の歴史、そしてイスラム教の歴史的な場所が揃っている世界最強の”パワースポット”と言えるのではないでしょうか。

平2パワースポット[1]:ユダヤ教で最も神聖だったといわれるエルサレム神殿の現存する外壁「嘆きの壁」。

平3パワースポット[2]:「ゴルゴタの丘」のあった場所といわれるところに建つ「聖墳墓教会」。

パレスチナにも足を延ばしました。死海から見るヨルダンの対岸の景色は、モーゼの時代から変わってないんだろうなと思える風景で感動的です。また、死海の泥は高級なエステのパック原料ともなっていて、多くの観光客が死海の底の泥をすくって体に塗りつけていました。こちらもかなり強力な”癒しスポット”です。

現在、イスラエルがエルサレムなどを占領していて、パレスチナとの交渉をどのように決着させるのかという難しい問題があります。一方で、お互いの経済が良くなることについては反対しない立場のように思えます。

事実、パレスチナ自治区に日本に援助で整備しているジェリコ農業加工団地を、イスラエルもヨルダン以西の輸出拠点に活用しようと考えているようです。また、パレスチナ自治区の経済が好転し、雇用も増えればテロのリスクも低減する可能性があります。

イスラエル占領地のエルサレム旧市街に最強の”パワースポット”があり、パレスチナ自治区側にも最強の”癒しスポット”がある。短い滞在でしたが、2つの地域を回り感動的な体験の連続で、一生に一度は行くべき場所との思いを強く持ちました。地方創生の政策を担当してきた視点から言えば、この2つの地域が連携し、共同の”デスティネーションキャンペーン”ができればどれだけ両国経済に効果的だろうと思いました。

平4アッバス・パレスチナ自治政府大統領と会談する平氏。地方創生の政策も踏まえて、パレスチナの経済発展の具体策について意見交換を行った。

地方創生のノウハウで経済的活性化を提案

日本国内のデスティネーションキャンペーンでも、例えば瀬戸内海を囲む形でのインバウンドのゴールデンルートをつくる際に、周辺県同士(広島や岡山など)の連携がうまく取れていたとは思えません。地方創生の取り組みのなかで連携が強化されてきたと認識しています。大事なことは、ビジョンを共有し、それぞれが待つ魅力の掛け算で相乗効果を生み出していくことです。

広島と岡山の関係をイスラエルとパレスチナに当てはめるのはかなり無理があるのは承知の上ですが、政策的には同じことが言えます。両国は緊張関係にありますが、双方の経済的発展を共通の利益とし、連携してデスティネーションキャンペーンができないだろうか? それらのスポットを点から線につなぎ、線から面にしていく。宿泊施設や飲食店、安全な交通手段、体験型の観光オプションなどを整え、さらに地産地消の仕組みをビルドインし、地域にお金が落ちる生態系を整えていく。まさに地方創生のノウハウです。

イスラエルの日本大使館やパレスチナの日本事務所の経済支援担当者には、日本の海外における経済支援に「地方創生」の政策のノウハウも活用するように具体的な指示を残してきました。

変わらないかもしれない、でも、変わるかもしれない

このような提案をイスラエルやパレスチナにするのは恐らく日本だけでしょう。平和ボケと言われるかもしれません。大変困難なことは百も承知ですが、もし両国が協力し合って、共同のデスティネーションキャンペーンが実現し、両国の経済(特にパレスチナ側)が活性化することができれば、膠着して展望が開けないパレスチナ問題に新たな可能性が見えてくるかもしれません。日本は、日本が貢献できること、日本しか貢献できないことを地道に取り組んでいくのが良いのではないでしょうか。

直接的な国益は無いが、長期的にはプラス

 

イスラエルとパレスチナに観光資源で手を組ませることによる日本としての国益は?と平議員に聞いたら、「直接的には何もないかもしれないが、それで紛争が無くなっていけば、世界的にはプラスだし、日本という国が尊敬される」と答えた平氏。

遠い中東の国は日本にとって他人事のような感覚もあろう。しかし、紛争はどこの国でもあるし、テロの脅威などは無視できない。もし、このような観光資源の協調開発が具現化して2国間が融和するようなことになれば、他の地域でも同じようなことができる。

治安が安定すれば日本からの直行便もできて、観光客も増えるかもしれない。日本国内の活性化のために作られた地方創生のノウハウを国際平和のために使えるなら、こんなにうれしい活用法もないだろう。