ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任したとき、すでにこうなることが運命づけられていたのかもしれない。2018年から行われてきた関税引き上げ合戦の末、アメリカは中国からの輸入品すべてに25%の関税をかける措置をとることになった。「モノ」の争いはもうすぐ終わり、このままいくと「マネー」の領域に踏み込むことになる。そのとき世界経済はどうなるか。
国の威信を賭けたチキンレース
トランプ米政権は5月13日、対中国の制裁関税「第4弾」を発表した。中国からの輸入品すべて、約3000億ドル(約33兆円)分に最大25%の関税を課す計画で、産業界の意見を聴取した後、6月末以降に発動する方針だ。一方、中国も同日、対抗措置として600億ドル(約6兆6000億円)分の米国製品に最大25%の関税を引き上げると表明した。
米中の貿易摩擦はまさにチキンレースの様相を呈してきたが、「来年11月の米大統領選で再選を目指すトランプ氏の強硬姿勢は止むことはないだろう。さらに言えば、米中の覇権をめぐる争いであり、中国の台頭を封じ込めたいアメリカの圧力は長期化することは避けられない」(エコノミスト)とされる。
5月15日には米商務省は、中国の通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)に対する中国製ハイテク部品の事実上の禁輸措置を発表。安全保障上の脅威のある外国企業から米企業が通信機器を調達することを禁じる大統領令にも署名した。ファーウェイへの米製品供給禁止は、日本法人を含むファーウェイ関連会社数十社も対象となる。
繰り返しになるが、米中の貿易摩擦は、世界の覇権をめぐる戦いである。その戦いの場は、まず、知的財産を含む「モノ」の分野で展開されているというのが現在の姿。そして、覇権をめぐる最終章は「マネー」の世界に行き着くことは間違いない。
大量売却は、核弾頭に近い劇薬
その予兆はすでに顕在化している。まず貿易摩擦に伴い人民元は安値を更新したが、中国政府は特段の措置を取らず、人民元安を放置している。「アメリカの関税引き上げ分を通貨安で相殺する動きだが、さらに人民元安が続けば中国からの資金流出を引き起こしかねない、諸刃の剣となる」(エコノミスト)と指摘される。
さらに、中国政府は米国債の売却をちらつかせ始めた。中国は世界最大の米国債の保有国だが、米財務省によれば中国は3月に米国債を204憶ドル売り越し、保有残高は1兆1205億ドル(約120兆円)まで低下した。2017年3月以来、2年ぶりの少なさで、世界第2位の保有国である日本(1兆781億ドル保有)と逆転する可能性も指摘され始めている。
「米中貿易摩擦が激化する直前の数値だが、その影響が忍び寄っていることは間違いない。中国の輸出が減れば外貨を稼ぐ力が落ち、米国債に投資する原資も減少する。今後、その範囲を超えて中国の米国債保有額が減少すれば、それは中国がマネーで対抗措置に動いたことを意味する」(エコノミスト)というわけだ。
米国債の大量売却は、核弾頭に近い劇薬。アメリカの金利は上昇し、経済が大きな痛手を負うからだ。かつて日本もその誘惑にかられたことがあるが、その誘惑を口にしただけでアメリカから手痛いしっぺ返しを受けた。
いわば“抜かずの宝刀”である米国債の売却に、果たして中国は打って出るのか。トランプ大統領が、ここにきてFRB(米連邦準備理事会)に対して利下げ要求を強めていることも中国の動きとは無縁ではないだろう。つまり[中国の米国債売却→アメリカの金利上昇→FRBの利下げ]で食い止めようという狙いか。トランプ氏はいずれ中国が米国債の大量売却に動くことを覚悟しているのかもしれない。