株式市場や経済に大きな影響を及ぼしたばかりか、世界中の人々の暮らしぶりまで激変させてしまった新型コロナウイルスのパンデミック。株価が大きく動いただけに、当然ながらその衝撃は資産運用の世界にも及んでいる。いったい、今後は投資についてどのように考えていくべきなのだろうか? これから資産形成を始めようと考えている人や、すでに投資をしている人がwithコロナ時代の今改めて気をつけたいことや、知っておきたいことをまとめた。
コロナ・ショックで新規口座開設ラッシュ!
依然、東京などでは軽視できない数の感染者が発生しているものの、3〜4月頃のパニック状態と比べれば、最近の新型コロナウイルスをめぐる国内の対応はいくらか落ち着きを取り戻したと言えるだろう。だが、まだ世間が大混乱に陥っている中で、投資の好機だと考えた人が少なくなかったようだ。
日経平均株価は、横浜港に停泊していたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」で発生したクラスター(集団感染)が深刻化していった2月中旬ころから急落した。さらに、2月下旬になってイタリアでも感染者が急増し始め、3月に入って米国でも一気に感染者が増えていくと世界の株式市場は暴落し、ニューヨークダウ(ダウ工業株30種平均)は過去最大の下げ幅の記録を更新し続けた 。
ところが、株式や投資信託をオンライン取引で取り扱う大手ネット証券では、そのような場面で新規口座開設の数が過去の記録を更新したという。同じくショッキングな出来事だった2008年9月のリーマンブラザーズ証券破たん時(リーマンショック)を凌ぐ勢いで、新たに投資を始める人が急増したのだ。
株式などへの投資は、「安く買って高く売る」というのが理想形である。こうしたことから、新型コロナ騒ぎで暴落した局面(俗にコロナ・ショックと呼ばれる2〜3月)こそ、絶好のチャンスだと多くの人が考えたのだろう。
実際、その後の日経平均株価は日本で緊急事態宣言が発せられる前の段階で底打ちしており、世の中が自粛ムード一色の中でもジワジワと右肩上がりを続けていった。そして、緊急事態宣言の解除が現実味を帯びてくると、さらに上昇に加速がついている。
“値ごろ感”による判断は禁物
こう聞くと、「株価が暴落した場面で投資を始めた人は正解だった」と思うことだろう。確かに、2〜3月の低迷期に日経平均に連動するETF(指数連動型上場投資信託)やインデックス・ファンドを買っていた人については、そのような結論に達するかもしれない。
しかし、同じような発想で個別銘柄(特定企業の株式)に投資していた場合は、必ずしもそうとは限らないのだ。おそらく、2〜3月の急落局面で個別銘柄を買った人の多くは、次のような発想だったのではないだろうか?
「1000円だった株価が400円まで下がっているから、さすがにこれは安すぎる。だから、今がお買い得かも!」
こうした判断を“値ごろ感”と呼ぶが、果たして、何を根拠に安すぎると考えているのだろうか? 定価が決まっている商品・サービスであれば、こうした発想は正しいと言えるだろう。通常なら1000円で販売されているものが60%オフになっているのだから、安く手に入れる絶好のチャンスである。
だが、株式の場合は定価が決まっていない。折々の経済情勢や個々の企業の先行き(業績や財務など)を踏まえて値踏みをしながら注文を出し、取引が成立した価格が時価となる。
つまり、1000円だった時点ではその値段がつくだけの価値(業績などの将来性)があったものの、新型コロナの感染拡大によるダメージで業績の悪化が予想されることを反映し、現状では400円が妥当だと市場が判断した可能性もあるのだ。
本当に割安な銘柄を選ぶにはスキルが必要?
もちろん、市場における取引で決まった時価がつねに適正であるとは限らない。一時は1000円の値段がついたものの、その企業の将来の業績見込みなどを踏まえると割高すぎたかもしれないと考える投資家が増え、400円程度なら買ってもいいというコンセンサス(共通認識)に至ったパターンも考えられるだろう。
とにかく、「1000円の株価が400円になったから安い」という日常の「定価感覚」で株式のことを判断するのは危ういのだ。おそらく、「400円に下がっているうちに買っておけば、いずれ1000円に戻る」と考えているのだろうが、その企業の価値がその値段に伴う日が訪れなければ期待を裏切られかねない。
結局、コロナ・ショックのように経済に大きなダメージを及ぼしそうな事態が発生し、相場全体が大きく下げた局面では、パニック的にとにかく売られてしまった(不当に割安になった)銘柄が存在する一方で、業績の悪化に結びつくことが懸念されて株価を下げた銘柄も存在するのである。前者に手を出せばその後に株価が反発する可能性は高いが、後者のケースではさらに株価が下がって、塩漬け株(見限ることもできず、損が発生したまま保有し続ける銘柄)と化すケースも少なくない。
果たして、これまで銘柄を細かく分析でして選別を行ってきた経験がゼロのビギナーがシビアに、どちらに該当するのかを見分けることが可能だろうか?
自分は大丈夫だと思えるなら、迷わず個別銘柄を取捨選択すればいいだろう。しかし、自信がないなら、日経平均株価のような市場全体の動き(株価指数)に連動するETFやインデックス・ファンドを選ぶのが無難だ。
株価指数は、言わば市場全体の平均点である。ETFやインデックス・ファンドなら着実に平均点の投資成果を得られ、不当に割安な水準まで売られた銘柄が反発する動きをそれなりに享受できるからだ。
NISAの個別銘柄は再考、つみたてNISAは継続
一方、新型コロナが及ぼした相場大変動では、すでに投資を始めていた人たちも大いに動揺したことだろう。NISA(少額投資非課税制度)やつみたてNISA(積立投資版の同制度)といった税制上の優遇が受けられる方法で運用を行っていた人も、株価の急落によって損失を抱えてしまうと、「一定範囲の利益に税金が課されない」というメリットを生かすことができない。
ここでは、それぞれの制度を利用して投資を始めていて、コロナ・ショックに伴う下落で損失が発生し、現時点で売却・解約すると元本割れになる状態に陥っているケースの対処法について考えてみよう。
まず、NISA(少額投資非課税制度)で株式の個別銘柄を買っていた人は、各々で判断が分かれてくるだろう。その銘柄のどういったポイントに注目して株価の上昇が期待できると考えたのかについて、今一度思い出してみよう。
もしも、新型コロナがもたらす景気の悪化でその前提条件が崩れているなら、いったん見切り売りを決断するのが無難かもしれない。NISAは年間120万円までの投資で得られた利益に税金がかからないが、非課税期間は5年となっている。さらに5年間の延長も可能だが、そこまで長い歳月をかけなければ購入価格を超える株価上昇を期待しづらいのであれば、他のもっと有望な銘柄に乗り換えたほうが効率的だろう。
また、NISAで投資信託を買っていた人もいることだろう。投資信託は中長期の保有を前提とした金融商品であるし、分散投資も行われているので、性急に売り急ぐのは考えものかもしれない。ただし、運用会社や販売会社(証券会社や銀行など)から提供されるレポートを読んで、その運用方針は現状の相場環境に相応しくないと感じた場合は話が別だ。
つみたてNISAについては、長期投資を前提として、資金投入のタイミングを見計らうことなく、こつこつと少額ずつ継続的に投資を続けていくというのがそもそものコンセプトとなっている。定期的かつ機械的に定額の資金を投入していくことで、株価が安くなっている局面では、本人が無意識のうちにより多くの量を買い付けることになる。
そして、その後に株価が高くなる局面が訪れれば、安くたくさん買い付けたことが功を奏するわけだ。したがって、もう株価が今よりも高くなることはありえないだろうと思っている人はつみたてNISAを止めたほうがいいだろうが、そうでなければ様子を見るのが賢明かと思われる。
もちろん、この先も市場全体が大きく下がる可能性は考えられる。日経平均株価は緊急事態宣言の前から底打ちして大きく上昇したと先述したが、その動きが過剰であったことも否めない。
新型コロナによる景気の悪化を踏まえて世界各国の中央銀行が異例の金融緩和(要は世の中へのお金のばらまき)に踏み切っており、大量の資金が株式市場に流れ込んだことが株価指数の大幅上昇をもたらした側面がある。適正な域を超えて上昇していたとすれば、やがては水準訂正(株価の反落)が待っているだろう。しかし、いったん下げた後も長い目で見て右肩上がりを描いていくと思えば、つみたてNISAを継続したほうがいい。
先が見えないコロナ不況で不安を感じている人も多いだろう。資産を守りながら手堅く増やしていくためには、長期的な運用を前提として、自分の投資や銘柄の特徴を正しく把握し冷静に判断することが不可欠だ。