ポスト安倍時代における日米関係の行方

2020.9.10

政治

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ポスト安倍時代における日米関係の行方

写真:ロイター/アフロ

安倍首相は8月下旬、持病の悪化を理由に辞職することを発表した。現在、自民党の次期総裁を決める動きが佳境を迎えているが、おそらく菅義偉官房長官が次期総理となることだろう。では、ポスト安倍時代における日米関係はどうなっていくのだろうか。安倍首相は4年の間に何度も日米会談を重ね、ゴルフという共通の趣味も活用しトランプ米大統領からの信頼を勝ち取った。現在では互いに「シンゾー」「トランプ」と呼び合うなど、トランプ大統領にとって最も親しい外交フレンドになっており、安倍氏の辞任発表時には「偉大な首相、スペシャルマン」とTwitterで呟いている。 両者の信頼関係がリセットされた後の日米関係の行方を考えてみたい。

破天荒なトランプ氏と地道に信頼関係を築いた安倍政権

ちょうど4年前の2016年秋、ヒラリー・クリントン氏の優勢が伝えられるなか、トランプ氏は下馬評を覆すかたちで大統領選に勝利した。それによって、日本国内では日米関係や同盟の行方を懸念する声が強まり、トランプ警戒論まで浮上した。だが、安倍首相は何度も会談を重ね、4年の間に安定した日米同盟を築いた。

トランプ大統領は、パリ協定や2015年イラン核合意、環太平洋経済連携協定(TPP)や国連人権理事会からの離脱・脱退のように、アメリカ・ファーストのもとオバマ政権を否定するかのような政策を次々に打ち出していった。当然ながら、こうしたトランプ大統領のやり方には各国から非難の声が高まったが、安倍氏はそういったやり方を本心でどう感じていたかは別として、日本の国益を第一に考え非常にスマートに行動していた。

安倍氏の靖国神社訪問は第2次政権発足後2013の1回のみで、中国と韓国との必要以上の関係悪化を避け、安保法制懇の専門家グループが提言する改革案でも、憲法とのバランスから安倍首相が実現化したものは集団的自衛権の限定的な行使容認など一部に限られた。

また、安倍首相は「地球儀外交」や「インド・太平洋構想」を提唱するなど国際社会における日本のプレゼンスを強調。安全保障面では日米同盟だけでなく、インドやオーストラリア、イギリスやフランスなど自由・民主主義の価値観を同じくする国々との二国間安保協力にも尽力を注ぐなど、外交・安保で存在感を高めていった。

菅・トランプで変化はあるか

安倍・トランプ関係が非常に蜜月であったことから、ポスト安倍時代ではトランプ大統領の日本への態度が変わるのではないかとの不安も聞かれる。しかし、菅氏は安倍政権の継承を強調し、これまでの安倍・トランプ関係を維持しようとしていることから、ポスト安倍時代においても大きな変化は生じないだろう。

トランプ大統領としても、新型コロナウイルスの感染拡大も影響して悪化する米中対立、中国の海洋覇権、北朝鮮の核・ミサイルなどの問題も考慮すると、これまでの日本との関係を維持したいはずだ。新型コロナウイルスの感染拡大以降、東シナ海では中国の海洋覇権が活発化し、中国船の大型化、海警局と軍の一体化などが進んでいる。

尖閣諸島では日本漁船を追尾したり、日本に「尖閣諸島に近づくな」と要求するなど、中国の行動はより先鋭化している。よって今日と今後の行方を考慮しても、日米でやるべきことははっきりしている。

米大統領選後の日米関係はどうなる?

しかし、菅・トランプ関係になったとしても、11月には米大統領選がある。依然として、民主党のバイデン候補がトランプ大統領を支持率でリードする展開が続いているが、同選挙は日米関係の行方にどう影響するだろうか。

仮に、トランプ大統領が勝利すると基本的にはこれまでの状態が維持されることになるが、米中対立がさらに悪化すると日米同盟にも動揺が走り、日本への対応もより厳しくなってくるかもしれない。

支持率でリードするバイデン候補が勝利した場合、バイデン氏はオバマ政権の継承を宣言しており、基本的には菅・バイデン関係で良好な日米関係が維持されていくものとみられる。バイデン候補も中国に対しては厳しい態度で臨むとみられ(現在のアメリカ政治内には、党派を超えて中国には厳しい姿勢がある)、安全保障面での日米同盟はトランプ政権時と変わらないだろう。

また、トランプ大統領とバイデン氏も、外国の紛争に加担したくないとする非介入主義的な考えは同じで、国際協調主義を重視するバイデン氏であっても、日米同盟における日本の役割拡大を望む意思はトランプ大統領と変わらない。

いずれにせよ、基本的には現在の日米関係が維持されていくことになる。むしろ日米が共同で取り組むべき地政学的リスクは目の前にあり、日米関係のさらなる深化が求められている。

アメリカの非介入主義が変わらない限り、日本としては主体的な安全保障、防衛政策を発展させていくことが求められる。