安倍首相、歴代最長政権の功罪 株価上昇、念願の憲法改正は果たせず

2020.09.03

政治

0コメント

写真:ロイター/アフロ

安倍晋三首相が体調の悪化を理由に辞任を表明し、9月17日に新首相が就任することとなった。7年8か月にわたる歴代最長の在職期間中に株価は大幅に上昇。安全保障関連法やIR推進法を成立させるなど着実に政策を前進させたが、新型コロナウイルス対応やモリカケ問題などでは批判も浴びた。歴代最長政権を率いた安倍首相の功罪とは。

通算在任日数、連続在任日数ともに憲政史上最長

安倍首相は2006年9月に初めて首相の座に就いたが、翌年の参院選で惨敗。参院で第一党の座を民主党に奪われ国会運営で主導権を握られると、このときも今回の辞任理由と同じ潰瘍性大腸炎が悪化し、辞任に追い込まれた。

「まだ若いが、政治家としてはこれで終わりだろう」。永田町ではそんな見方が大勢だったが、民主党の野田佳彦政権末期だった2012年9月の総裁選に立候補。1回目の投票では石破茂氏の後塵を拝したが、決選投票で逆転し、5年ぶりに総裁の座に就いた。直後の衆院選で圧勝し、そこから約7年8か月の長期政権を維持してきたのはご存じの通りだ。

第1次政権を合わせた通算在任日数は2019年12月に2887日となり、桂太郎氏(1901年6月2日~1913年2月20日間の第11代、13代、15代)を抜いて憲政史上最長を更新。第2次安倍政権の連続在任日数も2020年8月24日で2799日となり、大叔父である佐藤栄作氏(1964年11月9日~1972年7月7日、第61~63代)を抜いて歴代最長となったばかりだった。新首相が選出される9月16日(※)まで務めると通算在任日数は3188日となり、2位の桂氏(2886日)、3位の佐藤氏(2798日)、4位の伊藤博文氏(2720日)を大きく上回る。いずれも長州の大先輩だ。

※自民党総裁選は9月8日告示、14日投開票。16日の臨時国会で新たな総理大臣が選出される見通し

これだけ長期政権が続くと、第2次安倍政権以前は毎年のように首相が変わっていたのを忘れてしまった読者も多いかもしれない。安倍首相の最初の辞任後、福田康夫氏も1年で辞任、麻生太郎氏は就任1年後、解散・総選挙に挑んだが惨敗して政権の座を民主党に奪われた。民主党政権でも鳩山由紀夫氏、菅直人氏、野田氏と約1年ごとに首相が代わり、最後は自民党に再び政権の座を譲り渡した。

【外交】米中とは比較的円満な関係を構築、ロシアと北朝鮮とは具体的な成果なし

政権がコロコロ変わることで最も悪影響を受けたのが外交だ。1年ごとに首相や閣僚、党幹部の顔ぶれが変われば、諸外国と信頼関係など構築しようがない。特にアメリカとの間の懸案だった在沖縄米軍の普天間基地移設問題は迷走に迷走を重ねた。第2次安倍政権が辺野古沖への移設計画でようやくアメリカとの合意を果たしたが、民主党政権下の迷走の影響で今も沖縄では反対論が渦巻いている。

安倍首相は「積極外交」を掲げ、精力的に世界中を飛び回った。自国優先主義を重ねるトランプ米大統領とも無難に付き合い、それまで対日圧力を強めてきた中国の習近平国家主席とも比較的円満な関係を構築してきた。米中が通商交渉で激しく対立するなか、日本が巻き込まれずに済んでいるのも安倍政権の安定的かつ戦略的な外交の成果だろう。

通商交渉でも国内の反対論を抑え、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)や日欧経済連携協定(EPA)を締結したのは大きな成果。新型コロナウイルスの影響で開催が危ぶまれているものの、2020年東京オリンピック・パラリンピック誘致の成功も積極外交の成果といえる。

一方でロシアや北朝鮮とも積極的な外交交渉を進めたが、具体的な成果を得ることはできなかった。ロシアのプーチン大統領とは会談を重ね、一時は北方領土問題の前進に期待が集まったが、再び膠着状態に陥った。首相のライフワークである北朝鮮の拉致問題でも被害者を一人でも帰国させることはかなわなかった。

【景気対策】アベノミクスで日経平均株価2万円台に

内政における最大の成果は景気対策。アベノミクスの効果においては見方が分かれるかもしれないが、民主党政権下で1万円を割り込んだ日経平均株価を2万円以上に引き上げたのは紛れもなく安倍政権の成果だ。増税は政治的に難しいが、延期しつつも消費税率を2度にわたって引き上げ、また、新型コロナウイルスのせいで振り出しに戻ってしまったが、プライマリーバランス(基礎的財政収支、GDP比率)はマイナス5.5%(2012年)からマイナス2.7%(2.7%)にまで改善し、財政再建 も着実に進めた。

規制改革については各業界の聖域に大胆に踏み込むことはできなかったが、「日本では不可能」とも言われたIR(統合型リゾート)の実現に道筋をつけたのは成果だといえる。

自民党の党是でもある憲法改正は実現ならず

安倍政権の安定性の根源は国会での安定勢力である。安倍首相は第2次政権発足後、3回の衆院選、3回の参院選で全勝。2019年の参院選で割り込むまでは憲政史上初めて衆参両院で全議席の“3分の2”を占めた。その間、安全保障関連法や特定秘密保護法、TPP関連法、IR推進法など賛否の分かれる法律を次々と成立させた。

ただ、せっかくの“衆参3分の2”を生かして憲法改正に道筋をつけることはできなかった。首相はかねて9条を含む改憲に意欲を燃やしており、一時は「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と語っていたほどだ。しかし、モリカケ問題などの対応で支持率が低下し、改憲手続きを強引に進めることまではできなかった。首相は退任を表明した記者会見で「憲法改正、志半ばで職を去ることは断腸の思い」と無念さを語った。

モリカケ、忖度、桜…長期政権のおごりからくる“負の側面”

モリカケ問題は「安倍一強」が続くなか、長期政権の“負の側面”の象徴である。モリカケ問題や桜を見る会問題では首相や明恵夫人、政権中枢への忖度が明らかとなり、追及に対する首相の発言も誠実さを欠いた。首相だけでなく、政権幹部や省庁幹部の国会答弁にもおごりが見え隠れするようになった。

そうした負の側面が明確に表れたのが新型コロナウイルス対応だろう。“アベノマスク”の配布や自宅でくつろぐ動画の配信など、国民との意識のずれが顕著となったが、かたくなに小さな布製マスクをつける首相から国民の心は離れていった。首相の周辺がイエスマンで固められ、首相本人に国民の声が伝わりづらくなっていったのだろう。

安倍政権の政策実行力には期待するが、首相や政権幹部のふるまいは鼻につく――。これが多くの国民の現在の心境ではないだろうか。それが証拠に最近の内閣支持率は不支持率を大きく下回っているものの、辞任表明を受けて日本経済新聞が実施した世論調査では国民の7割以上が首相の在任中の実績について「評価する」「どちらかといえば評価する」と答えたという。

憲政史上最も長いだけでなく、最も成果を上げた首相だけに、もう少しだけ誠実に、もう少しだけ謙虚に対応していれば2021年9月の任期までといわず、その先まで政権を続けていくことができたのではないだろうか。「事実上、不可能」とされてきた憲法改正すら実現することができたのではないだろうか。健康を投げうっての奮闘に敬意を表しながらも、残念な思いを拭い去ることができないでいる。