いよいよ2021年1月20日にバイデン政権が誕生するが、政権発足に向けて準備も本格的に進んでいる。バイデン政権の特徴は多国間主義や国際協調路線で、まさに“脱トランプ”ということになる。副大統領には女性で、インド出身の母と黒人系でジャマイカ出身の父を持つカマラ・ハリス氏が、国防長官には黒人のロイド・オースティン氏が、厚生長官にはヒスパニック系のハビアー・ベセラ氏がそれぞれ就任する予定で、人事でも「多様性」が全面的に押し出されている。しかし、その「多様性」がこの4年間でうまく機能するかどうかは現時点で全く不透明であり、場合によっては外交面にも影響が出てくる可能性もあろう。
4年間で1000万人も支持者を増やしたトランプ大統領
まず、11月の大統領選挙の結果をもう1度見返してほしい。バイデン氏の獲得票数は8000万、トランプ大統領も約7380万票となり、両者とも12年前にオバマ氏が記録した6950万票(歴代最多)を上回る結果となるだけでなく、トランプ氏は4年前に自身が獲得した票数6200万票から1000万票以上も増やしているのだ。
要は、政治的にはトランプ氏はこの4年の間で支持者を1000万人も増やしていることになる。トランプ氏の2024年の大統領選出馬も報道されているが、バイデン氏(その後継者)が4年後の選挙で1000万も票を増やせるかは分からない。
また、アメリカの政治専門メディア「ポリティコ(Politico)」は11月下旬、2024年のアメリカ大統領選挙における共和党候補は誰が相応しいかを問うアンケート調査を実施し、トランプ大統領が最も高い53パーセントの支持を集めたと発表した。他の候補者では副大統領のペンス氏が12パーセント、トランプ氏の長男が8パーセントなどとなったが、大統領選に敗北したトランプ大統領が依然として根強い人気を誇っていることが明らかとなったのだ。
トランプ支持者や極右勢力が内政に与える影響
そして、依然としてトランプ氏への根強い支持が続くなか、テロ対策関係者の間では極右勢力によるテロのリスクが高まっているとの懸念がある。以前ほどではないが、プラウドボーイズ(Proud Boys)やミリシア(Militia)などトランプ大統領を支持する極右勢力は、11月の大統領選挙は不正だ、バイデン氏はアメリカを破壊しようとしているなどの論調を続けており、バイデン氏の大統領就任式である1月20日が近づくなか、11月3日の大統領選挙の時と同様にこういった極右勢力が活動を活発化させる恐れが指摘されている。
アメリカ南部貧民救済法施行機関(SPLC)は2020年3月、アメリカ国内における過激派組織の活動状況に関する調査報告書を公表し、白人至上主義組織の数が過去3年間で55パーセント増加し、155組織に達したと明らかにした。
また、白人至上主義組織の中でも、大量殺戮による多文化社会の崩壊を目指す「暴力的過激主義」を唱え、新しく台頭した組織が大半を占めると指摘した。2019年4月のカリフォルニア州・パウウェイシナゴーク襲撃事件、2019年8月テキサス州・エルパソショッピングモール無差別銃乱射事件など、近年アメリカ国内では過激な白人至上主義者によるテロが発生しただけでなく、最近でも10月にミシガン州知事の拉致を警戒し、内戦を画策した容疑でミリシアのメンバーら13人が逮捕され、大統領選の開票が進む11月5日、フィラデルフィア市で開票が行われているコンベンションセンターを襲撃しようとした容疑で男2人が逮捕された。2人が乗ってきたとみられる車からは銃器のほかに、トランプ大統領の旗やQアノンの文字が描かれた帽子が見つかった。
当然ながら、こういった過激な行動に出るトランプ支持者はごく少数であろうが、バイデン政権はこういったトランプ支持者や極右勢力に内政面で対峙していくことになり、その多様性がこの4年間でどこまで成功するかは全く不透明と言えるだろう。
国際社会に広がる自国優先主義
そして、その影響は内政面に留まらず、外交面にも影響を与える可能性がある。すなわち、外交面で多国間主義や国際協調路線を全面に押し出したとしても、上述のような内政面での混乱に対処する時間が多くなり、十分に外交面に時間を割けないという状況だ。
実は、アメリカ国内での内政面と現在の国際政治の世界では似たような状況がある。オバマ政権も当時、多国間主義や国際協調路線を強調したが、国際政治のパワーバランスは大きく変化し、現在は超大国アメリカの時代ではなく、米中覇権時代、多極化時代である。
そして、米中対立に象徴されるように、国際社会では自国優先主義的な流れやナショナリズムが強くなっており、サウジアラビアやイスラエル、ブラジルやエジプト、北朝鮮、そしてハンガリーやポーランドなど東欧の右派政権はトランプ氏の敗北を内心は残念がっている。正直、トランプ大統領と緊密な関係を築いてきた日本でも、議論は分かれるところだ。
こういった国際政治の風潮の中で、バイデン政権の多国間主義や国際協調路線がどこまで機能するかは分からない。バイデン氏自身も対中国では現実主義路線で対応せざるを得ず、それは自身が掲げる多国間主義や国際協調路線との価値観をめぐる対立、ジレンマでもあろう。