2021年1月に誕生するアメリカのバイデン新政権。アメリカは以前に世界の警察官と言われたように、国のトップがどう行動するかで世界情勢は大きく変化する。この4年間、世界は外交とビジネス上の取引を同一視したようなトランプ大統領のディール外交に悩まされてきた。トランプ大統領に選挙戦で勝利したバイデン新政権になると、“脱トランプ”が進むことは間違いない。では、来年バイデン政権になると世界情勢はどう動くのだろうか。バイデン政権でもっとも注目が集まるのは、やはり世界を翻弄する米中対立のゆくえだろう。新政権でアメリカが中国とどう向き合うか、これには主に3つのポイントがある。
1.日本や韓国、インドなどと安全保証強化
1つ目、安全保障だ。コロナ禍で中国の海洋覇権が進んでいるとも言われるが、これはバイデン政権になってもアメリカのスタンスは変わらないだろう。バイデン氏は11月12日に菅首相と電話会談をした際、尖閣諸島が日米安全保障条約第5条の適用範囲になると言及した。この時点で中国の海洋戦略と対立することは明らかであり、バイデン政権は日本や韓国、オーストラリアの同盟国、そしてインドなどと安全保障協力を強化していくことだろう。
しかし、それにあたっては悪化する日韓関係で両国に改善を要求してくるかもしれない。12月に発表された第5次アーミテージ・ナイ報告書でもそれについての言及があった。また、トランプ安倍時代は蜜月関係だったが、バイデン氏は同盟国の役割を期待しており、日本へ安全保障上の役割拡大を求めてくる可能性もあろう。
2.中国の人権問題に圧力
2つ目は、人権だ。トランプ大統領と違ってバイデン氏は人権問題を重視している。中国に関しても、新疆ウイグル自治区とチベット自治区などの少数民族問題、また香港での民主化弾圧などでもトランプ政権以上に圧力をかける可能性がある。
12月、香港の民主活動家である黄之鋒氏に禁錮13か月半、周庭氏に禁錮10か月の判決が下されたが、人権問題という軸でも米中対立が深まる可能性がある。
3.経済制裁は緩和しそうだが…
そして、3つ目が経済だ。経済分野におけるトランプ政権とバイデン政権の対中姿勢の大きな違いは懲罰性だろう。トランプ大統領は安全保障の分野では懲罰的な対策は実行してこなかったが、経済の分野では米中貿易摩擦とも言われるように、懲罰的ともいえる関税制裁や輸出規制を連発し、日本を含んだ世界経済を不安定化させた。バイデン氏はそのような過剰な制裁措置は取らないので、経済・金融関係者を悩ませてきたトランプ政権の不透明性はなくなるだろう。
しかし、依然として米中間の安全保障、人権上の対立は続くことから、トランプ時代ほどではないにしても、米中間の政治的な緊張や衝突によって世界経済に何かしらの動揺が走る可能性は今後も排除できない。また、バイデン氏が中国に懲罰的な経済制裁を実行しないにしても、ファーウェイ排除などトランプ大統領が4年間でやってきたこと全てがバイデン政権ですぐにチャラになることはないだろう。
バイデン氏は安全保障の視点から中国経済への依存を少なくする方針で、これはトランプ政権と変わらないところでもあり、バイデン政権ではトランプ政権下とは違った新たな米中間の経済覇権が展開される可能性がある。要は、トランプ政権の終焉によってなくなるリスクもあれば、バイデン政権の誕生によって生じるリスクもあるのだ。
トランプ政氏とバイデン氏は性格や考え方、ビジョンなど全てが正反対のようにみえるが、中国への対抗意識や非介入主義という部分では同じであり、そこには連続性がある。アメリカファーストを貫くトランプ時代、中国はアメリカとの真正面の対立、“バイ(二国間)”の脅威に直面してきたが、国際協調を重視するバイデン時代には“マルチ(多国間)”の脅威に直面する可能性があり、習近平政権はそれを警戒しているはずだ。中国はすでにそのリスクを想定してか、新型コロナウイルスの第3波が訪れるなか、王毅が11月下旬に日本と韓国を急遽訪問した。
中国の中長期的な繁栄を描く習政権としては、バイで懲罰的な圧力を加えるトランプ氏より、マルチ的な中国包囲網を造ろうとするバイデン氏の方が厄介な存在と思っているのかもしれない。中国としては、経済的にも対中包囲網を形成されたくないので、今のうちから日本や韓国などと関係を維持し、対中包囲網を崩したい狙いがあるのだろう。
以上、3つの視点から米中関係の行方を見てきたが、来年もコロナ禍と同じように米中対立は続くことだろう。しかし、米中対立といってもその中身は変わってくることから、日本としては新たな視点でこの対立の行方を注視していく必要がある。