2050カーボンニュートラルに向けて DX・SXでとらえる今後の世界

写真:ロイター/アフロ

政治

2050カーボンニュートラルに向けて DX・SXでとらえる今後の世界

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コロナ禍で世の中のデジタル化のスピードが一気に加速。社会全体でDX:デジタルトランスフォーメーションに取り組んでいますが、平将明議員はもう一つ、SX:サステナビリティ・トランスフォーメーションの重要性を示します。これからの世界を理解するために知っておくべきDXとSXについて聞きました。

カーボンを意識せずにビジネスは回らない

DXは「デジタルトランスフォーメーション」のこと。SXは聞きなれないと思いますが、「サステナビリティ・トランスフォーメーション」のことです。企業に対する持続可能性を重視した経営への転換を意味します。これからはこの2つのキーワードを頭に入れておくと、半年後、1年後の世の中を理解するのに役立つと思います。

「デジタル庁」とともに菅政権の目玉に掲げられているのは、「2050年カーボンニュートラル」です。2050年までにカーボンニュートラル(炭素中立)を実現するということですが、今後、カーボン(炭素)を意識せずに社会もビジネスも回りません。

金融の世界では数年前からESG投資といわれる環境(Environment)・社会(Society)・企業統治(Governance)に着目した企業への投資が行われていますが、これからはあらゆるものづくりやビジネスの現場、国家のエネルギーのポートフォリオなどで直接的に対応がせまられるようになります。

アメリカの電気自動車メーカーのテスラが市場に評価されるのは、DXかつSXだからです。テスラの企業理念は「世界の化石燃料への依存に終止符を打ち、ゼロエミッション社会への移行を加速する」で、同社はCO2を出さない電気自動車を扱っていますし、再生可能エネルギーの発電・蓄電にも取り組んでいます。

テスラの「車」は「IoTデバイス」でもあります。世界中を走っているテスラの車の走行情報はビッグデータとして集められ、AIで分析され、アルゴリズムを進化させてまた各車に戻され……という生態系で自動走行技術をどんどん進化させていきます。

ほかのメーカーの車は買ったときが最新技術で徐々に古くなっていきますが、テスラの車は買ったときが“底”で、時間とともに進化していきます。これが今のAI、IoT、ビッグデータで付加価値を生み出すモデルなのです。

現在の経済トピックスはDXとSXからできている

現在の金融市場はコロナ禍でも株価が落ちません。不思議だと思いませんか? よく言われるのが、世界各国が財政出動し、中央銀行が金融緩和しているから……というもので、それは正しいのですが、中身を見てみると主要なプレーヤーが入れ替わっていて、トヨタの株価をテスラが抜き去っています。

これは一台の優れた自動車を作るのか、AI、IoT、ビッグデータで付加価値を生むという生態系の端末としての自動車を作るのかの違いだと思います。まさにDXです。

ガソリン車を主とする欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズが、厳しくなったEU排出基準による罰金を避けるためにテスラとオープン・プールを結成したのも象徴的でした。フィアットはテスラから事実上、CO2排出量の枠を数億ユーロで買ったのです。旧来型の事業会社は、SXの観点から従来のビジネスモデルの転換が迫られています。

テスラ側では自動車メーカーの株価を抜いたときより、代表的なオイルメジャーの株価を抜いたときのほうが社内で話題になったそうです。前掲のテスラの企業理念から言えば当然です。このオイルメジャーは今年の8月にNYダウの代表的な構成銘柄からも除外されました。かわりに組み込まれたのがセールスフォース・ドットコムだったというのがまさに今の世界のDX、SXを象徴しています。ちなみにセールスフォースは世界で1兆本の植林事業を計画していると聞いています。

エネルギー問題を解決するカーボンキャプチャーと核融合炉

もうひとつの将来的な課題は、カーボンキャプチャーです。世界でも日本が一番、技術が進んでいるといわれています。いかに二酸化炭素(CO2)を出さないか、植林などでいかに吸収するかと併せてカーボンキャプチャーの技術を磨けば、世界展開して課題を解決することができます。

カーボンキャプチャー

CO2を回収・貯留して温暖化の要因となる前に封じ込める技術。火力発電所や産業施設など大規模な発生源から自動車や航空機、家庭まで小さな規模まで考えられ、回収には加熱、冷却、加圧などの処理を加えて固体化、固定化する方法がとられる。スタートアップをはじめ世界で研究・開発が進められている。

また、“地上の太陽”と呼ばれる核融合炉も化石燃料は使わずほぼCO2を出さない未来のエネルギー技術です。現在、南フランスのサン・ポール・レ・デュランスで各国が参加して国際熱核融合実験炉の開発が進められていますが、巨大な装置の集合体である実験炉には、日本の精緻なメカのすり合わせ技術が欠かせません。これが実用化すれば世界のエネルギー問題は解決するでしょう。

核融合炉

核融合炉は、ウランなどの重い原子核の分裂を利用する核分裂炉に対して、水素などの軽い原子核が融合する際の核融合エネルギーを取り出す装置。太陽の中心で起こっている反応を再現することから“地上の太陽”と呼ばれ、無限で安価でクリーンという夢のようなエネルギーが生成できる。核融合発電炉の実現に向けて各国が研究・開発しており、2020年12月に中国が核融合研究装置による初放電に成功。日本・EU・アメリカ・ロシア・韓国・中国・インドが参加するITER(国際熱核融合実験炉)計画は、2025年の運転開始を目指して進められている。

カーボンキャプチャーと核融合炉が実用化すれば、地球温暖化、CO2排出問題が解決します。日本はこの分野において強みがありますし、カーボンキャプチャーと核融合炉を国家戦略に組み込むことによって、SXの世界で唯一無二の技術を持った国になる可能性があります。

DXとSXこそが勝ち筋

これからの経済が向かうデータ・ドリブン・エコノミーのなかで、ニュー・セブン・シスターズ(GAFA・Microsoft・テンセント・アリババ)のようなプラットフォーマーがサイバー空間で収集したデータから付加価値を生み出すモデルから、フィジカルでリアルな世界に染み出してきている新たなモデルが自動車という実体を持ったテスラです。

テスラのような最新のテクノロジーを駆使してDXとSXを実践している企業はまだ日本にはあまり見当たりません。可能性があるとしたらアバターロボットです。以前、私はアバター特区を作ると言いました。今は規制でアバターは歩道を歩けなかったりしますので規制改革が必要です。そこではアバターロボットが何千、何万台と街を行き来するようになります。データが集まることでどんどんロボティクスが進化しますし、AIも進化します。また、世界中にばらまいたアバターにログインすれば、飛行機などでわざわざその場所に移動する必要もなくなりますし、化石燃料も使わなくなります。

このように、いま急成長する経済の現場で起こっていることを因数分解すると、つまりはDXとSXということになります。DXとSXの波は新型コロナウイルス感染症の拡大によって一気に10年ほど進みました。もはやそれ以前に通用していたモデルが通用しなくなってきています。

アメリカのバイデン次期大統領はパリ協定に戻ると言っています。そうなればSXの流れはさらに補強されるでしょう。日本も菅政権が掲げたようにデジタル庁、カーボンニュートラルでDX、SXを進めていきます。