写真:森田直樹/アフロ

経済

日本郵政、避けられぬリスク資産運用 「上乗せ規制」解消で経営立て直しなるか

0コメント

かんぽ生命保険は3000億円規模の自社株買いを行い、持株会社である日本郵政の出資比率を現在の64%から50%以下に引き下げる方針を固めた。日本郵政が持つかんぽ生命保険の株式を自社で買取り・償却する。これに伴いかんぽ生命保険の資本に相当する基金が減少することから、同時に資本性のある劣後債約1000億円を公募し、ソルベンシー・マージン比率(不測のリスクに備えた支払い余力)の確保を目指す。

悲願の上乗せ規制解消へ

日本郵政傘下の金融2社(ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)には、民業圧迫を回避するため郵政民営化法により民間銀行や保険会社よりも厳しく業務を制限する「上乗せ規制」が課されている。持株会社である日本郵政を通じて国が株式の過半を保有する半官半民金融機関であるためで、「預入限度額や新規業務について郵政民営委員会の認可が必要で、自由な業務展開が制限されている」(日本郵政関係者)。

一方、金融2社に対する日本郵政の持株比率が50%以下に引き下げられると、上乗せ規制が緩和され、新規業務も「認可」から「届出」に移行できる。このため日本郵政は金融2社の株式を順次市場で売却する計画であった。だが、「かんぽ生命保険は保険商品の不正販売で一時業務停止命令を受けるなど株価が低迷していることもあり、日本郵政は早期の追加売却は難しいと判断し、自社株買いで日本郵政の持株比率を一気に50%以下に引き下げ、経営の立て直しを急ぐことを選択したのだろう」(メガバンク幹部)と見られている。

このかんぽ生命保険の自社株買いに伴い今後、注目されるのがゆうちょ銀行の動きだ。しかし、「かんぽ生命保険に比べゆうちょ銀行の自社株買いは格段にハードルが高い」(同)という。競合する地方銀行などが猛反発することが避けられないためだ。

「地方銀行は人口減による地元経済の縮小やマイナス金利政策に象徴される金融緩和の継続で収益減にあえいでおり、そこにゆうちょ銀行が規制緩和により住宅ローンや企業向け融資に乗り出すことに対する警戒心が強い」(同)とされる。だが、ゆうちょ銀行にとって、住宅ローンや企業向け融資などへの進出は長年の悲願でもある。

リスク資産運用は上場以来、拡大傾向

かつて、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険は国の財政投融資と一体のものであった。もっぱら資金吸収が使命で、集められた巨額な資金は財政投融資制度を通じて、国の第2の予算に充てられてきた。郵政民営化で、この関係は断たれたが、現在も資金は内外の有価証券等で運用されている。直近の2020年9月末の内訳では運用資産総額218兆9000億円のうち国債24.1%、地方債・社債等16.2%、外国証券等32.0%などで占められている。

運用資産中、国債が最もウェートが高いが、日銀の異次元緩和に伴い、国債の利回りは超低水準に張り付いており、国債での運用妙味は失われている。このためゆうちょ銀行は、株式上場前後から徐々に国債の運用比率を引き下げる一方、海外債券や株式などのリスク資産の運用比率を引き上げている。国債の減少分は主に外国証券や日銀預け金に振り替わっている構図だ。

リスク資産運用の拡大に伴い、外部の専門家の採用も積極化した。2016年には元年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の事業調査課調査室長で運用のスペシャリストで年金数理人でもある清水時彦氏を招聘したほか、ゴールドマン・サックス証券の佐藤勝紀前副会長や宇根尚秀氏などの運用の専門家を中途採用した。その後、佐藤氏はソフトバンクグループに転籍したが、現在のゆうちょ銀行のリスク投資の基盤を作った。

ゆうちょ銀の海外証券化商品は全滅状態だったが…

彼ら運用の専門家が導いたのがCLO(ローン担保証券)をはじめとする証券化商品への運用だ。その運用成果がいま市場で注目されている。

CLOは、投資適格未満の信用力の低い企業に対する貸出、いわゆるレバレッジド・ローンを中心に束ねて証券化した金融商品で、2009年のリーマン・ショックで問題となったCDO(債務担保証券)の一種類だ。信用力の低い企業向け貸出を束ねているため利回りが高く日本の大手銀行も購入している。

アメリカのレバレッジ・ローンの残高はここ10年でおよそ2倍に増加し、CLOの年間発行額も2018年に過去最高を更新したが、最近では、レバレッジド・ローンの貸付先企業で、自己資本に対する借入金の割合を示す「レバレッジ比率」が上昇するなど、質の劣化が懸念され始めている。

そうしたショックにゆうちょ銀行が直面したのが2020年3月期の決算だった。言うまでもなく新型コロナウィルス感染拡大による市場の混乱だ。このとき、ゆうちょ銀行が保有するCLOは1219億円もの評価損を抱えたのだ。同時に投資する住宅ローン証券化商品(RMBS)も93億円の含み損となった。

「ゆうちょ銀行の海外証券化商品は全滅状態で、決算の足を引っ張った」(大手機関投資家)とされる。ゆうちょ銀行は3月末時点でCLOを1兆7673億円(取得原価ベース)保有していたが、この7%弱がマイナスに沈んでいた格好だ。

世界的金融緩和により証券化商品市場も回復

しかし、ここに救世主が現れる。FRB(米連邦準備制度理事会)をはじめとする主要中央銀行による追加金融緩和である。FRB等により供給された過剰なまでのマネーは、株式市場のみならず証券化商品市場をもV字回復させた。ゆうちょ銀行のCLOも半年後の2020年9月末には評価損が792億円まで減少、RMBSの評価損も31億円まで持ち直した。

だが、依然として評価損の状態にあることに変わりはない。しかも、ゆうちょ銀行はこの半年間でCLOを1兆8425億円(取得原価ベース)積み増している。

国債への運用で利益が望めないなか、ゆうちょ銀行にとって海外を含むリスク資産への運用は一層拡大していかざるを得ない。それだけゆうちょ銀行のポートフォリオのボラティリティ(価格の上昇・下降の振幅)は高まる。有価証券運用からリスク分散を図るためにも、ゆうちょ銀行にとって日本郵政の保有株割合を早期に50%以下に引き下げ、新規業務認可の自由度を確保することは悲願といえそうだ。