「グリーン成長戦略」で突如現れたアンモニアと合成燃料のナゼ?

脱炭素はエコよりもエネルギー問題としての性質が強い

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「グリーン成長戦略」で突如現れたアンモニアと合成燃料のナゼ?

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国民へのクリスマスプレゼントよろしく2020年12月25日に菅政権が策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」。他の先進国に遅れ気味だった日本の脱炭素がやっと進みはじめたわけだが、その内容はなかなかのボリュームで一般の人が理解するには少々因数分解が必要だ。中でもあまりなじみのない「燃料アンモニア」「合成燃料」に的を絞って見ていきたい。

「グリーン成長戦略」の中身とは

ここ数年、欧州や中国が2050~60年に向けてCO2の排出量を回収量で相殺し実質ゼロとする、いわゆる「カーボンニュートラル」の達成を公言。そんななか「環境立国」を自負する日本は、同様の戦略がなかなか打ち出せずまたしても“周回遅れ”の感が否めなかったわけが、それはさておき、遅ればせながらまとめた今回のグリーン成長戦略では2050年のCO2排出量実質ゼロの必達に向け産業を14分野に細分化し、それぞれに工程表と数値目標を提示した。一歩踏み込んだ点は評価すべきだが、内容が百花繚乱、てんこ盛りすぎで読む側は食傷気味の覚悟が必要となっている。

中身をつぶさに見ると、「燃料アンモニア」「合成燃料」という、あまりなじみのないアイテムがチラホラ。日本のエネルギー事情を現行の化石燃料依存型から30年間で再エネ・水素・二次電池の“脱炭素三羽烏”重視へと肉体改造するのは無理・無謀と案じたのか、過渡期の中継ぎ役としてこれら新液体燃料を絡ませた、との腐心が読みとれそう。

事実、14分野の“番付”を見ると、エネルギー関連産業の筆頭の「洋上風力発電」に続き何と「燃料アンモニア産業」が2番目で、3番目に「水素産業」が続く。

エネルギーキャリアに優れたアンモニア

アンモニア(NH3)は燃えやすくしかも炭素(C)を含まない化学物質なので、燃焼の際にCO2を出さないのが特徴。日本でも明治期から主として化学肥料の原料として量産され続けている極めてポピュラーな工業製品で、世界の年間生産量は約2億t、うち年間約2000万tが国際間で取引される。

猛烈な刺激臭など猛毒だが、水素戦略を考えた場合、「エネルギーキャリア(燃料媒体)」に優れる点が魅力的。常温で気体の水素は輸送・貯蔵の際に容積を小さくするため零下252℃以下に冷却し液化するか数百気圧まで圧縮するのが鉄則だが、これには高い技術とコストが必要。一方、NH3は零下33℃以下または9気圧程度で簡単に液化、これは家庭用ガスボンベやタクシーの燃料として重宝されているLPG(液化石油ガス)とほぼ同じで、大量輸送・貯蔵に必要なノウハウは確立済み。さらに既存のサプライチェーンを活用すれば安価かつ大量に調達も可能だ。

NH3を燃料として利用する技術に関して日本は世界のトップを走り、2014年には世界初のアンモニア専焼のガスタービンによる発電を実現。加えて火力発電所で石炭やLNG(液化天然ガス)にNH3を混ぜて燃焼、CO2排出量を減らす混焼試験も世界に先駆けて行い、燃焼時に発生するNOx(窒素酸化物)を抑えるバーナーの開発にも挑み、「アンモニア100%火力発電」(NH3専焼)の実用化を目指す。

2020年9月にはサウジアラビアと共同でサウジ産天然ガスを原料に現地で燃料用NH3を合成、これを専用タンカーで日本まで海上輸送するとともに、副産物のCO2を100%回収・地中貯留(CCS)したり、化学製品製造のために有効活用(CCU)したりする実験もスタート。カーボンニュートラルなNH3、「ブルー・アンモニア」の実用化を模索する。

自動車産業の注目は合成液体燃料「e-fuel」

一方、5番目に掲げられた「自動車・蓄電池産業」の項目内に「合成燃料」の文言があるのも注目。CCS技術で回収したCO2とHを化学反応させ、液体燃料「e-fuel」を合成、ガソリンや軽油などと混合することで内燃機関(エンジン)で使えるようにするという試みだ。すでにトヨタや日産、ホンダなど日本の自動車メーカーが開発に着手している。

2020年末には東芝が合成液体燃料の原料になるCO(一酸化炭素)をCO2から量産する技術の開発を加速させると宣言、2025年にはANAと共同でカーボンニュートラルなジェット燃料を製造すると表明するなど動きが活発化している。

時間制限、技術の伸びしろを考えるとやはり内燃機関は欠かせない

e-fuelの分野ではドイツが先行するが、背景には現実問題として輸送系のCO2排出量を削減するにはどうすればいいかという危機感がある。

今後30年間ですべての自動車がEV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)に転換することなど夢物語で、かなりの割合でガソリン/ディーゼル車が存続しているはず。

また、EVやFCVの低価格化や航続距離のさらなるアップ、給電設備/水素ステーションの大規模設置が予想に反して頭打ちとなり、普及率も伸び悩んだ結果、HEV(ハイブリッド車)やPHV(プラグイン・ハイブリッド車)など内燃機関を併用する“電動車”に依存せざるを得なくなることも考えられる。その場合、化石燃料由来のガソリン・軽油ではカーボンニュートラルを達成できない。

その際に、生成過程に再生可能エネルギーを用いることでカーボンフリー、カーボンマイナスが見込めるe-fuelの技術が確立されていれば、既存の内燃機関も存続の道ができることにもなり得る。

真のカーボンニュートラルはLCCO2の考え方から

同様にEVやFCVは一見「CO2を出さないクリーンな車」に思えるが、搭載する二次電池(リチウムイオン電池など)、あるいは太陽光発電のソーラーや風力発電の風車の製造や廃棄、さらには現状では化石燃料を原料に製造せざるを得ない水素の実情などを勘案したLCCO2(ライフサイクルCO2排出量)で見ると、廃棄物を出さない「ゼロエミッション」とはほど遠い。しかも欧州ではCO2削減のさらなる強化のため、今後LCCO2の考え方を導入する模様で、EV、FCVも安穏としていられない。

どうやら「再エネ・水素・二次電池」を唱えていればカーボンニュートラルを達成できるほど、現実は甘くなさそうだ。