PCR検査でストレスと恐怖から解放 香港に倣って日本もさらなる拡充を

2021.1.15

社会

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PCR検査でストレスと恐怖から解放 香港に倣って日本もさらなる拡充を

新型コロナウイルス感染症の拡大をうまく抑えてきた香港でも2020年11月半ばから第4波が到来。しかし、強制隔離など日本以上に厳しい対策を行った結果、ここ数日はピークに比べて落ち着きを取り戻している。香港の感染拡大防止の鍵の一つになっているのが、市民がいつでもPCR検査を受けられる態勢の充実度だ。1月7日に緊急事態宣言を再発令し、以降エリアを広げている日本では、ようやく民間企業が数千円でPCR検査のサービスを開始したが、感染拡大防止と経済を回すという観点を考えると、さらなる拡充が求められる。

3桁→2桁に減るまで2カ月かかる

香港は2020年11月に入り新型コロナ第4波が襲来した。日本より1つ波が多いと思うかもしれないが、第3波を抑えきれず冬になって感染が急拡大した日本とは違い、香港は第3波をしっかりと押さえこんだためだ。

11月16日から徐々に対策を厳しくし、公共の場では最大で2人までしか集まってはいけない、飲食店は18時から翌朝5時までは店内での飲食禁止(テイクアウトは可能)に。12月25日からは、香港に入境するには基本的に政府指定のホテルで21日間の強制隔離を受けなければならないなど、日本とは比べ物にならない厳しい措置をした結果、ピークは一日100人台の新規感染者を出していたが、1月7日では33人にまで減った。1月7日現在、累計感染者は9108人、死亡者は154人となっている。

人口約750万人の香港が厳しい政策を実施して新規感染者が100人台からこの数字に達するまでに2カ月弱かかっている。香港より感染者数が多い日本が緊急事態宣言を出しても1カ月で収まる確率は極めて低いということを認識しておいた方がいいかもしれない。

香港ではPCR検査を受けたいときにいつでも受けられる

2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)を経験し、他国よりも感染症のノウハウを持つ香港だが、その強みの一つはPCR検査の充実ぶりだ。日本ではよく「早期発見、早期治療」といわれるが、香港は新型コロナにおいては「早期検査、早期診断」というのをモットーに感染が拡大してから止まることなく検査態勢の拡充に努めてきた。

保健所の判断がいるといった制約が無いので目詰まりもない。その結果、香港市民はいつでもPCR検査を受けられる状態になっている。

油麻地(Yau Ma Tei)という地区にある社区検測中心の入口
検査を待つ人々

まず、240香港ドル(約3200円)支払うと陰性証明書が出る有料の検査と、証明書は出ないが無料の検査かを選べる。どちらも民間企業の助けと受けながら香港政府が主導して提供するサービスだ。

有料は衛生署(Department of Health)が指定した医療機関と香港内19カ所に「社区検測中心(Community Testing Centres)」という臨時の検査施設に赴いて検査をする。ネットで事前に予約をし、鼻と口から検体を取るスタイルだ。24時間以内にメールで通知が来て、そのときに陰性証明書が添付されてくる。

政府から送られてきた陰性証明書

無料は唾液を使ったテストで、香港内にある121カ所の郵便局、20の鉄道の駅に設置された専用の自販機、医院管理局(Hospital Authority)所管の47の病院で配布される検査キットを事前に取得。その後、政府が指定するところに検体を持ち込む。3日以内に携帯電話のショートメッセージに通知される。なお、有料、無料とも陽性であれば政府が即入院の手配がされる。

地下鉄駅の設置されたPCR検査キットの自動販売機
自販機から取得した検査キット

香港ではこれらのサービスで十分足りており、日本のように民間でやる必要がないほどだ。このテストを受けたことがある香港人男性と結婚した日本人女性に話を聞いた。

「知り合いに新型コロナの感染者がいました。私は濃厚接触者ではなかったのですが、念のため夫と一緒に有料の検査を受けに行き、結果は陰性でした。無症状でほかの人に移すかもしれないリスクがありますから、気軽に受けられるのはありがたいです。受けて損はないですから」

PCR検査の多さは安心を与え、経済の潤滑油に

香港ではもう一つ、法律で「対若干人士強制検測(Compulsory Testing for Certain Persons)」というものが定められている。ある場所でクラスターが発生したり、大勢の濃厚接触者がいる何らかのケースがあったりした場合、香港政府は対象者に強制的にPCR検査を受けさせるというものだ。

例えば、あるマンションで感染者が出た場合、マンションの住人全員にPCR検査受けさせるといったことを行う。こういったことは、検査態勢が整っていなければできないものだ。

いずにしろ、いつでもPCR検査を受けられるという意味は、「ひょっとしたら自分は陽性で人に移したかもしれない」というストレスと恐怖から解放されるほか、陰性であれば継続してビジネスを続けるできるため、経済へのブレーキとならないメリットがある。また、隠れ感染者を発見することができる可能性もあるなど、利点が想像以上に大きい。

日本でも拡充を始めているが…

日本でPCRの自費検査をする機関の一覧を厚生労働省が公表しているが、基本的に検査費用が2、3万円くらいするところが多い。しかも陰性証明書が必要であればさらに数千円の追加費用が必要になるなど高額で、気軽に受ける環境にはない。

一方、民間では、ソフトバンクグループ(SBG)が法人を対象に1回2000円でPCR検査をするサービスを開始した。また、木下グループも個人を対象に1回2900円でPCR検査をする検査センターを新宿と新橋に開設した。さらにSetolabo衛生検査所は、広島、神戸、名古屋、東京、岡山、香川県に1人5000円で受けられる「PCR検査サテライト」を開設。正式な陰性証明書は、公的な機関で改めて検査を受ける必要があるが、日本でもとりあえず検査を受けられる環境が整い始めた。

新型コロナPCR検査センター(東京・新橋)。検査時間は約3分、唾液で検査し結果は翌日までに判明。来店検査なら2900円で可能。

とはいえ、47都道府県すべてにまだあるわけではなく、国民がいつでも気軽に受けられる体制を整える必要性は誰もが感じているだろう。

日本人は「安心安全」という言葉をよく使うが、他の国と比べても、特に心の拠り所としての「安心」を求める国民性のように感じる。香港人は安心するために受けるのではなく、他人に感染させないために、念のために受ける人がほとんどだ。

日本人は相手に感染させないと同時に、心の落ち着きを求める=安心を求めるためにする。パニックに陥りやすい日本人の性格を考えるとPCR検査で落ち着くのであれば、社会的平穏という意味でとても大切だ。

例えば海外では飛行機に搭乗するには72時間前に陰性証明書が必要というのを条件としているところがある。それと同じように、電車に乗る72時間前や宿泊する72時間前の陰性証明書があれば乗車も宿泊もできるというふうになれば、感染の拡大をかなり抑制できるはず。PCR検査を拡充することは、こういったことにつながるのだ。

人類の歴史は感染症との闘いとの歴史でもありCOVID-19終息後も、確実に新しい感染症がやってくる。日本は対策が後手後手になる傾向があるので、将来のことを今から考えて、PCR検査がいつでもできるように万全の態勢を備えるようにしておくのが重要だろう。