「好きな仕事ができている」と思っている人は少ない。一方、「好きな仕事ができればやる気が出るのに」「もっと力を発揮できるのに」と思う人は多い。しかし、好きな仕事はできないと不満を言ってもできるようにはなりません。実は、好きな仕事は嫌いな仕事の先にあり、そこへの鍵は人間心理にありました。
バブル時代の就職活動
どうも好きな仕事をするのは難しいらしい……と、今は好きな仕事ができているので他人事っぽく話をしているけど、好きな仕事をする難しさは僕がよく知っています。特に、サラリーマンをやっていると好きな仕事をするのはさらに難しくなります。
僕は今44歳なので、就職活動を行っていたのは、バブルが崩壊した後くらいになります(一浪しているし笑)。当時は就職協定(企業が採用活動を開始する時期を取りきめた協定。~1996年)なんてものがあり、選考は大学4年の夏くらいに解禁になっていました。もちろん、その前に「模擬面接」なるものがあり、実際はそこで内々定なる合否判定がなされていたわけですけどね。この辺りの話は、織田裕二さんが主演している『就職戦線異常なし』という映画に詳しい。若い人が見ればビックリするかもしれないけど、バブル時代の就職活動の実態がリアルに描かれていいます。
まぁ、僕の場合は、正直、就職活動中に何かを考えていたわけではなく、かっこ良くて給料が多い企業がいいと思って、広告代理店に応募をしていた。何の仕事をするのかよくわからないけど、アートディレクター、プロデューサー、コピーライター(これはわかるよね)という仕事をしたいという具合。で、偏差値の高い学校が有利なのは、今よりも顕著で、特に学生時代に何かやっていたわけでもなく、成績も留年ギリギリだったので、面接の達人を読んでも内定は取れませんでした。
結局、印刷会社に就職をしたのだけど、理由は「コピーライター」という仕事があったから。ところが、配属されたのは営業部。広告の仕事ではなく、受注してくるのは、「伝票」や「箸袋」など。広告と言えるのは、チラシくらいだったわけで。僕は冴えない営業マンだったなと思います。
仕事がつまらないと思ったら自分の得意なことと”つなげる”
僕はコピーライターになりたかったけど、営業マンだったわけです。そこで、営業の仕事とコピーをつなげて、「書ける営業マン」になりました。結果、どうなったかというと、広告代理店のコピーライターに支払うだけの予算がない企業さんが、印刷会社で書ける営業マンの僕に仕事を発注し始めたのです。値段が代理店よりも安くしても、中間マージンがないから「書く」ことで利益を上積みできます。通常の印刷物より高くても広告代理店よりも安いので、お客さんも喜びます。僕は、こうして営業力のあるコピーライターになったわけです。
実は、こうした「つなげる力」はアイデアを出すときのセオリーでもあります。アイデアは「すでにあるものとあるものをつなげることで生まれる」というような話は、ジェームス・W・ヤングの『アイデアの作り方』(阪急コミュニケーションズ)という本にも書かれています。
つい先日も、クライアントさんのところで、新規事業を立ち上げるので、社内でロゴやキャラクターを募集したら、事務職の女性の作品が選ばれました。実は、彼女はイラストが趣味だったのだけど、そんなことを知っている人は社内におらず、そのイラストは事務職で働く彼女から見た「その企業」が表現されている秀逸なモノでした。
次にお話ししたいことは、営業のような人と接する仕事は、人の心理の勉強になるということです。
心理学を学ぶと仕事が楽しくなる
例えば、満員のエレベーターでは、ほとんどの人が上を見ていますよね。あれには理由があります。人はパーソナルテリトリーを確保したいという欲求があります。だから、自分が安心できる距離よりも内側に他人が近づいてくると不快に思う性質があるのです。
そんなことを考えると、やたらと近くに来て報告をしてくる部下の話はのけぞって聞いてしまうなんて経験も理解ができますよね。もちろん、営業マンはお客さんと近くで話す方が親しくなりやすくなります。さりとて、不用意に距離を縮めると不快に思われる。そんな時に、どうすればいいか? 小声で話せばいいのです(笑)。
人というのは本当に奥深くて、心理を勉強し始めると楽しくて仕方がありません。僕は、経済は人の心理の総和で動いていると思っています。なぜ、行列ができているお店の行列はどんどん伸びて、隣のお店は暇なのか? これも集団行動というひとつの心理です。その集団心理を利用したのが「マーケティング」です。
政治も人間の心理を応用していると言えます。与党に対して野党が取る戦略の多くは、与党を民衆の敵に仕立てて、自分たちは共に闘っているという共感を生み出していますよね。
結局仕事って、それが嫌いなことでも、一生懸命にやっていると、好きなこととつながるタイミングがあると思います。仕事のセンスがいい人がいるとしたら、つなげる力がある人だと思います。なぜって、彼らは仕事を楽しむ名人だから。仕事は自分一人でできないので、誰かと一緒にやることが前提となります。だからこそ、人間の心理を知っておくと、コミュニケーションが取りやすくなります。
今回の話はどうだったでしょう? 批判的に読んでいただいても、好意的に読んでいただいてもいいのですが、あなたの心理がなんとなく僕にはわかります(笑)。