ホテル代十数万から、誰とも会わない21日間…イギリス株もインド株も抑え込む香港の水際対策レポート

香港国際空港のPCR検査の結果待ちをする待機所

社会

ホテル代十数万から、誰とも会わない21日間…イギリス株もインド株も抑え込む香港の水際対策レポート

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東京五輪が近づいてきているが、日本人が一番懸念しているのは外国から新型コロナウイルスが持ち込まれて第5波が襲来し、再び緊急事態宣言が出される状況だろう。水際対策が重要なのは言うまでもない。アルファ株のみならずデルタ株(インド株)も抑え5月以降の新規感染者数が1桁台を推移する700万人都市、香港のとても厳しい水際対策をレポートする。

一日の新規感染者数1桁台を維持する感染症対策は当然厳しい

新型コロナウイルス対策で世界から称賛された台湾が、イギリス由来のアルファ株の抑え込みに失敗し苦しんでいる。日本でも感染力が増したアルファ株が猛威を振るったことで外国からの持ち込みに、より敏感になった。

人口約750万人の香港は2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験を生かし、PCR検査の早期普及や区域限定のロックダウン等で感染者を抑えることに成功してきた。例えば飲食店の場合、香港で一番厳しいのは18時以降の店内飲食禁止。日本ではほぼ実現不可能な対策だが、規制が一定の効果を発揮することを証明しているといえる。

また、香港ではリスクの高い地域からの入境およびワクチン未接種者の入境に対して世界最長の21日間隔離という厳しい水際対策を行っており、台湾を苦しめるアルファ株、インド由来のデルタ株の両方とも感染爆発は起こっていない。世界標準の14日ではなく21日としているのは、以前に外国からの入境者で14日を超えてから発症したケースがあったためだ。

強制隔離中のホテル代、最低15万円~は自己負担

具体的に見てみよう。まず香港に入るには、香港生まれのほか、外国人でも必要なビザを保有していることが条件となる。香港政府は他の国・地域の感染レベル評価を5段階に分けており、日本はグループBという3番目のランクに位置づけている。ここにはアメリカ、イギリス、フランス、シンガポール、韓国、ロシアなどもいる。

もともと日本は1つ下のグループCだったが3度目の緊急事態宣言とワクチン接種が進んでいないということで5月21日から1つ上の厳しいグループに変更された。ちなみにイギリスはBより厳しいグループA2だったがワクチン接種が進んだこともありBなった。世界における日本のコロナ対策の評価の一端がうかがえる。

日本のランクは5段階あるうちの真ん中の水色のところ(衛生署より)

グループBの入境者は、隔離期間分のホテルの予約確認書、72時間以内のPCR検査による陰性証明書(英語または中国語で、パスポートと同じ渡航者の名前と番号、検体採取の時刻が明示されたもの)を提出する必要がある。また、検査機関も政府機関またはISO15189の認定(臨床検査室を運営するための国際規格)を受けているという第3者機関が発行した証明書も合わせて出さなければならない。

強制隔離は、自宅ではなく香港政府が指定するホテルで行う。ホテルの価格はリーズナブルなものから5つ星までさまざま。安くても21泊ともなるとそれなりの費用がかかり、これが自己負担。最低でも15万円ほどするが、もし1泊1万円なら21万円になる。ワクチンを接種していなければ21日間の隔離を行い、3・7・12・19日目(合計4回)にPCR検査を受けなければならない。もしワクチン接種が完了し、かつ14日間を経過していれば、隔離期間は14日間に短縮され、PCR検査は3・7・12日目の3回に減る。また、隔離終了後7日間は自主健康管理期間となり、16日目と19日目にも香港内に政府が用意したPCR検査場に赴いて検査をしなければならない。

空港を離れるまで3時間半、隔離からは逃れられない

香港への入境に際し、筆者は72時間以内の陰性証明を取りにいかなければならなかったが、そもそも前述の条件に対応している国内の医療機関は多くない上に、証明書をすぐに作成できるところもたくさんあるわけではない。また、必要なのは公的な陰性証明書であり、民間で提供している数千円代の格安PCR検査とは異なり費用は3~5万円もする。いろいろな医療機関に問い合わせた結果、筆者は東京の新宿区にある国立国際医療研究センター病院で行った。費用は2万8500円とリーズナブル(?)。朝に検体を採取し、同日の16時半~17時の間に証明書を受け取るというものだった。

成田空港でのチェックインは、カウンターそばにある専用機械でチェックインを済ませれば通常は終わりだが、コロナではチェックイン後に機械近くにある専用テーブルに案内される。(筆者はまだワクチン接種を完了していないので)スタッフは21日分のホテル予約の確認書、72時間以内の陰性証明書、香港に入る資格の確認をする。

そうして香港到着後は、まず香港政府が用意した「電子健康及検疫資訊申報(Electric Health & Quarantine Information Declaration)というところにネットでアクセスする。必要事項を記入すると当人専用の新しいQRコードが送られてくる。これは、空港内にいくつか設置されたポイントに必要で、そこでは検疫職員がQRコードをスキャンすることで次の段階に進める。

その後、PCR検査を受けるが、鼻だけではなく口の奥にも入れられる。さらに進むと滞在先ホテルの確認、携帯電話番号が虚偽ではないかのチェックも行う。それが終了すると待機所に行くように促され、PCR検査の結果を待つ。約100分後、陰性であることがわかり税関に向かうよう指示される(混雑でひどいときは3、4時間待つという)。税関で入境手続きを終了すると大きな荷物を預けた人は荷物を受け取る。その後、小さなホールに出るとカウンターがあり、自分が隔離するホテルの専用シャトルバスの列を教えられる。到着からバスに乗り込むまでの所要時間は約3時間半かかった。導線は一方通行なので、無論、逃げ出すことはできない。

誰とも会わない21日間

“隔離ホテル”に到着しチェックインを済ませるが「カードキーは外からは1度しか使えないようにプログラミングされているので気をつけて」と言われる……。内側からは何度もドアを開けられるが、外からは1度だけなので、こっそり抜け出して戻るといったことができない仕組みになっている。なお、隔離に違反すると最大で罰金2万5000香港ドル(約35万円)、半年の禁固刑だ。

ドアの前には2層構造の台が置かれている。上の段は食事や差し入れなどがあったときに使うもの。下段はゴミや使用済みのリネンを置く。食事は一日3食あり、1週間の献立表がホテルから渡される。つまり、メニュー変更がなければ同じローテションを3度繰り返すことになる。ホテル予約の時点でレギュラー、ベジタリアン、ハラルと選択可能だ。食事が届けられるとノックで知らされる。

食事メニュー(レギュラー)の例。
ドア前に並ぶ台。上段に食事が置かれているのがわかる

シーツやバスタオルなどのリネン系は事前に部屋に数枚置かれているので、自分で交換しなければならない。もし足りなければ、フロントに電話して追加をもらう。使い終わったリネンは大きなゴミ袋が渡されるので、そこにい入れて“下段”に置けば、あとでスタッフが持って行ってくれる。つまり、隔離終了まで、私(=隔離者)は誰一人とも接触しないようになっているのだ。

4回のPCR検査だが、最初の1回目はチェックイン時に唾液を使うタイプの検査キットをもらう。そこに必要事項の記入と唾液の検体を容器に入れる。政府職員が検体の回収にくるのでそれを待つ。残り3回は担当者が滞在先の部屋に来て鼻と口から検体を収集するタイプの検査を行う。4回すべてで陰性であれば(その間に1回でも陽性になれば、香港政府が用意した病院に強制入院)、隔離最終日に「今日いっぱいで隔離は終了です」という通知が携帯電話に送られてくる。最後にチェックアウトをして隔離終了だ。

唾液用のPCR検査キット

日本独特の隔離の難しさ

日本に入国する際も72時間以内の陰性証明書が必要であり、空港内でスマホにCOCOA(新型コロナウイルス接触確認アプリ)などのアプリをインストールし、PCR検査を受けなければならない。インド、イギリス、オランダ、フランス、エジプト、アメリカの一部(アメリカの場合は州ごと)などから入国した場合は、検疫所が確保した成田空港近くにある宿泊施設に10日間の待機を求める。待機中3、6、10日目に改めてPCR検査を行い、いずれも陰性の場合は宿泊施設を出て、残り4日間を自宅待機するというシステムだ。しかし、なぜ最初から14日間にしないのだろうかと疑問がわかないだろうか?

実はこのやり方、最初、宿泊施設での待機は3日のみだったが、世論の懸念する声があがり、現在は10日まで段階的に伸ばしてきた経緯がある。厚生労働省の担当者によると「14日間が理想であることはわかっているが、地元民の反対がある」と実情を話す。陽性者がいるかもしれないので自分の街には長く滞在してほしくないというのが市民の率直な思いであり、成田空港の歴史を考えるとより複雑な問題だ。表にはあまり出てこない事柄だが、これは日本ならでは水際対策の難しさがあるといえる。

香港のような強制隔離をこれだけ徹底すれば感染力の強まった変異株も抑え込めるのだろうが、現実問題として実行するのは簡単ではない。その一方で、ワクチン接種などが記録されるワクチンパスポートもこれから世界標準になる可能性があるだけに、各国・地域の政府は、これらも巧みに利用した水際対策を考えるべきだろう。