菅首相退陣へ、後手後手対応で総裁選出馬断念

写真:ロイター/アフロ

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菅首相退陣へ、後手後手対応で総裁選出馬断念

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菅義偉首相が9月3日午前に行われた自民党役員会で総裁選への不出馬を表明し、約1年で退陣することとなった。菅首相は直前まで続投に意欲を示していたが、党役員人事や衆院解散などをめぐる対応に批判が殺到。このままでは総裁選や衆院選に勝ち抜くのは難しいと判断して退陣を決意したとみられる。総裁選はすでに出馬を表明している岸田文雄前政調会長に加え、国民人気の高い河野太郎行政改革担当相や石破茂元幹事長らを軸とした戦いになりそうだ。

ドタバタ劇を繰り広げた末の退陣

発足1年での電撃的な退陣劇は13年前の福田政権に重なる。安倍晋三首相の後任として2017年9月に就任した福田康夫首相だったが、参院の過半数を野党が占める“ねじれ国会”下で政権運営に苦慮。衆院議員の任期満了が1年後に迫るなか、福田首相は2018年9月に突然記者会見を開き、退陣を表明した。

ただ、当時と異なるのは福田首相が「自分では選挙を勝てない」と考えてスマートに身を引いたのに対し、菅首相は最後まで自らの「続投」にこだわり、ドタバタ劇を繰り広げた末に退陣に追い込まれたことだ。

岸田前政調会長が総裁選に名乗りを挙げると、実質的な“二階外し”を表明した岸田氏に対抗して自らの後見役である二階俊博幹事長の交代を表明。「恩人を引きずり降ろしても自分だけは生き残りたいのか」との批判を招いた。

起死回生策として総裁選前の衆院解散という奇策を検討したが、その案が報道されると「総裁選を先送りしてまで生き残りたいのか」とさらに炎上。すぐさま火消しに走ったが、党内隅々にまで燃え広がった“菅アレルギー”の炎を消し去ることはできなかった。首相の地盤である自民党神奈川県連の幹事長は9月2日、「首相を応援しない」と明言した。

首相批判が渦巻くなか、政権浮揚策として期待していた党役員人事も難航したようだ。二階幹事長の後任として小泉進次郎環境相や石破氏、河野氏らの起用を模索したが、菅首相の求心力が急低下する中で人選は難航したもよう。ついに続投を諦め、9月3日午前の自民党役員会で総裁選不出馬を表明した。首相が二階幹事長に出馬意向を伝えた翌日だった。

総裁選の図式はガラリと変わる

菅首相の不出馬表明により、9月17日告示、同月29日投開票の総裁選は図式がガラリと変わる。党内では首相の有力対抗馬として岸田氏の支持が高まりつつあったが、もともと国民人気の高い政治家ではない。世論調査で「次の首相」として毎回上位に名前の挙がる河野、石破両氏が名乗りを挙げれば一気に有力候補になるだろう。菅政権の閣僚だった河野氏も、コロナ禍で菅首相の対抗馬になることに慎重姿勢だった石破氏も、首相の不出馬で「立候補できない」理由はなくなった。

ただ、河野氏も石破氏も発信力の高さはピカイチだが、ともに“一匹狼”タイプで党内の国会議員からの評価が低い。「河野首相」や「石破首相」の誕生を阻止するため、岸田氏や、その他の候補に支持が集まる可能性もある。

今回の総裁選は国会議員票に加え、党員・党友の票が重みを持つ「フルスペック型」で行われる。党員・党友票が先に開示されるため、2001年の小泉首相誕生のときのように、あまりに差が大きければ国会議員票が“勝ち馬”に殺到する可能性がある一方、地方票で上回る石破氏を安倍首相が国会議員票でひっくり返した2012年総裁選のような展開もありうる。

候補者たちの動きとともに、長老たちが水面下でどのように動くかも見過ごせない。

ここまでお疲れ様とは言っておこう

ここまでずっと菅首相批判をしていたのだから、辞めるという人に「俺にも言わせろ」も何もないのだが、総裁選前の解散をちらつかしたり、いきなりの党役員人事を考えたり、権力への妄執で繰り出す手が悪手過ぎて最後は自ら権力の座から降りる首相。ここまでお疲れ様とは言っておこう。

菅首相vs.岸田氏だと岸田氏が有利と見ていたが、菅首相が辞めて国民的人気の高い河野氏が手を挙げてしまったので、岸田氏は不利になるとみた。勝つためには、細田派、麻生派に支持してもらわないと地方票では勝てないだろうから。

そうすると、今まであった改革機運も、結局派閥の論理かよ、ということになってしまう。石破氏の動向も気に掛かるところだが、さてさて。