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苦い思い出は昔の話? AIでパートナー選びも効率化

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昔と比べ、マッチングアプリで出会った男女が結婚する例が増えている。筆者の周りのカップルも、「出会いはアプリ」というケースは割と多い。かつての“出会い系”と違って本人確認が必要なサービスも多く、真剣な出会いを求める人に活用されているのだろう。出会いの場がデータに移行するということは、AIを活用できることを表す。AIが人の特徴を数値化し、自分に合った相手を効率的に探し出してくれるマッチングサービスは、奥手な人や忙しい人にはうってつけのサービスかもしれない。

福利厚生の一環で大手企業が導入する「Aill」

AIを使った国内のマッチングサービスとして「Aill(エール)」が挙げられる。同サービスは従来のものと違って企業が福利厚生として導入するもので、利用対象者は登録した企業の社員に限られる。登録企業は約800社に及び、九州・山口地域に事業所を有する法人約1000社が加入する九州経済連合会も、人口減少の問題の解消を目指し2020年9月に同サービスと提携。NTTグループやJR東日本、三菱電機などの大手企業も導入している“狙い目”のサービスだ。

Aillは登録した基本情報と価値観をもとにAIが相手を探し出し、一日に1回、相手を紹介してくれる仕組みとなっている。マッチングアプリだが1カ月に30人としか出会えない。機会は少ないように思えるが、1カ月以内のデート進展率は約3割、デートに誘った場合の受託率は8割を超えるそうだ。

成功率が高い理由にはAIによるアシスト機能が挙げられる。アプリにはLINEのようなチャット機能が付いており、「現段階ではデートに誘わないほうが良い」「相手の好きな映画を聞いた方が良い」などAIが提案する会話内容が表示される。会話下手でも何とか話を続かせられるわけだ。また、好感度ナビゲーションが相手の自分に対する好感度をグラフとして表示してくれるため、振られそうな相手にアタックしてしまう確率も下げられる。

おそらくAIがアプリ上での相手の動きを認識し、自分よりも興味を持っている相手がいるかどうかを判断して自分への好感度を推定しているのだろう。デートから交際に至る確率はAIアシストを利用しない場合が23%に対し、利用すると47%まで上昇することからAI機能の有用性がわかる。成功率が高ければマッチングAIの需要も伸びていくはずだ。Aillに限らずさまざまなマッチングサービスでAIが活用されていくだろう。

AIが通話をレクチャーする「AIMM」

「AIMM」は2015年にアメリカで設立されたAIマッチングサービスのベンチャーだ。AIマッチングと聞くとAillのようにAIが相手を探し出すと思いがちだがAIMMはそれだけではない。同サービスのAIは“出会いをリード”してくれる。

まず利用者は最初にアプリ上でAIと会話することになる。AIは好きな動物やスポーツ、人生観やライフスタイルなどさまざまな質問を通じて利用者の特徴を把握する。デートになった場合の架空のシチュエーションについても質問し、利用者がどのような出会いを求めているかに関しても認識する。他のサービスでは避けられがちなセックスに関連した質問もなされるようだ。こうして、AIは1週間かけて利用者の特徴を把握しようとする。

そしてAIは利用者の特徴や好みにあった相手を見つけ出し、その人の基本情報や好み、理想のデート像などを教えてくれる。だが、すぐに直接やり取りするわけではない。利用者がその人に興味があればAIは相手と仲介するが、興味が無ければ直接連絡することなく避けることができる。女性には安心な仕様といえる。

相手とのファーストコンタクトはアプリ上の通話で行われるが、通話の前にレクチャーしてくれる上、通話後は相手の印象などを教えてくれる。ちなみにAIMMにはチャット機能がなく同時に複数の異性とコンタクトがとれない仕様となっているため、利用者は緊張感をもってやりとりすることになるだろう。少しくどい感じは否めないが、誘うのが苦手ながらも真剣な出会いを求める人にはマッチするサービスといえそうだ。

ライフスタイルを分析し、最適な相手を見つけ出す

自分が入力した基本情報からではなく、普段の行動パターンをAIが分析しマッチングするサービスもある。TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の関連会社であるCreative 1は「D-AI」というサービスを提供している。

D-AIは利用者のTカード情報からマッチしそうな相手を探し出す。TSUTAYAで借りたビデオや音楽、Tカードを利用した飲食店やアパレル店というように、Tポイントを通じて行動パターンが蓄積され、これを基にAIが利用者の性格を認識する。データベース上には機械学習で蓄積された円満夫婦のモデルが存在するが、AIは利用者の性格から円満夫婦のモデルにマッチするような相手を見つけ出し、紹介してくれる仕組みだ。

通常のマッチングサービスは顔写真と年収が重視されがちだが、D-AIは初期の段階ではあえてそのような情報を見せない仕様となっており、衣食住の好みでマッチングするよう設計されている。ちなみに現段階では婚活イベント企業を通じて提供されているため利用者が直接登録することはできないようだ。

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中国のマッチング市場では求められる年収条件が日本以上に厳しく、持ち家の有無も重視されるようだ。しかしこの国でも行動パターンからマッチングするサービスが提供されている。「陌陌(MOMO)」は近くにいる人とやり取りができるアプリで、普段出かける場所や旅行先で相手を見つけられる。また、別のSNS「Timebook」はスマホに保存した写真をAIが認識し、趣味や好みが近い相手を探し出す。スイーツの写真が多ければスイーツ好きと、山の写真が多ければ同じく自然の写真を多く保存する相手と出会えるのだろう。自分が登録する基本情報は“盛る”ことができてしまうが、自然体に近い行動パターンを基にするのであれば、より適した相手が見つかるかもしれない。

精度は高まるが、苦い思い出が無くなってしまうかも

AIは基本的に機械学習によって精度を高めていく。利用者それぞれの性格や行動パターンを認識し、マッチしそうな相手を探し出すわけだが、2人がうまくいけば成功パターンとして蓄積され、破局すれば失敗パターンとして認識する。学習回数が多いほど各パターンの成功率は固定される。

仮に読書好き同士のマッチング率が70%、読書好きと美術好きのマッチング率が80%であり、自分が読書好きならばAIは美術好きを紹介するだろう。将来、AIの精度がより高まり、趣味に限らず食や顔の好みまで精査するようになれば限りなくマッチング率100%に近いサービスが誕生するかもしれない。

ただ、失敗する確率は減少するが、若き日の苦い思い出や想像をめぐらす緊張感の無い恋愛は楽しいのだろうか……という疑問は残るのだが。