国会議員に月100万円支給され、「第2の給料」とも呼ばれる文書通信交通滞在費(通称:文通費)について、一部野党が求めていた「使途の公開」は見送り、逆に名称を変更して事実上、使途が拡大されることが決まった。与野党は使途の公開や未使用分の国庫返納について継続協議するとしているが、今回の改正でお茶を濁す可能性が高まっている。
野党案の「使途公開」は保留に
文通費は国会議員の給与である歳費とは別に、毎月100万円支給される経費。地方議員でいうところの政務活動費にあたるが、地方議員とは異なり使い道などを報告する義務が無い。使途の報告義務がある国会議員の政党交付金や地方議員の政務活動費はたびたび不正利用が問題となるが、文通費の場合は使い道がわからないので問題にすらならない。
見直しの機運が高まったのは2021年秋の衆院選直後。10月14日解散、31日投開票だったため再選した議員でも半月、新人議員に至っては1日しか議員の座に就いていなかったのに10月分として満額の100万円が支給されたことを日本維新の会の新人が問題視。維新と国民民主党は「日割り支給」と「使途の公開」、「未使用分の国庫返納」の3つを柱とする歳費法改正案を国会に提出。後に立憲民主党もその流れに加わった。
自民党もさすがに“1日勤務の満額支給”には反論できず、日割り支給には賛同する考えを示して与野党間の協議を開始。しかし、国会では議員の身分にかかわることは与野党の「全会一致」が原則のためなかなか結論が出ず、2021年の臨時国会では法改正を断念。今国会でもすべての事項についてはまとまらず、いったん日割り支給や名称変更だけを決め、使途公開や未使用分の国庫返納については「引き続き議論し結論を得る」こととした。4月14日の衆院本会議で関連法案が通過し、15日の参院本会議で成立させる。
「調査研究広報滞在費」への名称変更で事実上の使途拡大
問題なのは今回、改正案に盛り込んだ名称変更だ。歳費法は文通費の目的を「公の書類を発送し及び公の性質を有する通信をなす等のため」と定めているが、書類の作成や通信にかかるコストは制度創設時より大幅に低下しており、目的にずれが生じているとして名称を「調査研究広報滞在費」に変えるという。目的も「国政に関する調査研究およびその広報、国民との交流、滞在等の議員活動を行うため」と改め、新たに「広報」と「国民との交流」も使途に加わる。これは事実上の使途拡大であり、選挙活動につながるお金の使用も法律で認められることとなる。
また、日割り計算の内容には不可解な点がある。日割り計算は議員に当選して任期が始まった日から、任期が満了して退任する月や、自らの意思で辞職した月までを対象とするが、衆院解散や死亡の場合は満額支給を維持するという。給与の扱いにおいて、衆院が突然解散されて職を失ったり、死亡して家族が路頭に迷ったりするのは忍びない、というのならまだわかるが、なぜ、議員の立場で無くなった後も「経費」を支給する必要があるのか。今回の改正案は“お手盛り”と批判されても仕方ないだろう。
事務所の人件費から飲食費・交遊費、選挙費用まで
そして、一番重要なのは今回結論を見送った「使途公開」だ。国会議員が政党を通じて国から受け取る「政党交付金」や、自分たちが政治資金パーティなどで集めた「政治資金」は政治資金収支報告書等で何にいくら使ったか、細かく報告されることが義務付けられている。国民の税金や寄付金を使っているから当然のことであり、文通費だけ使途を公開できない理由はどこにもない。反対するのは国会議員の特権を失いたくない、それだけだ。
実際に国会議員はこの文通費をどのように使っているか。筆者の知る限りではいくつかのパターンに分かれる。
新人議員やお金集めに不得意な野党議員などは全額を事務所に預け、事務所が私設秘書の人件費や地元事務所の家賃などの経費に充てている。
ある程度余裕のある中堅議員などは半額を事務所に預け、半額を自分で自由に使う。
与党のベテラン議員やお金集めのうまい議員などは全額を自分で自由に使うのが一般的だ。
いったん財布に入れてしまえばお金に色はないので、給与とごちゃ混ぜになって個人的な飲食費や生活費、はたまた銀座のクラブでの交遊代やブランドバッグの購入代になっているのだ。
選挙に向けて貯金するという話もよく聞く。衆院議員の平均的な任期は2年半程度。文通費には税金が一切かからないので月100万円そっくりそのまま貯めれば3000万円の貯金ができる。金のかからない小選挙区の選挙費用としては十分だ。
もちろん、政治資金の余裕にかかわらず清廉潔白な使い道をしている政治家もいるとは思うが、与党側から公開しようという声が出ないのは多かれ少なかれやましいことがあるからだろう。減らすと言っているのではない。公開すべきと言っているだけなのだから。
与野党は使途公開について今国会中に結論を出すとしているが、自民党から前向きな声は聞かれない。野党の中にも内心では「見送られたらラッキー」くらいに考えている議員が少なくないだろう。本気で使途公開に向けた協議を続けるか、今回の法改正でお茶を濁すつもりか。各党の“本気度”をしっかり見極めなければならない。