ウクライナでロシアが苦戦する間に…北欧中立2カ国のNATO加盟は実現するか

写真:ロイター/アフロ

政治

ウクライナでロシアが苦戦する間に…北欧中立2カ国のNATO加盟は実現するか

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ロシアによるウクライナ侵攻で、弱体化を噂されていたNATOのブランドは逆に大きく高まった。しかし、西側と本格的に協調し始めた周辺国に対し、ロシアは黙って見過ごすようなことはしないだろう。

高まるNATOのブランド力

ロシア・プーチン大統領は、自らの勢力圏内と見ていたウクライナが、宿敵・NATO(北大西洋条約機構)入りを目指したため、これを阻止しようと2022年2月24日に全面侵攻、かえってNATOのブランド力と求心力を高めてしまった格好だ。

まず、2022年4月24日のフランス大統領選では、NATO存続を訴える現職マクロン大統領が再選。一時は「NATO軍事機構からの脱退」(NATO組織は軍人が担う作戦連合軍などの「軍事機構」と、主に文民が事務を務める「文民機構」とに大別される)を叫ぶ対抗馬の極右・ルペン候補が当選する可能性も低くなかったが、結局マクロン氏が再選され、西側の対ロシア戦線から欧州の要であるフランスが脱落する最悪シナリオは回避された。「不満はあるが、やはりNATOとして結束しプーチン氏の横暴に対抗すべき」との現実路線を選んだフランス国民が多かったようだ。

これと並行してもう一つ注目なのが北欧の中立国、フィンランドとスウェーデンがそろってNATO加盟へと大きく舵を切ったこと。プーチン氏にとってはまさに“悪夢”で、「自国の勢力圏」だと見なしていたウクライナのNATO加盟を阻止しようと侵略している最中に、ふと振り返れば「鬼の居ぬ間に洗濯」よろしく背後の中立国がNATO加盟に動いていた。

プーチン氏にとっては大失態で、フィンランドのNATO入りは、彼の故郷サンクトペテルブルグが150kmほど先の“宿敵”と対峙する最前線と化すことを意味する。実際、米陸軍が持つ多連装ロケットシステム(MLRS)から発射可能なATACMS地対地ミサイルの射程は165kmで十分届く。プーチン氏にとっては個人的にも悩ましい限りだろう。

「正式加盟」と「準加盟」では雲泥の差

さて外交・安全保障面において長年二人三脚で臨んできたフィンランド、スウェーデン両国にとって今回のロシアの侵略行為は驚愕だった。これまでの(軍事的)中立政策が全く無力だからだ。2022年4月、両国首相はそろって「NATO入り」を宣言、すでに議会での審議が始まり5月には正式申請し、最終的にNATO加盟国30カ国全員が「OK」を出せば加盟となる。

国家の存亡を左右する極めて重要な軍事条約の締結でありながら、早ければ2022年内、遅くても2023年夏には正式加盟に漕ぎつく模様で、「寄らば大樹の陰」に大急ぎで入り、ロシアの脅威から身を守ろうとする両国の緊迫度が伝わってくる。

両国の場合、NATO加盟のハードルはかなり低い。「中立」とは言いながら冷戦後は西側寄りを加速、NATO加盟国軍の国内展開・移動も可能で、共同演習も頻繁に行うなど事実上の「NATO準加盟国」と言ってもいいほどだからだ。

停戦条件にプーチンがゼレンスキーに迫る「非武装・中立」とは

2022.4.4

だが今回のウクライナ侵攻は、奇しくも「正式加盟」と「事実上の準加盟」では雲泥の差であることをまざまざと見せつける格好となった。

NATO入りを懇願してきた“非加盟”のウクライナは、ロシアに侵略されながらもNATOの軍事介入は望めず、武器援助や情報提供どまり。正式メンバーでないためNATOの“伝家の宝刀”第5条に掲げた集団的自衛権、つまり加盟国に対する攻撃は全加盟国への攻撃とみなし武力で対応する、という“正式メンバーだけの特典”の対象外。もちろんNATOがウクライナを軍事支援しなければならない義務もない。

ただし、ソ連崩壊後、一時的に核保有国となったウクライナが核を手放すのと引き換えに米英ロが安全を保障するという「ブダペスト覚書」を1994年に署名しており、ロシアは2014年のクリミア侵攻ですでに反故にしているが、少なくとも米英両国はウクライナの安全は保障しなければならないという事情はあるだろう。

冷徹な国際政治を目の当たりにした北欧2国にとって、核兵器を持ち国連安保理の常任理事国で拒否権を有し、しかも領土的野心に満ちた地続きのロシアを前に、もはや「中立」や事実上の“NATO準加盟国”では独立はおぼつかないと痛感したようだ。

フィンランド軍の装備は今やNATO式。陸軍の主力戦車、ドイツ製のレオパルト2A6 写真:SA-Kuva

フィンランドにとって「ウクライナ」はデジャブ

とりわけフィンランドは独立以来ロシアの脅威にさらされ続けており、ウクライナ侵攻は他人事ではなく、むしろデジャブとも言える。

フィンランドは数百年にわたりスウェーデンの支配下にあったが、17世紀末期に台頭したフランス・ナポレオン1世が欧州大陸征服を目論み快進撃、戦いに敗れ軍門に下ったロシア帝国はナポレオンの命令に従い盟友のスウェーデンを攻撃。スウェーデンは講和に応じナポレオンに屈服すると、ロシアは功労賞としてとしてフィンランドの割譲を賜り、以後100年以上「保護国」として支配する。

だが20世紀に入り第1次大戦が勃発すると転機が。連合軍の一員として帝政ロシアはドイツと戦うが、戦争末期の1917年にロシア革命が発生し帝政は崩壊、世界初の社会主義政権が誕生(後のソ連)するとともに対独戦から手を引くと、この混乱に乗じて1919年にフィンランドが独立を宣言。

だが版図拡大に熱心なスターリンがソ連の最高指導者につくと、支配していたフィンランドに触手を伸ばす。そして台頭し始めたヒトラー総統率いるドイツと1939年に「独ソ不可侵条約」を締結、東欧分割の密約を交わす。これに基づきドイツがポーランドに電撃侵攻し第2次大戦が巻き起こると、これに乗じてスターリンもフィンランドに侵攻。いわゆる「冬戦争(第1次ソ・フィン=ソ芬戦争)」で、フィンランド軍は善戦するものの、大兵力のソ連を軍に対し形勢逆転は無理と判断、1940年3月に講和(モスクワ講和条約)を受け入れる。このとき、フィンランドは国土の1割に相当する東カレリア地方をソ連に差し出すことを強いられている。

その後もスターリンの脅威は収まらないため、これに対抗するためフィンランドは何とヒトラー・ドイツと軍事同盟を結び、後ろ盾を期待する。1941年6月にドイツが不可侵条約を破棄しソ連に軍事侵攻すると、フィンランドもソ連に宣戦布告。戦闘は3年以上続くが、ドイツが劣勢になってきたタイミングで、フィンランドとソ連双方は1944年9月に停戦。ただしここでも前者は領土の一部割譲と多額の賠償金をスターリンに差し出さなければならなかった。

継続戦争で前線で戦いドイツ軍戦車部隊を視察するフィンランド軍の英雄・シーラスヴォ将軍 写真:SA-Kuva

加えて大戦後もソ連はフィンランドを自国寄りの中立国とし、対峙する西側と本国との間の“緩衝地帯”とするため、1948年に悪名高き「フィンランド・ソ連友好協力相互援助条約」(芬・ソ友好条約)をフィンランドと締結。軍事・治安・情報部門は事実上ソ連の統制下に置かれ、政治・報道・言論もモスクワのチェックが及ぶというもので、「友好協力」とは程遠い内容だ。万が一NATO軍がフィンランドを通過してソ連を攻撃するような場合は、これに抵抗する義務すら負っていた。ただしこれと引き換えに資本主義経済は許され、西側とは比較的自由に経済活動を行っていた。これがいわゆる「フィンランド化」で、この条約はソ連邦崩壊後の1992年に破棄された。

NATO入りを阻止したいロシアがさらなる暴挙も

今後気になるのが、NATO加盟阻止とばかりにロシアはウクライナ同様、フィンランドやスウェーデンに軍事攻撃を仕掛けるのでは……という懸念だ。一部報道はロシア軍の対艦・対空ミサイル・システムがフィンランド国境付近に展開し始めたとも伝えており、さらにNATOに加盟した場合はバルト海の非核化の協議も中止し、さらにフィンランド国境地帯に(戦術)核ミサイルを配備せざるを得ない、といった具合に軍事的揺さぶりをかけ始めている。

ウクライナとの激闘中に、さらにフィンランドにも戦線拡大すると、二方面作戦となり軍事作戦上は“下の下”ともいうべき愚策を演じることになるが、ウクライナの作戦を一旦中断して戦力をフィンランド方面に振り向ける、という力技もやりかねない。

要するにロシアはフィンランドやスウェーデンのNATO入りを阻止するため、加盟の手続中に両国に対し軍事攻撃を仕掛けるかもしれないということ。

国際紛争を抱えた国を軍事同盟に組み入れれば、既存の加盟国は自動的にその紛争に参戦しなければならなくなる。「集団的自衛権」による紛争抑止が最大の特徴であるNATOにとって、これは本末転倒で、NATO加盟30カ国全員が加盟に賛同するとも思えない。となれば両国のNATO参加は無期限延期が必至となり、この段階でロシアの思惑は達成されたことになる。もちろん両国はまだNATO非加盟であるため、今回のウクライナと同様、米英などが軍事介入する義務はないと、プーチン氏は読むハズだ。

「まさかウクライナには全面侵攻しないだろう」と誰もが思いながら、その「まさか」の暴挙をやってのけるプーチン氏。果たしてさらなる戦線拡大に走るのだろうか。