NATO首脳会議へ日本の首相が初参加する意味

アジア安全保障会議で基調講演する岸田文雄首相(2022年6月10日) 写真:ロイター/アフロ

政治

NATO首脳会議へ日本の首相が初参加する意味

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岸田文雄首相は、6月29日・30日に開催されるNATO首脳会議に出席する。NATO加盟国ではない日本の首相がこれまで同会議に出席することはなく、今回出席することになった背景には、ロシアによるウクライナ侵攻があることは明らかで、それ以前から日本が直面していた中国・北朝鮮の動きが活発になっていることも関係していると見られる。その意味を探る。

日本の首相として初

日本を取り巻く安全保障情勢が一段と複雑さを増すなか、岸田文雄首相は6月26日から3日間の日程でドイツ南部エルマウにおいて開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)に参加した後、29日から30日にスペイン・マドリードで開催予定の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席する予定となっている。

G7に参加することは当然として、これまで日本の首相がNATO首脳会議に参加したことはない。その背景には、台湾有事や人権問題、海洋における現状変更(領土や主権を一方的に侵害する行為)など、大国化する中国の動きに歯止めが掛からず、また、ロシアによるウクライナ侵攻で日露関係がこれまでになく冷え込み、今後のロシアによる日本周辺での軍事的行動が読めないという危機感があるのだろう。

また、近年、イギリスやフランス、ドイツやオランダなど欧州各国がインド太平洋に軍事的プレゼンスを見せているが、日本としてはNATOに接近することで欧州のインド太平洋へのさらなる関与を呼び掛けたい思惑もあろう。

では、具体的に岸田首相がNATO首脳会議に参加する背景を見ていきたい。それは最近の安全保障情勢からも十分に考えられる。

バイデン米大統領の訪アジアに反応する中・露・北朝鮮

バイデン米大統領が5月20日から5日間の日程で日韓を初めて訪問したが、23日に開催された日米首脳会談ではバイデン大統領が日本の対ロ姿勢を高く評価し、台湾や海洋覇権を強める中国に対する強い懸念を共有した。また、その翌日には・アメリカ・オーストラリア・インドの4カ国で構成されるクアッド(Quad)の首脳会合も開催。共同声明で、インドの立場を配慮しロシアを名指しで批判しなかったが、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、今後5年間で同地域のインフラ整備に日本円で約6兆3800億円の支援や投資を実施していく方針が発表された。まさに、これは中国が進める一帯一路に対抗するものになろう。

しかし、バイデン大統領の日韓訪問、クアッド首脳会合に合わせるかのように、中国やロシア、北朝鮮は軍事的なけん制を見せた。5月24日には中露両軍の爆撃機が日本海や東シナ海、西太平洋上空で長距離にわたって共同飛行したのが確認された。2021年10月にもロシア海軍の駆逐艦と中国海軍の最新鋭ミサイル駆逐艦が日本海から津軽海峡を通過し、千葉県の犬吠埼沖、伊豆諸島沖、高知県の足摺岬、鹿児島県の大隅海峡を一緒になって航行したことが確認され、同月には極東ウラジオストク沖の日本海で4日間にわたって合同軍事演習を実施した。

また、ロシアはウクライナ侵攻以降、極東地域で日本をけん制する動きを見せている。4月14日にはロシア海軍が極東沖の日本海でウクライナ侵攻のときにも使用された巡航ミサイル「カリブル」の発射実験を行い、3月30日には北方領土の国後島で軍事訓練を実施するなどしている。

一方、北朝鮮はバイデン大統領が帰国した翌日の5月25日、首都・平壌(ピョンヤン)郊外からICBM=大陸間弾道ミサイルと推定される弾道ミサイルと短距離弾道ミサイルなど合わせて3発を発射した。そしてこの6月にも北朝鮮が5日に短距離弾道ミサイル8発を発射したことに対抗して、米韓両軍は6日、地対地ミサイル8発を日本海に向けて発射し、北朝鮮を軍事的にけん制した。ユン政権になって米韓の安全保障協力は強化される方向で、米韓両国の軍事的協力が続けば北朝鮮による軍事的威嚇は今後激しくなるだろう。一方、米政府高官は6月7日、北朝鮮が北東部・豊渓里(プンゲリ)の核実験場で核実験の準備をすでに整えいつでもできる状況にあるとの見解を示した。

安全保障に対する脅威は増大している

一連の出来事をみれば、中国とロシア、北朝鮮が日本やアメリカの動きを注視し、それによって威嚇的行動を取っていることは想像に難くない。中露による結束のように、中国北朝鮮、ロシア北朝鮮という結束ができる可能性は現時点で低いと思われるが、今後もこういった行動が続くことは間違いない。

これまで日本として日本北方におけるロシアの行動はそれほど気にせず、中国や北朝鮮に集中できる環境があったと言えよう。しかし、急速な日露関係の悪化により、日本は中国ロシア北朝鮮というまさに3正面の脅威に直面するようになった。

ロシアは現在ウクライナ侵攻でマンパワーを集中させており、極東でどれほどの軍事プレゼンスを示せるかはわからず、日本にとっては今後も中国が最大の課題であることに違いはない。しかし、昨今の状況はこれまでにない安全保障環境であり、岸田首相のNATO首脳会議参加の背景にはこういった懸念があることは間違いない。