【第2次岸田改造内閣】骨格維持・経験者起用・バランス重視 岸田首相の狙いは

写真:ロイター/アフロ

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【第2次岸田改造内閣】骨格維持・経験者起用・バランス重視 岸田首相の狙いは

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岸田文雄首相は8月10日、内閣改造と自民党役員人事を行った。松野博一官房長官や麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長ら“骨格”は維持しつつ、新型コロナウイルス対策や外交・防衛など重要政策を担う閣僚には経験者を再起用。各派閥のバランスや要望にも配慮した手堅い人事とした。旧統一教会との関係を認めた閣僚7人を交代させたが、早くも複数の新閣僚が教会との関係を認めており、国会での火種となりそうだ。

政策的なバランスを重視

「骨格を維持しながら、有事に対応する『政策断行内閣』として、山積する課題に対し、経験と実力を兼ね備えた閣僚を起用した」。岸田首相は内閣改造後の記者会見でこう語った。

19人の閣僚のうち、松野官房長官、林芳正外相、鈴木俊一財務相、斉藤鉄夫国土交通相、山際大志郎経済財政・再生相の5人を留任。コロナ対策の司令塔であり、感染法上の分類見直し議論という難しい対応を迫られる厚生労働相には2度の経験に加え、コロナ禍で官房長官も務めた加藤勝信氏を据えた。

防衛予算の拡大という重要課題を抱える防衛相には13年ぶりの再登板となる浜田靖一氏を起用。亡くなった安倍晋三元首相の実弟である岸信夫前防衛相は交代させたが、国家安全保障担当の首相秘書官に起用し、保守派への配慮をみせた。電力需給のひっ迫や原発再稼働という重い課題を抱える経済産業相には旧通商産業省(現経産省)出身で、経済財政・再生相の経験もある西村康稔氏を起用した。

重要ポストにはいずれも実力派を置いた印象だが、同時に政策的な“バランス”を重視したようにも見える。例えば防衛予算をめぐっては、党内には、2倍以上への増額を求める保守派から据え置きを求める慎重派までさまざまな意見があり、どちらを起用しても党内がまとまらない。浜田氏は安全保障政策に詳しい国防族の重鎮だが、一見こわもての外見と違って性格は温和で、調整型の政治家。浜田氏の起用によりじっくりと党内議論を進める狙いがありそうだ。

一方で、初入閣は9人。このうち8人が衆院当選5回以上、参院当選3回以上のいわゆる“入閣待機組”で、一般の国民にはあまりなじみのない顔ぶれが多い。各派閥からの推薦を受け、大きな問題が起きそうにない無難なポストに、各行政分野に比較的詳しい無難な議員を配置した印象だ。初入閣組で“抜擢”と言えそうなのは41歳で最年少の小倉将信少子化担当相だけだ。

見た目の派手さにはこだわらない人事

改造内閣の中で比較的目立つのは、岸田首相が2021年の自民党総裁選で争った河野太郎デジタル担当相と高市早苗経済安全保障相の2人。ただ、いずれも主要ポストとは言えず、高市氏については自民党政調会長からの“降格感”も否めない。2024年9月の次期総裁選をにらんで「ライバルを身内に取り込んだ」との見方もあるが、高市氏については保守的な思想が強すぎるため党内の政策調整役から外したとも読める。保守派の重鎮として党内のバランスを図っていた安倍元首相の死去も影響した可能性がある。

自民党役員人事では総務会長にベテランの遠藤利明氏を起用。前回人事の“若手抜擢”の象徴だった福田達夫前総務会長は交代させた。福田氏は旧統一教会と自民党議員との関係をめぐって「なぜこんなに騒いでいるのか正直よくわからない。何が問題か僕はよくわからない」などと述べ、内閣支持率の低下につながったとの見方があった。政調会長には安倍元首相に近かった萩生田光一氏を経済産業相から横滑りさせ、選対委員長にはこれまで非主流派だった森山派の森山裕氏を起用した。

森山氏の起用に代表されるように、岸田首相は今回の人事ですべての派閥に配慮をみせた。各派閥への閣僚のポスト配分は改造前とほぼ同じ。自らの派閥が第4派閥に過ぎないことに加え、安倍元首相が亡くなったことで党内バランスが崩れることを懸念したとみられる。

ただ、経験者の起用や党内バランスを重視した結果、非常に“地味”な顔ぶれになったことは否めない。2021年に内閣を発足させた際は若手や女性の登用に積極的な姿勢をみせたが、今回の若手抜擢は小倉氏1人。女性も高市氏と永岡桂子文部科学相の2人にとどまった。当面は大型国政選挙がないためか、見た目の派手さにはこだわらない、内容重視の人事となった。

旧統一教会問題の幕引きだったが…

今回の内閣改造は当初、9月上旬とみられていた。約1カ月も前倒しにしたきっかけは安倍元首相が銃撃され死亡した事件だ。容疑者の供述をきっかけに高額献金などのトラブルがある旧統一教会と自民党議員との接点が相次ぎ明らかになったことで内閣支持率が下落。さらに、警備の欠陥が明らかになった警察庁を管理する立場の国家公安委員長の責任論も浮上していた。前国家公安委員長である二之湯智氏は参院選に立候補せず民間人となっており、「早急に交代させるべきだ」との声が出ていた。

改造にあたって首相は8月9日、人事の内定を電話で知らせる際、全員に「教団との関係点検を了解した上で人事を受けてくれるか」と念押ししたという。それでも組閣当日から複数の新閣僚や自民党役員に教団との接点が発覚した。

首相にとって最大の狙いは旧統一教会問題の幕引きだったが、逆に内閣改造によって自民党と教会との接点の根深さが浮き彫りになった面もある。首相は「政策断行内閣」と名付けたが、国会では旧統一教会問題ばかりが追及され、政策断交どころではなくなる可能性もある。