拡大する対中強硬姿勢 アメリカに続きイギリス、オーストラリアも
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拡大する対中強硬姿勢 アメリカに続きイギリス、オーストラリアも

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覇権的行動のみならず、近年、中国が引き起こす人権に関連する諸問題に対して、大国が次々と強硬な対中姿勢を見せ始めている。特にアメリカ、イギリス、オーストラリアの3国はそれが顕著だ。形成されつつある“対中包囲網”はどこへ向かうのだろうか。

北京冬季五輪を外交的ボイコットしたアメリカに追従する国が続々

2022年2月に開催された北京冬季五輪は華やかなイベントからは程遠いものだった。もちろん新型コロナウイルスの影響もあったが、原因はそれだけではない。同五輪をめぐってはイギリスやオーストラリアなどがアメリカのバイデン政権の方針に追従するかのように相次いで外交的ボイコットを宣言し、中国との関係が悪化するのはアメリカだけではないことが鮮明となったからだ。

米中対立は国際問題の中で最大トピックであり、どうしても大国間対立に注目が集まるが、近年はアメリカ以外の西側諸国の中国への不信感も極めて高まっている。それを助長している要因は長年の中国による覇権的行動だけでなく、新型コロナウイルスの真相究明をめぐる中国の対応、香港における国家安全維持法の施行、新疆ウイグル自治区の人権問題などだが、アメリカ以外の西洋諸国の中でも、特にイギリスとオーストラリアは対中国でアメリカと足並みを揃え、対中強硬姿勢を鮮明にしている。

イギリスは人権問題への制裁措置、外交でのけん制

たとえば、イギリスは2021年3月、アメリカとともに新疆ウイグル自治区の人権問題を理由に、中国当局者などへの制裁措置を発動した。当然ながら中国はこれに対して強く反発したが、イギリスが北京五輪で外交的ボイコットを実施したことと同一線上で考えられる出来事だ。

ほかにも、イギリスの姿勢は安全保障の視点からも明らかだ。2021年5月、南部ポーツマスから出発した最新鋭の空母クイーン・エリザベスを軸とする空母打撃群がインド太平洋に向かい出発し、日本にも寄港して米軍や自衛隊と海上軍事演習を行った。同年7月にはイギリスの国防大臣が哨戒艦を恒久的にインド太平洋地域に展開し、数年以内に沿岸即応部隊も展開させる方針を表明。同年9月15日にはアメリカ、オーストラリアと新たな安全保障協力「オーカス(AUKUS)」を発足させ、オーストラリアに原子力潜水艦の開発・配備を支援することで合意した。

外交的にもイギリスは中国をけん制する動きを見せている。2021年6月の先進国主要サミットのホスト国だったイギリスは、G7諸国に加え韓国やオーストラリア、インドなどを招待して計11カ国で会談を行った。同年12月にリバプールで開催したG7外相会談にも、東南アジア各国を招待するなどしている。イギリスには、日本やオーストラリア、インドやASEANなどインド太平洋諸国との関係を強化し、経済と安全保障の両面で同地域へ関与していくという戦略がある。

対中感情を悪化させるオーストラリア

同様にオーストラリアと中国の関係も悪化している。たとえば、2021年6月、中国がワインや牛肉などオーストラリアの主要輸出品の輸入を次々に制限するなか、オーストラリアの貿易大臣は中国がオーストラリア産ワインに対して関税を不当に上乗せしているとして世界貿易機関(WTO)に提訴すると発表した。

中国による貿易制限はオーストラリアが新型コロナの真相解明や中国国内でのオーストラリア国籍のキャスター拘束などをめぐって中国を非難することへの対抗措置であり、悪化する関係を考慮してか、ペイン豪外相は2021年4月、南東部ビクトリア州と中国が結んでいた巨大経済圏構想「一帯一路」への参加協定を破棄すると明らかにしている。

こういったオーストラリアと中国の関係悪化は統計からも読み取れる。たとえば、2021年7月にシドニー工科大学の研究チームが発表したアンケート調査結果によると、回答した国民62%が新型コロナウイルスによって中国に対するイメージが悪くなり、67%がオーストラリアの安全保障にとって中国が脅威だと回答した。また、回答者の8割がオーストラリアは経済的に中国に依存し過ぎだと回答するなど、政治経済的に中国脅威論がオーストラリア国民の間で広がっている。

また、同年3月には、2020年中の中国からオーストラリアへの投資額が約10億豪ドルと2019年比で61%も減少し、2020年の中国からの投資件数がピークだった2016年の111件から20件にまで大幅に減少しことが明らかとなった。

以上のように、アメリカだけでなくイギリスやオーストラリアも中国との関係が同じように悪化している。最近は、フランスも新疆ウイグル産の品々の輸入を規制するべきだと主張するなど、この動きは他の西洋諸国にも今後拡大していく可能性がある。

岸田政権は経済安全保障を強化していく方針だが、日本としては西洋諸国と中国との関係の行方を今後さらに注視していく必要があろう。