国内の不安が一気に噴出
中国の習近平国家主席は2022年10月に3期目をスタートさせるやいなや、大きな反発に直面することになった。11月24日、新疆ウイグル自治区ウルムチ市で10人が犠牲となる火災が発生したことがきっかけとなり(当時火災があったアパートでは外出禁止など厳重な封鎖措置が行われており、それによってレスキュー隊が到着できなかったという)、反ゼロコロナを訴える反政権デモが国内外に拡大。
北京や上海など中国各地だけでなく、ロンドン、パリ、東京、シドニーなど各国に広がり、国外に在住する反政権的や学生らが参加した。そして、習政権は12月7日、感染拡大を徹底的に抑える目的で3年あまりにわたって敷いてきたゼロコロナ政策を大幅に緩和させることを発表した。
ゼロコロナ政策によって市民は日常生活を大幅に制限され、企業は安心して経済活動ができなくなった。その積もりに積もった経済的、社会的不満の声が一つの出来事をきっかけに一気に噴出した形だ。
10月の共産党大会前後にも、北京市北西部にある四通橋で、「独裁者習近平を罷免せよ」「文革ではなく改革を、PCR検査ではなく食糧を、ロックダウンではなく自由」などと赤い文字で書かれた横断幕が掲げられ、上海でも同様の出来事があった。この反ゼロコロナをめぐる最近の動向から、筆者には2つのことが脳裏に浮かぶ。
3期目スタートから躓けない習氏
まず、緩和に踏み切った習政権の思惑だ。ここからは2つの背景が想像できる。ゼロコロナ政策も影響し中国の経済成長率は鈍化傾向にあり、習政権にはそれによって国民の不満が政権に向くことを警戒している。
習氏は10月に3期目をスタートさせたばかりであり、共産党大会での演説では、“中華民族の偉大な復興”、“中国式現代化”、“社会主義現代化強国”、そして“台湾統一”などシンボリックな言葉を繰り返し、国民からの忠誠心、愛国心を高めるように努めた。それなのに政権発足当初から躓くわけにはいかず、反政権的な流れを弱めるためにもゼロコロナ緩和に踏み切ったことが考えられる。ちなみに、ゼロコロナ政策を徹底しても、最近中国では新規感染者が増加傾向にあり、ゼロコロナ自体存在力を失っているとも言えるが。
また、こちらの方が可能性としては低いかもしれないが、習政権が戦略的緩和に踏み切った可能性だ。上述のように、ゼロコロナの有効性そのものが疑われるなか、習政権としては国民の不満を抑え、習政権3期目を平和裏な中で運営していくため、譲歩できるところは譲歩したとも解釈できないわけではない。3期目の政権運営も内政と外交を両輪に利益最適化を追求していくことになるので、柔と豪をバランスよく使い分けることが重要となる。今回の緩和もその一環の可能性もある。
グローバルにつながる既得権益層への宣戦布告
もう一つは、筆者には反ゼロコロナが、若い世代による既得権益層への“宣戦布告”であり、しかもそれがグローバルなレベルで一種の連帯感、ネットワークを生んでいるという点だ。
例えばコロナ禍の2020年、東欧のベラルーシでは同年8月9日に大統領選挙が実施され、欧州最後の独裁者といわれるルカシェンコ大統領が勝利したが、それ以降、投票の不正や即時退陣を訴える市民の反政府デモが拡大した。
タイでは7月以降、プラユット首相の退陣や憲法改正、反政府団体・活動家への弾圧停止などを求める学生・民主団体による抗議デモがバンコクを中心に激化し、デモ隊は国内で議論すること自体がタブーとなる王室の改革を求める声を上げるなどした。
そして、2019年に激しい民主化デモが香港で起こったが、2020年になり、一部のデモ参加者は欧米諸国に協力をネット上で呼び掛けるだけでなく、ベラルーシやタイなど国家権力に挑戦するデモ参加者たちへエールを送るなど、一種の国際的連帯感を生みだした。
ベラルーシやタイのデモ参加者もネット上で香港のデモ参加者と関係をつながりを構築し、タイでは一部の参加者が、「香港は国であるので香港に独立を。香港はわれわれに多くの支援をしてくれた、われわれはデモにおいて香港モデルをお手本とする」などとスローガンを掲げて歌うデモ参加者の姿が目撃され 、ベラルーシでも「香港を自由にしろ」と書かれた旗を持ってデモ行進する参加者がいた。香港でも民主活動家たちがタイ領事館前で「タイの人々を支持する、抗議デモ参加者への暴力を非難する」など抗議する声を上げた。抗議デモ隊の多くは若い世代で、これらはグローバルなレベルでつながる既得権益層への宣戦布告とも表現できよう。
今回の反ゼロコロナでも、ロンドン、パリ、東京、シドニーなど若者たちが連携し、共産党という既得権積層に訴える姿が顕著になった。これは2020年の香港、ベラルーシ、タイをつないだグローバルネットワークも極めて類似(もしくは同じ)している。若い世代による既得権益層への宣戦布告は、イラクやイラン、チリやパキスタン、ナイジェリアなど近年各地で見られる。今後も人口爆発が予想されるなか、若い世代による既得権益層への宣戦布告はもっとエスカレートする可能性がある。今回の反ゼロコロナもこの文脈でとらえることもできよう。