ロシアを利する和平案提示も肯定はせず…ウクライナ戦争における中国の思惑

3期目に入った中国の習近平国家主席 写真:新華社/アフロ

社会

ロシアを利する和平案提示も肯定はせず…ウクライナ戦争における中国の思惑

0コメント

2月24日に中国が発表したウクライナ戦争和平交渉提案。その内容と背景からは中国とロシアの複雑な関係が透けて見える。ロシアと距離を取りつつも離反しない中国の思惑とは何だろうか。

中国によるウクライナ戦争和平案の内容とアメリカの反応

ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経過したが、情勢が改善に向かう兆しは一向に見えない。それどころか、ロシアもウクライナも今後、春にかけて互いに攻勢を強めるとみられ、戦闘地域が拡大することが懸念される。アメリカなど欧米諸国はウクライナに最新鋭の戦車を供与。一方、ロシアのプーチン大統領は2月21日に行われた一般教書演説で米露間の新戦略兵器削減条約(新START)の履行を停止することを明らかにするなど、ウクライナ戦争は大国の代理戦争の様相を呈してきている。

そのようななか、これまでウクライナ問題でロシアへの非難や制裁を回避してきた中国がひとつ動いた。中国外務省は2月24日、「ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場」と題する文章を発表。すべての国の主権と独立、領土の一体性の保障など計12項目を並べ、核兵器の使用や原子力発電所への攻撃に反対する事実上の仲裁案を提示した。

これについてアメリカなどは、大前提としてのロシア軍のウクライナ領土からの撤退が明示されていない点などを指摘。この仲裁案による和平では、ロシアによる侵攻が事実上正当化されることになると強い疑念を示している。また、先月半ば以降、アメリカのバイデン政権高官であるサリバン大統領補佐官やブリンケン国務長官などから、中国が殺傷能力のある武器をロシアに供与しているという発言が相次ぎ、さらに北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長も中国がロシアに武器支援を検討している兆候を確認したと言及するなど、中国による武器供与疑惑が浮上している。このような昨今の情勢のなか、中露関係の核心はどこにあるのだろうか。

中国からロシアへの武器供与が考えにくい理由

まず、中国による武器供与疑惑だが、これについて筆者は否定的な見解だ。まず、仮に中国が武器を供与していることが判明すれば、欧米などは一斉に中国への制裁を強化する可能性がある。中国の経済成長率は近年、鈍化傾向にあり、習近平政権は高まる国民の社会経済的不満を解消する上でも安定的な経済成長が避けられない。そのようななか、欧米から制裁が強化されることは望んでいないはずだ。最近では冷え込んでいたオーストラリアとの経済関係の改善に努めているように、中国にとってロシアへ武器供与することにそれほどメリットがあるとは考えにくい。

また、上記と類似するが、欧米と中国との関係が冷え込むなか、中国にとって“グローバルサウス(発展途上国)”との関係はこれまで以上に重要になっている。武器供与が判明すれば、アメリカを中心に欧米による中国ネガティブキャンペーンが激しくなることは間違いなく、その矛先はグローバルサウスに向けられる。ASEANやアフリカ、中南米には中国との関係が密になる国々も多いが、習政権はそういったグローバルサウスが中国から離反していくことを警戒している。

さらに、中国にとってのウクライナ戦争の戦略的価値だ。習政権は“中国式現代化”、“社会主義現代化強国”の実現に向け、アメリカとの競争を最も重視している。また、台湾をめぐる問題もあり、中国としてはお金や人材をできるだけ多く太平洋地域に集中させたいのが本音だろう。そう考えると、中国にとってウクライナという遠い戦争に関与することにどれだけ意義があるのかは全くの不透明だ。

曖昧になりつつある中露関係

こういった背景を考慮すれば、中露関係は決して良好とは言えない。ロシアとしては中国からの軍事支援を断るデメリットはなく、むしろロシアを味方する形での中国の関与は望むところだろう。今日の中露関係において力関係は明らかに中国優勢であり、プーチン大統領は中国頼みというところだ。

反対に、中国にとってはロシアという存在はいっそう難しいものになっている。上述のとおり、中国がウクライナ戦争に関与する意義はなく、さらにロシアの核使用には反対する立場だ。仮にロシアが核を使用すれば、中国も政治的にはロシアとさらに距離を置かざるを得なくなる。

中国がロシアから離反できないワケ

一方、中国にとってアメリカが最大の競争相手という現実を考慮すれば、ロシアの国際的立場が厳しくなり、国力が衰退することも中国としては困る。今日、中国にとってロシアは対米で戦略的共闘パートナーであり、ロシアとの密な関係をアピールすることでアメリカをけん制したい思惑もあるからだ。日本周辺で中露両軍が合同軍事演習を繰り返す背景にもそれがある。つまり、中国としてはロシアというカードを政治的にキープしておきたいという現実があり、ロシア離反は選択肢にはないのだ。

中露というと表面的には良好な協力関係を築いているようには見えるが、その核心は極めて複雑であるのが現状だ。中国ロシア双方とも、近づくと時は近づき、距離を置く時は距離を置くという関係を維持していくことだろう。