ガーシー氏除名、選挙制度にも課題

2023.3.15

政治

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ガーシー氏除名、選挙制度にも課題

写真:つのだよしお/アフロ

参院は3月15日の本会議で、旧NHK党のガーシー議員について、議員資格を失う「除名」処分とすることを決めた。国会議員の懲罰で最も重い除名は72年ぶりで、戦後3人目。2022年7月の当選後、海外にいて一度も国会に出席しないガーシー氏の除名は当然との声が多いが、一部の有権者の“ノリ”で当選してしまう参院選の比例代表制のあり方や、オンライン化のまったく進まない国会審議のあり方も問われそうだ。

当選直後は意気込みも

「暴露系ユーチューバー」として知られるガーシー(本名・東谷義和)氏は2022年の参院選に旧NHK党から比例代表候補として立候補。選挙期間中もアラブ首長国連邦のドバイに滞在したままSNSなどを通じて投票を呼びかけ、28万7000票を得て初当選した。

当選直後は「国会で寝ている議員を全員たたき起こす。こんな議員はいないというくらいやってやるつもり」などと意気込んだが、その後も「暗殺や不当逮捕の恐れがある」として帰国せずに国会を欠席。参院の懲罰委員会が2月1日に「議場での陳謝」とする懲罰案を決定し、ガーシー氏もいったんは3月8日の本会議で陳謝する意向を示したが、その後に撤回。3月8日以降も帰国せず、国会を欠席し続けている。

議場での陳謝という処分を拒否したことについて、各党は「参院を愚弄する行為」「正当な理由なく職責を果たさなかった」などと批判。旧NHK党の浜田聡参院議員は3月14日の懲罰委員会でガーシー氏の弁明書を代読した上で「除名処分は民意をないがしろにしている」と訴えたが、同委員会は全会一致で除名処分とすることを決めた。

参院選選挙制度にも課題

ガーシー氏が28万人を超える多くの有権者から選ばれたというのは重い事実。比例代表の個人票としては最小得票で当選した議員の8倍を上回る票を集めたのは、若者を中心とした無党派層の既存の政党や政治への批判の受け皿となったからだろう。

しかし、国会への出席は国会議員として当然の職責であり、「逮捕されるかもしれない」などといった個人的理由で免れられるものではない。そもそも逮捕の可能性があるから帰国できないというのであれば選挙に立候補などすべきではない。そこに弁解の余地はない。

ただ、ガーシー氏は過去に「BTSのメンバーに会わせる」などとして若い女性たちから多額の金銭を搾取する騒動を起こしているほか、著名人への名誉棄損や中傷、脅迫の疑いがあることは選挙前からわかっていたこと。ガーシー氏が立候補した最大の理由は「国会議員の不逮捕特権」が狙いだったとの指摘もある。ガーシー氏が所属する旧NHK党の立花孝志前党首も奇抜な行動で知られており、当選したとしてまともな政治活動、政党活動をできるのか、票を投じた有権者は慎重に判断すべきだっただろう。

また、参院選の選挙制度にも課題がある。参院選は3年ごとに全議員の半数ずつを入れ替える仕組みで、現在は124人のうち74人を都道府県ごと(鳥取と島根、徳島と高知は2県で1区)の選挙区、残り50人は全国単位の比例代表で選ぶ。比例代表は有権者が政党名か候補者名で投票することができ、合計した票数で政党ごとの当選者数を決め、各政党内で候補者名の票の多い順に当選者が決まる。

この仕組みだとどうしても有名人や特定の団体の支持を受けた候補者が有利となり、例えば日本維新の会では比例代表の当選者に元俳優やタレント、歌手などの有名人が並ぶ。著名人による「人気投票」に陥りやすいのは以前から指摘されている通りだ。今回も背景に既成政党や政治への不信があるとはいえ、開票速報を見守る旧NHK党関係者らの映像を見ているとSNSの熱に浮かされた有権者がお祭りノリでガーシー氏を当選に押し上げたようにも見える。電子投票などの議論もあるなか、選挙制度も時代に合わせて変えていく必要があるかもしれない。

海外では国会のオンライン化が進む国も

ガーシー氏の除名問題を踏まえ、国会のオンライン化をもっと議論すべきだとの声もある。新型コロナウイルスの流行を機に一般企業や団体、学校などではリモート会議やオンライン商談、授業が当たり前の光景となり、収束後も利便性の高さから使い続けられるとみられるが、日本の国会や地方議会は取り残されたまま。2022年の通常国会でオンライン審議に向けた議論が始まったものの、今も実現のめどはたっていない。政治家たちはソーシャルディスタンスが必要と言いながら、ぎゅうぎゅう詰めの議場にひしめき合っているのが現実だ。

海外に目を向ければイギリスでは新型コロナが流行した直後にオンライン審議や投票を導入。カナダも導入済みで、スペインでは新型コロナ対策以外でも妊娠や出産、育児、重病の場合にオンラインで投票ができるようにした。アメリカなどまだ整備できていない国も多いが、導入できている国があるのであれば日本にできない理由は無い。

ガーシー氏も「いまや世界中リモート会議が当たり前になり、Zoomのような便利なものができてるのに出席せなあかん理由を教えてくれ」などと主張していたが、国会に出てオンライン化の議論を主導していれば説得力もあっただろう。ただSNSで吠えるだけで、国会に一度も足を運ぼうとしなかったのは「警察が怖かったから」と思われても仕方ない。