韓国ユン政権の政策転換と日中韓の関係構図の変化

広島サミットで日韓首脳会談を行ったユン大統領と岸田首相 写真:YONHAP NEWS/アフロ

社会

韓国ユン政権の政策転換と日中韓の関係構図の変化

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5月7日に岸田文雄首相は韓国を訪問し、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領と会談。相互往来を12年ぶりに再開させることで一致した。これにより、日韓の首脳が年1回程度、互いに往来する「シャトル外交」が復活。広島サミットでも日韓首脳会談を行い、今後、日韓の関係改善は加速する見通しだ。その一方で、中国は今後、両国に対してさらに警戒を強めることになりそう。

米中の対立が日中の冷え込みを加速

最近、日中韓の関係構図が大きく変化している。特に、その中でも韓国が最大の変数となり、ひいては極東アジアの安全保障秩序にまで変化が生じつつある。

まず、日中関係の冷え込みは、激しくなる米中対立や緊張が高まる台湾情勢に伴うものだ。トランプ政権下で始まった、米中貿易摩擦に代表されるように、今日、米中間では安全保障や経済、先端技術など多方面で覇権争いが展開されているが、その中でも台湾情勢は最大の論争事項になっている。

3期目となった習近平政権にとって台湾は、最重要イシューである一方、アメリカとしても中国の西太平洋覇権を抑える意味で、台湾は譲れない状況といえる。仮に有事となれば、日本もアメリカの軍事同盟国である以上、中国は対立軸で接することになるので、その後の日中関係の冷え込みは避けられそうにない。さらに日中は長年、尖閣諸島の領有権問題で争っている。台湾有事との連動性にも懸念の声が聞かれ、日中間の安全保障をめぐる状況では緊張が続いている。

また、経済安全保障の視点からも日中間で摩擦が拡大している。バイデン米政権は2022年10月、先端半導体の技術が中国に流出して軍事転用される恐れを警戒し、製造装置など先端半導体関連の対中輸出規制を発表。さらに2023年1月には、製造装置で世界シェアを持つ日本とオランダに対して、同規制に加わるよう要請した。

その結果、日本は4月、先端半導体を製造する際に重要な装備品23品目で対中規制を敷くことを決定し、アメリカと足並みを揃えることになった。中国は当然のようにこれに反発し、対抗措置を取る構えを示した。日中間は政治と経済の両面で摩擦が拡大しているのだ。

ユン政権の誕生と政策転換で日韓は関係改善へ

そのような状況で大きく動き出したのが韓国だ。ちょうど1年前の2022年5月10日、韓国ではユン大統領が誕生したが、ユン政権は前ムン・ジェイン(文在寅)政権の政策や方向性から大きな転換を図った。

ユン政権は、対北朝鮮では「太陽政策」から脱皮し、アメリカや日本との関係改善を最優先に外交を展開。ユン大統領は2022年夏、スペイン・マドリードで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会合に参加し、そこで岸田文雄首相と短時間ながら対面した。その後両者は、2022年秋のアジア太平洋経済協力(APEC)でもコミュニケーションを図り、2023年3月下旬には東京で日韓首脳会談が実現した。会談では、日韓関係の改善と発展のため信頼醸成を高め、双方が未来志向で良好な関係を築いていくことで一致したが、その後50日あまりで今度は岸田首相が韓国を訪問。ここに日韓シャトル外交が復活した。

また、ユン大統領は4月にアメリカを訪問してバイデン大統領と会談。両者は北朝鮮だけでなく、台湾情勢についても意見を交わし、名指しはしなかったものの現状維持を続ける中国への懸念を共有した。台湾周辺は日本の経済シーレーンであるが、それは韓国にとっても同じことである。当然のように、その後、中国はユン大統領の台湾問題への言及に強く反発している。

距離が生まれつつある中韓関係

以上は事実関係の一部に過ぎないが、韓国が昨今、最大の変数となり、日本への急速な接近、中国離反が顕著になったことで中韓関係が冷え込んでいる。

前ムン政権時代の韓国は中国との経済関係を重視し、日韓関係は戦後最悪とまで言われてきた。韓国にとって、最大の貿易相手国が中国であるという事実は今も変わらないが、ユン政権の韓国は対北朝鮮や台湾、経済安全保障など、多くの分野で日本と価値観を共有し、対中関係では一歩距離を置く姿勢に転じている。

そして、今後この構図は少なくともユン政権の残り任期4年間は維持される可能性が極めて高い。ユン大統領は日韓、日米韓だけでなく、自由で開かれたインド太平洋構想にも強い関心を示しており、日米豪印4カ国で形成されるクアッド(Quad)にも今後接近、参加してくる可能性が十分にある。ユン政権のこういった姿勢を日本やアメリカが拒む理由は何もなく、今後いっそう拍車が掛かることだろう。

一方、それに伴って極東アジアでは今後“日韓vs中国”のような構図が生じることも考えられる。ユン政権の誕生によって日中韓の関係構図は大きく変わったと言える。