若手が伸びる葬儀会館ティアの“人財”教育 楽しくのびのびキャリア形成

「ティア・ヒューマンリソース・センター(THRC)」にて 写真:スギヤマオサム

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若手が伸びる葬儀会館ティアの“人財”教育 楽しくのびのびキャリア形成

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1997年の創業以来、葬儀業界のさまざまな慣習を打ち破り、「感動葬儀」を実現してきた葬儀会館ティア。コロナ禍により一般葬から家族葬へと主流が変わり、業界全体が落ち込むなか、2022年は3期ぶりに過去最高の売上を更新した。背景には直営店の新規出店といった戦略効果も大きいが、ここ数年の間に採用された新卒社員の飛躍もあったという。この目まぐるしく変化する時代に活躍できる社員を育てたのはどのような企業風土なのか、2人の精鋭に話を聞いた。

コロナ禍の時期に入社した2人の若手有望株

「葬儀は究極のサービス業」ととらえるティアにおいて、社員は大切な“人財”。新卒採用が難しいといわれる葬儀業界にありながら、この3年間で約60名を採用している。2017年に導入した新卒向けインターンシップも定着し、高い志を持って応募する学生が増えてきたという。

実際、若手社員の活躍が目覚ましい。2020年入社の小宮山剛志さんは入社3年足らずで葬儀会館の支配人に抜擢。2022年12月にオープンした「ティア愛西勝幡」を取り仕切っている。同期の中村彩乃さんは、「ティア蟹江」のセレモニーディレクター。共に社内でも一目置かれる存在だ。

「研修時代から、私は『マネージャーになる』と公言していました。2021年10月に副支配人になり、2022年9月に支配人に就きましたが、まだまだ道の途中です。会社組織というピラミッドの階段を登りきろうと思っています」(小宮山さん)

落ち着いた口調ながら発する言葉は大胆で、内側に秘めた熱いものを垣間見る。中村さん曰く、小宮山さんは入社当初からカリスマ性を放っていたそうだ。高校では愛知県選抜サッカーチームのベストイレブンとして活躍し、大学時代にミュージシャンを目指してインディーズレーベルからCDデビューも果たした経験も持つ。

株式会社ティア 家族ホールティア愛西勝幡 支配人 小宮山剛志(こみやま つよし) 2020年4月入社

一方の中村さんは、小宮山さん曰く「いるだけで場がパッと明るくなる、そして自然と場をまとめられる人」だという。中村さんは、中学生の頃から福祉関係の職を目指し、日本福祉大学へ進学。学びを深めるうち、法制度の枠組みの中で高齢者をサポートするシステムに限界を感じ、仕組みより感情を優先できる葬儀の世界へ方向転換。

持ち前の度胸と人懐っこさで喪主に寄り添い、ご家族の心をつかみ、満足度の高い葬儀を提供している。顧客であっても言うべきことははっきり伝えるのが彼女のポリシーだ。壁をつくらない人柄に惹かれ、「あやちゃん」と下の名前で呼ぶ顧客も多い。

株式会社ティア 東海第一事業部 中村彩乃(なかむら あやの) 2020年4月入社

経営者目線を磨いて地域と企業発展に貢献

ティアでは新規オープンに際し、地域に会館を知ってもらう目的で、事前に見学会と称した内覧を行うのが通例だが、小宮山さんは自ら近隣へ出向き、一軒一軒、見学会のチラシを配布して歩いたという。その結果、オープン2日間で約1500人を動員。小宮山さんが足で稼いだこの数字は、ここ数年でも稀だったといい、新米支配人に大きな自信をもたらした。

「抽選会やサイコロゲームなど老若男女が楽しめるイベントをご用意して当日を迎えたのですが、オープン時間前から行列ができていたのには驚きました。何百人もの人が葬儀会館の開店待ちをしている状態でした。地域柄、おじいちゃん、おばあちゃん、お孫さん連れも多く、ご家族揃っていらしてくださったのがうれしかったです」(小宮山さん)

また、支配人という立場から会館を多角的に見るようになったことで、顧客のニーズに対してより感度が高くなったという。

ティアの会員制度「ティアの会」の会員数は現在48万人、提携団体は1312団体(2023年3月時点)と増加傾向にあるが、小宮山さんは優待サービスをはじめとした付加価値を広めていきたいと、会員獲得にも注力し始めているという。

「会館の立ち上げから携わり、その会館を育てていく意味でも、支配人は実にやりがいのある職務です」(小宮山さん)

セレモニーディレクターから支配人になったことで、小宮山さんの気持ちにはどのような変化があったのだろうか。

「副支配人、支配人と段階を踏まえながら、会館の売上、ひいてはグループ全体の収益についても考えるようになりました。お客様が満足してくださることは大前提として、葬儀費用以外にどうやって収益を創り出すのか。葬儀件数に対してティアのシェアはどれくらいか。その中の会員数までデータにまとめて本部へ報告することで、何ができていて何ができていないのかが見えてきます」(小宮山さん)

そう語る小宮山さんの顔は、まさに “社長”だった。

クールな立ち振る舞いとは裏腹になかなかの熱血漢

葬儀という仕事の中に楽しみを見つけるセンス

支配人になった小宮山さんだが、今も葬儀の仕事に慣れることはないという。

「当然ですが、お客様は毎回違います。大切な人を亡くされた深い悲しみの中にいる方ですから、最初のごあいさつは電話でも対面でも緊張します。ただ、入社したての頃とは緊張の感覚が変わりました。当時は、経験不足による不安で緊張していたように思いますが、今はある程度経験値を積んで、以前より臨機応変に対応できるようにはなったと思っています」(小宮山さん)

通夜と葬儀を合わせて48時間。限られたわずかな時間の中で、遺族にどれだけ心を尽くしたホスピタリティを提供できるか。そこには確かに緊張を伴うシーンもあるが、小宮山さんはその中に楽しみを見いだすことを大切にしている。

「6カ月の実地研修で配属された先の支配人が、どんな仕事も楽しんで取り組まれていたのです。誰かの陰口はもちろん、マイナスなことは一切言わず、何事にもポジティブに臨んでいく。その姿勢に憧れ、自分もそうなりたいと目指しているところです」(小宮山さん)

人の死と向き合い、遺族の悲しみに寄り添うことが仕事だが、そこに楽しみを見つけることは決して両立できないわけではない。

「例えば喪主様の気持ちに寄り添えたと感じた瞬間や、ご家族の要望に応えられたとき。お客様から『ありがとう』と言ってもらえる瞬間は、48時間の中にたくさんあります。そんなとき、うれしい気持ちが『楽しい』に変わる。人から見たら自己満足なのかもしれませんが、その瞬間を日々の仕事の中から見つけることが、モチベーションにつながります」(小宮山さん)

葬儀社に限らず、どのような企業においても仕事は楽しくなければ続かない。小宮山さんは「1本のブレない軸はしっかり持ち、葬儀の仕事の楽しさを後進に見せられる支配人」を目指す。

同期として働くステージは異なっても、お互いを尊敬し切磋琢磨する

コロナ禍200名を超える大型葬儀も経験

葬儀業界はコロナ禍以降、多数の人が集まって“密”を作ることを避けるため、家族葬が主流となった。ティアにおいても通夜・葬儀を合わせての参列者は、20名程度となっている。それはつまり、2020年以降の新卒採用のセレモニーディレクターのほとんどが、小規模化な葬儀しか経験したことがないことを意味している。

中村さんが担当する「ティア蟹江」がある愛知県蟹江町は、中小企業や工場が多い土地。コロナ禍でも3カ月に1度の割合で大規模な葬儀が執り行われており、彼女が担当する機会も多いという。

「昨年担当した、地元で名のある大手企業の代表取締役の方のご葬儀は特に規模が大きく、たくさんの方が参列するということで、プレッシャーを感じて『私が担当でいいのですか?とマネージャーに尋ねたほどでした。その数日後に故人様のご家族もご逝去されて喪主様から『またお願いします』と言われたときは、ありがたく担当させていただきました。ひと月に200名規模のご葬儀を2度も行うのは初めてのことで、体力も精神もかなり限界でしたが、やりきれて良かったです」(中村さん)

「ありがとう」の手紙をもらうことも多いという中村さん。ティアの理念を地でいく

人を悼む場を緩和させる“おくりびと”の笑顔の力

中村さんもまた、葬儀を担当する際は未だに緊張は抜けないという。それは葬儀という仕事の特性であると同時に、故人や遺族に対して真摯に向き合っている証でもある。

「私は遺族ではないので、喪主様やご家族の悲しみに寄り添うことはできても、心情のすべてを理解することはできません。それでも私ができることってなんだろう?と考えたとき、笑顔でいることだとたどり着きました。葬儀を任された私まで悲嘆にくれていたら、式全体が落ちた雰囲気になってしまいますから、悲しみの中にもちょっとでも笑顔があればいいのかなと思います」(中村さん)

笑うことは葬儀でタブー視されがちだが、張りつめた場面を緩和する意味で、微笑みの効果は絶大だろう。そして、中村さんのナチュラルな笑顔は、遺族との距離を縮める役割も果たしている。

「通夜と葬儀のたった48時間で、故人様の歩んできた人生のすべてをわかるわけがありません。それでもご遺族様とかかわりながら、限られた時間の中でちょっとでも皆さんのことを知ろうと想像力を働かせる。それもまたセレモニーディレクターの醍醐味なのかも知れません」(中村さん)

最初に葬儀スケジュールを伝える際、遺族の細やかなニーズを探り出すのも、セレモニーディレクターの仕事。参列者の座り順や香典返しの選び方一つにも、顧客の価値観が見え隠れするという。そして、ちょっとした会話のやりとりから遺族が式の中で大切にしたいポイントを見つけられるか否かは、セレモニーディレクターの手腕次第となる。

「費用面、参列者の数、ご親族との関係性は良好なのか……など、お客様が何について気にされるかを見極める上でも、最初のヒアリングはとても大事です。短い時間の打ち合わせで聞き出すのは難しいように感じますが、知る努力と想像力があれば大丈夫です。施行経験を重ねるうちに、その力もついてくると思っています」

遺族から葬儀後にもらったアンケートに「葬儀は悲しいものと思っていましたが、楽しい想い出に変わりました。ありがとうございます」と書かれてあった。それを読んで、中村さんは葬儀という場面での笑顔の力を確信した。

「今は一日1回、お客様を笑顔にするというのが私の目標です」。そう言ってニコッと笑う中村さん。その前向きな姿勢が、リピーターづくりへとつながっていく。

新卒研修を終えた際、中村さんの仕切りで、先輩社員に向けて感謝の言葉を贈った

若手を活躍させるティアの企業風土とは

新設の会館をもり立てる小宮山さん、ティアが掲げる“感動葬儀”を体現する中村さん。2人を活躍させるティアの企業風土とはいかなるものだろうか。

ティアでは新卒に対して、まず研修6カ月、次に現場での実地研修6カ月の計1年近くをかけて葬儀のノウハウを身につけさせるという。万全な教育体制が、若手が伸びる背景にあると言えそうだ。研修を終えた新卒は、施行担当者として配属先の会館へと羽ばたいていき、実際の現場でさらに研鑽を重ねていく。そこから、セレモニーディレクターとなるべくキャリア形成するなかで、支配人などのマネジメント職を志すのか、より質の高い葬儀提供を極めていくのか、目指す先は枝分かれしていくという。

基本的なキャリアプランは小宮山さんのように支配人を目指すことだが、中村さんのように入社動機から「質の高い葬儀を提供したい」とスペシャリストとしてのセレモニーディレクターを目指す社員も多い。小宮山さんも中村さんも、それぞれの熱い想いのもとで順調にステップアップしてきた。

「支配人になるための唯一の条件は『支配人をやります』という意思です。その覚悟を示せないと支配人になれません。僕は本部に対して『やります』とコミットして、そのプレッシャーに今耐えている状態です!」(小宮山さん)

「ティアの理念に『すべてはお客様のために』というのがあるのですが、学生のとき、その理念に共感したから、私は仕事を続けられているというのがあります。多分、全社員が同じ気持ちだと思います」(中村さん)

ティアの魅力は、社員がそれぞれの持ち場で自分らしさを発揮できることと言えそうだ。