「CO2を食べる自販機」の実証実験スタート アサヒ飲料が目指すCO2資源循環モデルとは

2023.6.5

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「CO2を食べる自販機」の実証実験スタート アサヒ飲料が目指すCO2資源循環モデルとは

企業がカーボンニュートラルやカーボンリサイクルなどへの取り組みを求められるようになって久しい。CO2削減のために各社さまざまな施策がなされているが、アサヒ飲料株式会社は2023年6月から一風興味を引きそうな実証実験を開始。その名も「CO2を食べる自販機を活用した資源循環」」だ。CO2を食べるとはどういう意味なのか、どのような仕組みでどのような結果が得られるのか、広報担当者に詳しい話を聞いた。

自動販売機における環境面での課題

アサヒ飲料では、これまでも地球環境を次代に引き継ぐため、「新たな資源を極力使わない」「使ったものを有効活用する」「温室効果ガスを極力排出しない」と3つの戦略骨子を掲げ、環境負荷低減に取り組んできた。特に温室効果ガス対策については、「水源地保全活動」をはじめ、長距離輸送の削減や輸送手段をトラックだけでなくCO2排出が比較的少ない船舶や鉄道貨物コンテナを活用するという「物流の見直し」、「自販機の省エネルギー化」などに取り組んできたという。

「自販機に関しては、過去20年間でCO2排出量を約60%削減することができました。その一方で、急激に省エネ化が進んだため、ここ数年はあまり変化がない状況となっており、さらなるCO2排出削減は飲料メーカー各社の共通の課題となっていました」(アサヒグループ広報担当者、以下同)

これまでの自販機は2008年に導入された、冷却時に発生した熱を回収し加温時に活用するシステムを搭載したヒートポンプ式や、2022年6月から導入された、使用する電力を再生可能エネルギーに切り替えたカーボンオフセット式など、積極的に省エネ化を推進してきた。特に自販機の95%を占めるヒートポンプ式は“超省エネ機”とも呼ばれるだけあり、「エネルギーを極力使わない」「CO2を極力排出させない」という視点だけではこれ以上は限界があったという。

「CO2を食べる自販機」は、そのどちらでもなく、「周囲のCO2を取り込む」もので、これまでになかった発想の転換と言えそうだ。

自販機に仕込まれた特殊加工の吸収材がCO2を“食べる”

「CO2を食べる自販機」の仕組みは至ってシンプルで、自販機の庫内にCO2吸収材を搭載したもの。

「吸収材は粉末状で、一般的な工業原料として用いられているカルシウム類など自然由来の鉱物がベースです。それらに特殊な加工を施した素材となります。CO2を吸収する素材はすでにいくつか世に出ていますが、より高い効果を求めて、既存素材とは異なるものを選定しています」

吸収材サンプル(粉体)

1台あたりに搭載される吸収材は、どの程度のCO2を“食べる”のだろうか。

「吸収材は、アサヒ飲料調べで国内最大のCO2吸収能力を有しています。具体的には自販機の稼働電力由来のCO2排出量の最大20%を吸収することができます。これはスギ約20本分(国内の平均的な樹齢とされる56-60年のものが基準)に相当します」

吸収材は月2回、ルート担当者が商品補充の際に交換されるといい、手間も最小限。新たな使用電力なども必要ないため1台あたりのコストは従来と変わらず、周辺のCO2を減らせることになる。

「CO2を食べる自販機」のCO2吸収イメージ

吸収したCO2も新たな資源に

さらに、回収された吸収材は、廃棄されるのではなく、別のものとして活用されることを想定している。

「吸収材はCO2原料として、農地などに散布される肥料やコンクリート建材、藻類の成長促進を促す藻場としてのブルーカーボンなどに再利用されます。特にCO2削減率は肥料だと従来比40%減(※一般社団法人C2X検証結果)、建材だと従来比60%減(※アサヒ飲料推計)となり、さらなるCO2削減に貢献できることになるんです」

自販機が周辺のCO2を吸収するだけで終わらず、そこから肥料や建材、ブルーカーボンの原料となり、それらもまたCO2削減や野菜の生長、海藻養殖などに貢献するという、CO2資源による循環モデルが出来上がるのだという。

「現在は、まだ実証実験段階ですが、自販機における新価値提案やCO2資源循環に賛同いただける肥料メーカー、建設会社、地方自治体、農業法人などと連携・共創してCO2原料のさらなる活用を目指したいと考えています」

自販機が国内の脱炭素を推進「都会の中に森を作る」

「CO2を食べる自販機」の今後の計画としては、実証実験を経て2024年に本格展開するとともに資源循環も開始。2025年にはさらに高性能なCO2吸収材を開発・展開し、2030年までにはカーボンニュートラルを目指す予定だ。

「自販機はお客様の生活に身近で、全国あらゆる箇所に設置できる社会インフラの側面もあります。将来的に数千、数万台規模の自販機で脱炭素に取り組むことができれば、高い効果も期待できますし、大きなインパクトを生む可能性もあります。私たちは『都会の中に森を作る』という意識で取り組んでいます」

近い将来、街角の自販機が“都会の森”としての役目も果たすようになるのかもしれない。