現在、独立系の証券会社として業界第2位のシェアを持つ大和証券。同社を牽引する鈴木会長は、安倍政権に先駆けて女性の活躍を推進してきた人物でもある。社長だった当時、どんな思いで旧態依然とした制度を変えてきたのか、長年の付き合いになる尊徳編集長が鈴木氏の秘めた思いに迫った。
4大証券時代を生き抜いた大和証券
尊徳 20年前は野村、大和、日興、山一と4大証券があって、証券業界を引っ張っていました。しかし、時代は移り、金融危機で山一が潰れ、日興は不祥事がありシティバンク銀行が買収しました(現在は三井住友グループのSMBC日興)。純国産は2つだけ。銀行系の証券会社が大きくなってきました。よく残りましたよね(笑)。
以前は手数料を稼いでナンボ、みたいなところもあったように感じます。現在の証券会社の役割、選ばれる理由ってなんでしょう?
鈴木 役割は大きく分けて2つです。企業側で資金調達を求めている人たちに役立つこと。リテール(個人)の運用を求めている人たちに商品を提供することです。
「ホールセール(企業との取引)」は過去において、「主幹事」は4大証券の中でも(シェアが)低い方でした。ですから、ベンチャー企業のIPO(新規上場)を通して、当社とともに大きくなってもらうということに注力しました。そして楽天さんなどの企業を市場に輩出するようになってきました。ベンチャー企業を育てて、日本経済に貢献するということも大きな役割のひとつです。
あとは、M&A(企業の買収・合併)の助言、ミャンマーなど東南アジアでの展開など、注力しているものはいくつかあります。資本主義市場において、金融が担う役割は大きい。利益を上げることだけでなく、お客様のニーズに応えることが大事だと思います。
個人の金融資産が1,600兆円もあって、現在は多くが貯蓄に回っています。今後、証券投資がまだまだ広がる余地があるので、国内のリテール分野は大きなチャンスが残っているといえます。国内にこれだけのビジネスチャンスが眠っている業界はあまりないと思います。
中小企業の家族的な感じを大企業でも
尊徳 鈴木会長と初めて会ったときのことです。当時の広報担当役員の方が、「尊徳さんとうちの鈴木(当時は社長)は、絶対に価値観が合うと思うので、会ってください」と、当時経済誌の編集長だった僕に言うのです。普通、こちらが「会わせてほしい」ということはあっても、逆は珍しい。僕は当時「なんでもかんでも利益を上げればいいのか。レバレッジをかけて、利益を極大化しようとする証券会社は、やり過ぎじゃないのか」と言い続けていましたからなおさらです。
で、いざ合って鈴木社長にそれを話したら「その通り、何でもいいから利益を上げればいいというものではない」とおっしゃった。証券会社の社長さんぽくないな、と思いました。鈴木会長にとって、会社のあり方ってなんですか?
鈴木 私のコンセプトを言うと、優良な中小企業の家族的な感じが、大企業でも醸し出せたら最高だと思います。会社って、長い時間そこにいて過ごす場所ですから、良い文化があって、社員のロイヤルティーが高くないと続かないと思うのです。それには、会社側が社員のことを思いやっているな、というものを与えていかなければいけない。そういうものがないと、本当に会社が苦しくなったときに力を発揮できないと思います。社員が頑張り、結果、利益が上がるということでいいんじゃないですか。
最近の若い人はクールで、社内の飲み会を嫌がるとか言われていますが、そんなことないと思います。一体感を作り出していく、というのは今でも大事なこと。会社がそういうムードを作ることが一番重要だと思います。
会社が積極的に働きたくなるムードを作る
尊徳 具体的にどのようなことをすれば?
鈴木 工夫できることはたくさんあります。最近の新聞に、配偶者の転勤で職場を辞めなければいけなくなった地銀の行員が、転勤先の別の地銀で働けるという記事が出ていましたが、弊社では2007年から勤務地変更制度というものがあります。
また、第三子を産んだときに200万円の補助金も出しています。有休も取りやすい雰囲気を作っています。休めと言ってもなかなか有休は取りにくいものですが、休みの予定を部長(支店長)から先に入れれば若い人たちも遠慮せずに休みが取れる。
一つひとつは大した話ではないが、こういうことを会社側が社員のことを考えて、積み重ねていくことです。完璧ではないかもしれないけど、やれることはなんでもやっていくことです。
尊徳 民間企業だから、利益を上げることは重要ですが、その前にウェットなことが必要だということですね。
鈴木 株式会社は、最終的には株主さんに利益を還元するのがすべてですが、社員が気持ちよく働かないと企業価値は高まりませんからね。
政府に先駆けて女性の活躍を推進
尊徳 そんなコンセプトがあるから女性の活用も進めたのですか?
鈴木 当時は、女性の活躍を強く意識したわけではないのですが、支店をまわってみると、女性に対して旧態依然の待遇だったわけです。男性と遜色ない仕事をしていても、昇進や昇給などで、評価されないようなことも多々ありました。
それではいけないと、女性も男性も関係なく、優秀な人にはそれなりの責任、処遇、報酬を出した方が、組織としては活性化ができるのではないか、と考えたのです。そのための制度改正をしただけです。
以前の証券会社は(売買)手数料を稼いだ人が一番評価が高かった。すると、既存のお客様にたくさんの売買を勧める営業マンが高い評価になります。しかし、それではこれから会社が伸びていかないだろうと考えました。ある意味、体育会系的な動きで成績が上がるので、女性が活躍しづらかった。
そこで新規顧客の開拓や資金導入を行った人を高い評価にすることで、女性の活躍の場が増えました。彼女たちが自ら勝ち取った結果です。
古い体制にどう立ち向かうか
尊徳 現実にネット証券が伸びて、手数料ビジネスは転機を迎えましたね。いくらトップが大号令をかけても、古い体制もありますよね。抵抗はなかったのですか?
鈴木 そりゃありましたよ。特に管理職の人たちは営業成績も責任を負っているわけですから、変化することのリスクを考えます。
例えば地方では、地銀さんが大切なお客様ですので、担当にはエース級の人が就きます。当時、地銀担当には男性しかいなかったのですが、一気に3分の1くらいを女性にしました。
しかし、支店長としては心配で、前の担当だった男性をお客様との面談に同席させるなどして女性の担当者に全面的に任せない。そこで、何かあったら支店の責任ではなく、”社として責任を取る”からと言いました。任せれば女性はきちんとやります。もちろん男性と同じくダメな人は外しますが、非常に活性化できました。
尊徳 同一労働同一賃金ですよね。
鈴木 女性も男性も、能力で評価すればいいと思っています。本当に上手く女性の活躍を進めるならば、勤務時間の管理ができるかどうかだと思います。
特に以前の証券会社の場合は、男性がとにかく遅くまで働きました。体力勝負となると男性には勝てません。しかし今、営業店は19時までに終わるようにしています。終わりを決めておけば、その範囲内で中身の濃い仕事をするようになります。長時間働けば評価が高い、というのでは女性が活躍できません。当社では、産休に入った女性でも、成績が良ければ産休中に昇格することもありますよ。