11月4日に行われた米大統領選の結果、共和党候補のトランプ氏が勝利した。これまでの世論調査結果では、トランプ氏とハリス氏の支持率は拮抗し、大接戦になると予測されていたが、いざ開票作業が始まるとトランプの優勢が顕著になり、結果としては圧勝だった。ハリス氏は獲得議席でトランプ氏に60以上の差を付けられたが、ペンシルペニアやウィスコンシン、ジョージアなど激戦7州で大敗したことが決定打となった。勝利宣言したトランプ氏には各国首脳からお祝いのメッセージが次々に送られ、既にトランプ外交はスタートしている。今回の選挙で共和党は上院の過半数を確保し、現時点で下院も過半数を占めるトリプルレッドと言われる状況になるとも言われ、トランプ氏は2期目の政権で周囲を自らに忠誠的なイエスマンで固めることが予想され、1期目以上に自分のやりたいことを思う存分やっていく可能性がある。では、トランプアメリカの再来によって世界情勢はどう動いていくのだろうか。
中東情勢は今後どうなる?
まず、懸念されるのが中東情勢の行方だ。昨年10月以降、紛争の発端はパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するハマスによる奇襲攻撃だったが、イスラエルはガザ地区やレバノンで軍事的な強硬姿勢を貫き、ガザ地区での犠牲者数は4万人を超えている。また、イスラエルとイランとの間でも軍事的緊張が高まり、限定的ながらも両国の間で軍事的な応酬が断続的に見られる。イスラエルのネタニヤフ首相は自らが有事にあることを自覚しており、攻撃の手を緩める気配は一切見られない。
そのような中、ネタニヤフ首相はトランプ再選を強く待ち望んでいた。バイデン路線を継承するハリス氏が大統領になったとしても米国のイスラエル寄りの姿勢に変化はないだろうが、トランプ氏は政権1期目の時にネタニヤフ首相と良好な関係を築き、親イスラエル・反イランの姿勢を堅持し、イラン核合意から一方的に離脱するなどした。トランプ氏による勝利宣言後、真っ先に祝福のメッセージを送ったのはネタニヤフ首相であり、ネタニヤフ首相は最大の後ろ盾を得たとして、イランや親イランのシーア派武装組織に対する強硬姿勢をさらに先鋭化させ、中東の安全保障情勢が悪化することが懸念される。
ウクライナとの関係性は今後どうなる?
また、ロシアによる侵攻を受け続けるウクライナにとっても、トランプ再来は厳しい現実を突きつける可能性がある。トランプ氏はウクライナ戦争について24時間以内に終わらせる、大統領に返り咲けばウクライナ支援を最優先で停止するなどと豪語しており、来年1月にトランプ政権が実際に発足しないと分からないことだが、これまでのような積極的な支援は受けられなくなる可能性が高い。トランプ氏が目指すのは早期の戦争終結であるが、ロシアのプーチン大統領には暴力停止の確約を迫る一方、ゼレンスキー大統領には同国東部をロシア軍が占領する現状での和平、戦争終結を受け入れるよう圧力を掛けるシナリオが考えられる。
そして、この問題は欧米の分断を再び誘発することになろう。バイデン政権が発足した当初、バイデン大統領が真っ先に取り組んだのが欧州との関係改善だった。トランプ政権1期目の際、米国はパリ協定など国際的枠組みから次々に離脱し、国連やNATOを軽視する姿勢に徹したが、トランプ氏は今年2月にも「NATO加盟国が十分な軍事費を負担しなければロシアが攻撃してきても米国は協力しない」と発言し、欧州諸国から強い反発を招いた。トランプ再選ということで、欧州諸国もある程度”トランプ慣れ”はしていると思われるが、トランプ氏が主張してきたようなウクライナ政策を進めていけば、米国と欧州との間には再び大きな亀裂、分断が生じることになろう。
朝鮮半島の情勢は今後どうなる?
一方、朝鮮半島情勢を巡っては、大きな変化が起こる可能性がある。バイデン政権は北朝鮮が核・ミサイルなどで率先的に改善策を示さないと交渉のテーブルには付かない、相手にしないスタンスに徹してきたことから、この4年間米朝関係には変化は見られず、同政権が対北で日韓との結束を強化してきたことから、北朝鮮は軍事的挑発を続けてきた。しかし、トランプ氏は任期中にベトナム、シンガポール、板門店と3回も金正恩氏と対面で会談し、それらが双方の納得する結果になったかは別として、米朝の間では緊張緩和が見られた。トランプ氏は7月、自分が大統領に返り咲くことを金正恩氏も望んでいるだろうと主張しており、トランプ政権の再来によって米国が独自の北朝鮮外交を押し進め、それによってバイデン政権下で固められた日米韓の結束は揺らいでいく可能性がある。無論、トランプ政権が北朝鮮と交渉する姿勢に転じれば、朝鮮半島をめぐる軍事的緊張は緩和されていくことになろう。