高度成長期のなか「Made in Japan」は世界中でもてはやされ、日本は”モノづくり大国”の名をほしいままにした。だが今やグローバル化によって、世界の強豪や新興勢力に押しつぶされそうになっている。家電からPC、社会インフラまでを手掛ける大手電機メーカーを探り、日本の製造業の行く末を追った。
ソニーの”一人負け” 永遠のライバルパナソニックvsソニー徹底検証
永ちゃんが白旗? テレビさえかなぐり捨てた”ミスターモノづくり”の金融シフト
「矢沢、負けない」がモットーの矢沢永吉がCMキャラを務める液晶テレビ「BRAVIA」。ソニーの花形製品だったはずだが、2014年同社はついにテレビ事業を分社化、また同じく著名なPC「VAIO」の売却も決意。2枚看板の製品の本体切り離しで、電機業界からは「ついにモノづくりからの決別か」との声も出る始末。
実際、近年同社の稼ぎ頭はソニー銀行を筆頭とする金融事業で、この後に音楽や映画といったコンテンツ事業が続く。つまりは非製造部門だ。次代の柱とばかりに「Xperia」に代表される携帯・スマホ事業にここ数年心血を注ぐものの、アップルのiPhoneや韓中台勢の携帯・スマホ攻勢にまったく適わず、1000億円規模の損失を出す失態ぶり。健闘する主力製品をあえて挙げるとすれば、もはやゲーム機「プレイステーション(PS)」シリーズしかない有様。ただし、任天堂の凋落ぶりを見てもわかるように、スマホ対応ゲームの台頭でゲーム専用機が今後さらに苦戦するのは明らか。
かつて高精細ブラウン管「トリニトロン」やVTR機「ベータマックス」、携帯型音楽プレーヤー「ウォークマン」を世に出し、ライフスタイルさえ変えたソニー。だが21世紀に入ってからというもの、持ち前の尖った製品は誕生していない。一説には「安定収入が見込める金融事業が同社の独創性にブレーキをかけている」とも。
テレビ事業に関しては4Kに期待をかけるが、すでにこの領域はコモディティ化(画一化)が進み、韓中台の強豪が並み居るレッドオーシャン。優位性などすぐにキャッチアップされるはずだ。加えて、北朝鮮の仕業だとアメリカが断定したソニーのグループ企業、アメリカのソニー・ピクチャーズ エンタテインメントに対するハッカー攻撃も暗い影を落とす。「世界のSONY」は果たしてモノづくりで負けたのだろうか……。
“家電のDNA”とB to Bシフトを鮮明にした家電王国・パナソニック
ソニーとは永遠のライバルだが、ご多分に漏れず花形のテレビは苦戦中。だが家電王国の矜持なのか、本体からの分離などは言語道断、消費者向けAV商品群を、洗濯機・冷蔵庫などを統括する部署に鞍替え、というショック療法で再建に挑む。
テレビ事業は別格の領域で、「Panasonicブランドを世界に知らしめているのは俺らだ」との自負も強い。だが技術を追求するあまり、自己満足的な製品を量産しがちだった点は否めない。「このままでは将来が描けない」とは津賀一宏社長の弁だ。消費者目線で製品を生み出し、国内で確固たるシェアを握る白物部隊に預けたわけである。
一方、並行して”家電王国”とは趣を異にするB to Bへのシフトも加速させる。豊富なモノづくりのアイテムを対企業向けに売り込むもので、信頼と技術が勝負どころ。AV・IT製品など対消費者向けと比べ華やかさに欠けるものの、流行による浮き沈みや新規参入による過当競争が生じにくく、安定収入が得られる。
すでに自動車関連や住宅、航空機(アビオニクス)などの分野で地歩を固めているが、「住宅を自社だけで丸ごと建てられる電機メーカーは世界中見渡してもパナソニックだけ」という事実が物語るとおり、モノづくりの裾野が広い同社だからできる力ワザだ。
ちなみに同社のモノづくりのこだわりが光る代表例が、質実剛健に徹したPC「レッツノート」。軽量で電池が長持ち、落下にも耐える強靭さを追及し、今や国内ビジネスユースの4割を握り、「新幹線内で最も使われるPC」との評も。加えて過酷な現場での使用を前提としたPC「タフパッド/タフブック」も世界中が注目、イスラエル軍やロシア軍が愛用しているとも言われている。PC事業を手放したソニーとは好対照だ。
電機業界を襲った「テレビのPC化」
ジェットコースターのように業績が乱高下する理由の一つが「テレビのPC化」だ。PCの内部をのぞけばわかるが、世界中から集めたパーツの集合体に過ぎない。規格が共通化されたおかげで、PCメーカーはこれをただ組み立てるだけ。裏を返せば「誰でもほかと遜色のない性能のマシンを作れる」ということだ。
現在のテレビも、これとまったく同じ構図で、コアパーツの液晶を中国、韓国、台湾メーカーが洪水のごとく量産・拡販、もちろん高品質・低価格は当たり前。そしてこれらを使えば誰でも高品質テレビが簡単に作れる。おまけに画像信号はデジタルで、アナログと異なり制御しやすく劣化がない。
これまで、日本の電機メーカーにとってテレビは”看板”であり稼ぎ頭だった。門外不出のブラウン管技術が高画質と直結、わが国のアナログテレビは世界の茶の間を席巻した。だが状況は一変、今やコモディティ化の荒波に溺れそうな状態だ。