消費税率の引き上げや幼児教育の無償化など、今回の総選挙は数々の争点があるが、中でも有権者の多くが気にしているのが憲法改正の行方だろう。自民党内では”与党圧勝”との情勢を受け、今秋の臨時国会に9条改正案を提示する案が浮上。慎重姿勢の公明党との間でスタンスの違いが浮き彫りになってきている。選挙結果と改憲の行方はどう結びつくか。有権者も慎重に自らの投票先を選ばなければならない。
意見食い違う与党とあいまいな野党
「改憲、動き出す自民内」。朝日新聞は10日17日の朝刊一面で、与党の堅調な戦いぶりを受けて秋に臨時国会を召集し、自民党として憲法9条の改正原案を示す案が浮上していると報じた。改憲反対の立場をとる朝日新聞だけに”牽制”の意味合いもあるとみられるが、さすがに何のファクトもなく書けるはずがない。自民党幹部の口からこんな話が漏れ始めているのだろう。
ただ、改憲、特に9条改正に関しては与野党の主張が入り組んでいて簡単ではない。安倍首相率いる自民党は9条を改正し、自民党の存在を明記する方針を固めているが、党内きってのハト派である宏池会を率いる岸田文雄政調会長は慎重姿勢を示している。公明党も「加憲」の立場をとり、改正には慎重姿勢。与党内でも意見は食い違っている。
野党では共産党や社会党などが改憲に明確に反対する一方、希望の党は「9条を含め憲法改正論議を進める」とあいまいな表現。立憲民主党は「専守防衛を逸脱し、立憲主義を破壊する、安保法制を前提とした憲法9条の改悪に反対」としているが、”改悪”でなければ9条改正も認めているように読める。そもそも何が善で何が悪かは人によって異なる。つまり、希望の党も立憲民主党も党内の意見集約が難しい問題はあいまいな表現で先送りしたということ。
希望の党では公認決定の際に「憲法改正を支持すること」と明記した政策協定書へのサインを求めたが、改憲の具体的内容は書いていない。希望の党も立憲民主党も時間の無いなかで結党しただけに、政策議論は選挙が終わってから。かつての民主党のように議論が右往左往する可能性は高い。
選挙後に始まる改憲勢力の綱引き
新聞はよく「改憲勢力」という言葉を使うが、これは大きな方向性として憲法改正を目指す、あるいは否定しない政党のことを指しているのであって、項目によって方向性はまったく違う。
今回の選挙における改憲勢力は、自民党、公明党、希望の党、日本維新の会、日本のこころの5党。例えば共同通信 が10月15~17日に実施した終盤情勢の調査では5党の議席予想は378で、改憲の発議に必要な3分の2、つまり310議席をはるかに上回る。しかし、だからといって選挙後すぐに憲法9条の改正が実現するわけではなく、むしろ選挙後に「どの項目から優先的に改正を目指すか」という水面下の調整が始まる。
このときに注目すべきは”参院民進党”がどうなるかだ。民進党は衆院選に候補を立てなかったが、参院議員 は今もほとんどが民進党に残留。仮に、民進党会派の49人の大半が衆院選後に希望の党に合流すれば、公明党抜きでも改憲勢力が参院で3分の2の162議席を確保できる。逆に、多くが立憲民主党に移れば改憲のハードルは高まることに。
報道通りに与党が圧勝すれば、おのずと安倍首相の自民党総裁3選が固まり、悲願である憲法改正が視野に入る。そのときに安倍首相の持論である9条改正に突き進むか、党内の慎重派や公明党に配慮して異論の少ない項目から着手するか――。それは今回の選挙結果、そしてその後の野党再編にかかっている。