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新生 劇団四季 国民的ミュージカルの舞台裏

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日本を代表するミュージカル劇団・劇団四季。年間3000ステージを公演し、観客動員数は300万人、売上は200億円以上をたたき出す。普通の劇団じゃ考えられない数字だ。さまざまな施設が揃う”心臓部”の「四季芸術センター」や、最新作『アラジン』の舞台裏に潜入し、演劇界の大企業・劇団四季の姿を浮き彫りにする。

強靭な企業体質を生み出す劇団四季のシステム

小さな学生劇団だった四季をここまで大きくしたのは、創業者・浅利慶太氏の理念の下に作られた特異なシステムだ。普通の劇団とは違う超ストイックな企業体質に迫る。

[システム1]専用劇場でロングラン公演

劇団四季の最大の特徴といえば「ロングラン」。レパートリーの中から演目を選び、全国8ヵ所の専用劇場で、長期の公演を行うのだ。『ライオンキング』や『キャッツ』といった人気作では年単位の公演になることも。日本では一般に、演劇の公演期間は2週間前後から長くても2ヵ月程度。四季のロングランは異例だ。

ロングランの一番のメリットは収益性。作品にもよるが、大規模な演目への投資でもだいたい2年前後で回収できるので、長くやればやるほど利益を上げられる。ロングランで経営を安定させることで、チケットの価格は抑えられ、ミュージカル文化を広める、俳優が副業をしないで公演や稽古に専念する、といった劇団の理想を実現してきた。同じ演目でも十分に集客できるだけの魅力と、何ヵ月でも自由に使える専用劇場があって初めて成り立つ、四季ならではのシステムだ。

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[システム2]スター不要の「作品主義」

四季は作品そのものが持つ魅力を大切にし、個々の俳優をフィーチャーしない。「芝居の面白さは本が8割、残りの2割が俳優や演出といった他の要素」というのが創業者・浅利氏の持論だ。誰それの当たり役などとして、配役が固定されることはなく、常にそのときにベストな配役をするため、どの俳優が舞台に立つかは各公演週の頭まで発表しない。テレビドラマや他の劇団では礼賛されがちなアドリブも、クオリティがブレる原因になるとして原則禁止だ。

しかし、俳優は自分がスターになりたいという気持ちにならないものだろうか。「入団当初はその気持ちがなかったわけではないけど……。作品や作者、言葉を大切にする四季の理念に触れるうちに、自分が作品の一部になることを追求したいと思うようになった」(入団8年目、女優)と、「作品主義」は団員一人ひとりにしっかりと根づいているようだ。

[システム3]俳優が”芝居で食える”環境

「若い頃は皿洗いのバイトをしながら舞台に出ていました」という舞台畑出身の俳優の苦労話をよく耳にするが、四季ではまずない話だ。俳優が”芝居で食える”環境を整えているからだ。

第一に、収入。出演ごとにギャラが発生する歩合制ではあるが、月単位で最低額を保障。収入が安定すれば、ケガをしても安心してリハビリができるし、新人も訓練に専念できるというわけ。

第二に、支出。劇団自前の施設に、稽古場はもちろん、ジムや食堂、医務室などを備えていて、団員は無料、または安価で利用できる。また、四季ほどの規模になると、外部の商品・サービスにも団員限定の割引が用意されていることも。面白いのが、在籍期間が短いほど安く食べられる食堂。ベテランが新人を支えるシステムになっているのだ。至れり尽くせりだが、当然、本業の質は高い水準で求められるのだが。

劇団四季のデータまとめ

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創業者・浅利慶太氏コメント
「四季の創作面についても後進に継承する時期にきたのだと思います」

劇団の経営面については、2014年6月、僕を長年支えてくれた幹部たちにバトンタッチしました。彼らは劇団さらに発展させてくれることでしょう。すでに、ディズニーの新作ミュージカル『アラジン』の企画など、2014年後半からの劇団経営は彼らが主導しています。

合わせて、四季の創作面についても後進に継承する時期にきたのだと思います。これからの四季は、すべての仕事を次の世代が担い、牽引しなければなりません。今後は、四季の俳優たちが長年培われてきた劇団の理念と方法論を守ってくれることを信じ、見守っていきたいと考えています。

一方、僕自身の演出に対する意欲は衰えていません。組織のトップとしての束縛から解放され、自由に、しなやかに仕事ができる場所が欲しいと思い続けてきましたが、いよいよその夢を実現させてもらえるようになりました。これからは仲間と小規模な公演を、自分のペースで行っていきます。62年間の実績に免じて、どうかお許しをいただければ幸いです。

新しい世代が率いる劇団四季にも、これから変わらぬご支援をくださいますようお願い申し上げます。
(2015年3月ラ・アルプより)