海外の配車アプリの日本市場参入や、ライドシェアの規制緩和が検討されるなど、既得権に守られてきたタクシー業界も事情が変わってきた。1991年のピークから下がり続ける市場を打開するため、自社開発のアプリなどを生み出してきた都内最大手のタクシー会社、日本交通のIT戦略に迫る。
保守的なタクシー業界に訪れた変化の波
2015年10月、政府は2種免許を持たない一般運転手が謝礼をもらって客を自家用車で運ぶ「ライドシェア(相乗り)」について、地域限定で認める方針を固めた。海外では市民の足として定着しているが、日本でも解禁されることでタクシー業界の変化は避けられないだろう。
「タクシーの実車率(実車距離÷総走行距離)は1991年の55%前後をピークに減少を続け、市場規模も約2.3兆円から1.6兆円に縮小。ここ最近は海外発のタクシー配車サービスが”黒船”のように参入してきているなか、今回の『ライドシェア』の規制緩和ですから、われわれとしても従来以上のサービスが不可欠だと考えています」(日本交通事業開発部長・濱暢宏氏)
他社にはないユーザー体験を提供
観光・ケア・キッズという専門分野に特化したドライバーサービスを展開してきた日本交通は、さらに”選ばれるため”に、独自のIT戦略に注力。2011年に、日本初のタクシー配車アプリ「日本交通タクシー配車」「全国タクシー」を立て続けにリリースし、現在、シリーズ累計で180万以上のダウンロードを記録。アプリによる売上も85億円を突破している。
「東京は流しの営業が全体の約60%を占めますが(上図参照)、そこで日本交通のファンになってくれたお客様が当社のタクシーを呼んでくださるようにスタートしたのがこれらのアプリ。約5年で無線配車の約3割を占めるまでに成長しました」
アプリ開発に際しては、クラウド型経費管理サービスのコンカーと提携、LINEにも技術提供するなど、パートナーシップによる顧客拡大にも余念がない。こうした新しいサービスの展開は、自社で抱えるエンジニアの活躍によるところも大きいという。他社にはないユーザー体験の提供は、まだまだ続きそうだ。
JapanTaxiが手掛けるアプリ「全国タクシー」
スマホならではの操作性とGPS機能を生かしたタクシー配車アプリ。全国で営業する日本交通提携会社のタクシー約2万3千台を利用できる。
[1]ユーザーはアプリの地図画面から乗車場所を指定するだけで、タクシーを呼ぶことができる。
[2]目的地の最適ルート検索や料金が概算できるほか、配車実績などから好みのタクシー会社を選択することも可能。
[3]事前に情報を登録しておけば、ネット決済機能を利用できるため、わずらわしい降車時の支払いも不要に。
[4]「全国タクシー」は2015年10月現在、配車実績350万台を突破。全国各地で配車可能エリアを拡大中。