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大事なのは“つながり” 職業「芸術家」を目指す若者たち【三菱商事アート・ゲート・プログラム】

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プロの芸術家になるためには作品を世の中に発表しなければ始まらないが、そもそも資金の少ない若手にはその場にさえ恵まれないことは多い。そんななか、三菱商事は2008年から若手の育成とキャリア支援を目指し、「アート・ゲート・プログラム」を実施、2017年に10年の節目を迎えた。プロ芸術家志望者たちの胸の内を探るため、昨年12月に開催されたチャリティー・オークションを訪れた。

ワイングラス片手に若手芸術家と談笑

「先月ダ・ヴィンチの絵が約510億円で落札されて話題になりましたが、このオークションはあのダ・ヴィンチ作品とまったく同じ方法のオークションになります!」

オークショニアの言葉に会場がどっと沸いてスタートした「三菱商事アート・ゲート・プログラム 第37回チャリティー・オークション」。会場には軽食も用意され、ワイングラス片手に未来のダ・ヴィンチになるかもしれない若手芸術家との会話を楽しみながら、作品を鑑賞し購入できる。

来場していた男性会社員の方に話を聞くと、「2012年からほぼ毎回参加している。今まで購入したアート作品は40点以上で、どうやら歴代2位らしいよ」と笑顔で答えてくれた。

1度のオークションにかけられる作品は約50点。今回は53点が出展された。
三菱商事アート・ゲート・プログラム

若手アーティストの育成とキャリア支援を目指し、三菱商事が2008年から実施しているプログラム

メインプログラムであるチャリティー・オークションの出展作品は公募制となっており、参加できるのは美術系及び一般の専門学校、短期大学、大学、大学院に通う現役学生または卒業後3年以内の若手アーティストのみ。全国から応募された作品は、美術関係者などによる審査を行い、入選作品を決定、三菱商事が1点10万円で購入する(年間約200作品)。購入した作品は同社内外で3カ月間展示したのち、年4回のオークションを開催。

オークションの売上は主にプロの作家を目指す現役学生の奨学金となる。

オークショニアのリズミカルなトークで進行される本オークション。ダ・ヴィンチ作品との一番の違いは、入札開始価格が【1万円】ということで、気軽に参加できるのが大きな魅力だ。そして、将来有望な若手作家を自ら発掘できるかもしれないという楽しみもある。

金額は1万円から1万5千円、2万円、2万5千円……5千円刻みで上がっていき(※)、パドルを掲げた最後の一人になると「では、◯万◯千円で○○番の方に落札します!」の声とともにゴン!とハンマーの音が響く。
(※)購入金額は落札価格に消費税を加えたもの。

それぞれの番号が書かれた札(パドル)を上げて入札する参加者。

プレゼンは若手の成長の場

若手芸術家にすると、このオークションはかなり緊張する場のようだ。何しろ約120人の参加者を前にして作品のプレゼンテーションをするのだ。そして、自分の作品を「欲しい」とパドルを掲げて意思表示する人たちの、ある意味生々しい現場をステージ上から目にすることになる。

落札価格が決まってオークショニアが鳴らすハンマーの音が会場に響いた瞬間、「ありがとうございました」と頭を下げる若手芸術家の姿は、見ていて胸が熱くなるものがある。

「今日はこれから未来のピカソやダ・ヴィンチになるかもしれない若手が出てきますので、ぜひサポートを!」とオークショニアの柴山哲治氏(右端/オークションの運営会社 株式会社AGホールディングズ 代表取締役)。

時折、白熱した競り合いが見られた今回のオークションの最高落札価格は51万円。落札金額が10万円を超えた場合は、その超過分の半額が制作者に還元されることになっている。この日は53人の若手芸術家による53作品すべてが落札され、売上は350万円に上った。

奨学金が留学生の窮地を救う

「三菱商事アート・ゲート・プログラム」では、オークションの売上の大半を奨学金にする奨学金制度を設けており、奨学生に選ばれると一人年間約100万円が支給される。過去の奨学生は実に100名を超えるという。今回、数年前にその奨学生だったという若手芸術家2名に話を聞くことができた。

京都市立芸術大学大学院在学中の金さんは、2012年度に奨学生になって以来、このオークションにはできるだけ応募してきたという。10回以上の入選経験を持つ“ベテランの”若手芸術家だ。

金基煥(Kim Kihwan) 京都市立芸術大学大学院在学

――将来的にはどのような道に進もうと思っていますか?
 留学生として日本で学んだ知識と経験を韓国に持ち帰り、教育者として、それらを経験できない人たちへ教えていきたいと思っています。

――芸術家としての活動だけで生活していこうとは考えていないということでしょうか?
それだけではやっぱり難しいです。結婚して子どももいるので、まずは生活していく経済力が必要。でも、安定した収入を得ながらプロとして頑張りたいとは思っています。

――アート・ゲート・プログラムについてはどう思っていますか?
実は2012年は子どもが生まれた年で、貧乏留学生として学校を辞めるか就職するか?と悩んだ時期だったのですが、そんなときにこのプログラムを知って奨学生になれました。私にとってはすごく大きな力になって、今まで作品作りを続けてこられたのもこのプログラムのおかげです。

「不思議の国のあなた」(綿に反応性染料、綿糸、顔料)42×63cm

かけてもらえる言葉が大きなモチベーション

同じく、京都市立芸術大学大学院在学中の幸山ひかりさん。本オークションへの出展は4回目だという。

幸山ひかり 京都市立芸術大学大学院在学

――アート・ゲート・プログラムの奨学生になったきっかけを教えてください。
幸山 大学3年生のときに、当時奨学生だった先輩の勧めでこのプログラムがあることを知りました。大学院に入ったら受けようと思っていて、憧れから入った感じです。

――将来的に目指しているのはプロの芸術家ですか?
私は芸術家としてこれからも絵を描いて生きていきたいと思っています。不安はありますが、覚悟はしているつもりです。

――そんな幸山さんにとってアート・ゲート・プログラムとは?
将来プロの芸術家としてやっていくとなると、作品を購入したいという方とのつながりが一番大切だと思うのですが、学校ではそのような社会とのつながりは教えてくれません。だけどこのオークションを通じてその手がかりが見えたというか、いろんな方とお話するチャンスをいただいて、知り合いになれたことが一番の収穫でした。

何より自分のキャリアアップにもつながりましたし。金銭的な支援というものももちろんあるのですが、人とのつながりを作れたことが大きかったです。

オークションが始まる前は、作品を前にして若手芸術家と直接会話することができる。実に和気あいあいとした雰囲気。

――周りにもプロの芸術家志望者は多いですか?
実際にプロを目指す人は10人中私を含めて3人しかいません。ただ、この機会をいただいているというのは本当に心強くて、前まで抱いていた芸術家に対しての「食べていけるのか?」などの暗いイメージが和らぎました。

応援してくださる人がこんなにいるということや、こういう形で支援してくださる人がいるんだということが具体的に見えてきたんです。ただ、ここから先は自分次第だなと思ってます。

「展開」(麻紙に岩絵具、水干絵具、箔、墨)53×41cm

「気軽に来てもらうのが私たちの狙い」

アート・ゲート・プログラムを主催する三菱商事の担当者にも話を聞いた。

――10年という節目を迎えた今どう感じていらっしゃいますか?
まず、かなりの数の学生たちがこのゲート(登竜門)を卒業していっているということに、続けてきて良かったなと思っています。彼らの中でも徐々にこのオークションの知名度が上がってきているというのを実感します。今日、最高額の出た作品を描いた学生が昨年の奨学生だったということも、10年の実績として積み上がってきた結果なのかなと。

――若手芸術家の方々からは、来場者との触れ合いが良い経験となったという話が上がりましたが。
オークションもそうなのですが、展示期間中のギャラリートーク(若手芸術家自らが自分の作品をプレゼンテーションする機会)でも、芸術家同士、もしくは芸術家と来場者が触れ合う機会があるんです。実はそういう場ってあまり無いんですよね。私たちも美術の専門家ではないので最初はまったくわからなかったんですけど。

ちなみにギャラリートークでは、オークショニアの柴山さんから、作品に対してどうアピールしていったらいいかなどのアドバイスもあるんですよ。

――オークションに参加される方はどういう方が多いのでしょうか?
40代後半から50代、60代の方が中心で、男女比は若干男性が多いですね。何回も来てくださる方もいますが、初参加の方も毎回半分くらいいらっしゃいます。まずは“アートが好きな人”というのが一番だと思います。世の中のオークションは敷居の高いものが多いですが、このプログラムは事前登録制とはいえどなたでも無料で参加できます。何より1万円から入札できますからどなたでも参加して楽しんでいただいているのではないかと感じています。

――気が早いですが、次の10年に向けての意気込みをお聞かせください。
ありがたいことに、スタート以来、作品の応募数もオークションの来場者数も安定していますので、まずはこのままプログラムを継続させること。そして今後は、奨学生同士が集まる場を増やし、より切磋琢磨していける機会を作りたいと考えています。せっかく奨学生という立場で一年間頑張っているのに、皆さんが集まるチャンスが少ないという課題があるんです。これからはそれをパワーアップしていきたいなと思っています。


 

芸術活動を続ける上では経済力も必要だが、“人と人とのつながり”もとても大事。若手芸術家と来場者の交流の場である「三菱商事アート・ゲート・プログラム」のチャリティー・オークション会場には、そんな“つながり”が飛び交っていた。

次はどんな若手芸術家がこのゲートをくぐるのだろうか。未来の巨匠たちはオークションに向けて今も作品制作に取り組んでいることだろう。

三菱商事アート・ゲート・プログラム 第38回チャリティー・オークション

開催日程:2018年3月10日(土)

作品展示期間:3月1日(木)~3月8日(木)

展示場所:「MC FOREST」三菱商事ビル1階

»プロジェクトの仕組み