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<異物混入・食中毒・食品偽装>日本マクドナルド/赤福/まるか食品/船場吉兆/雪印乳業/フーズ・フォーラス~『間違える企業』列伝

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食品業界の”間違い”ほどわかりやすいものはない。社会が求める”消費者の安全や安心を最優先”ではなく、”業界内のルールや常識”を優先した結果だからだ。歴史に残る6つの不祥事に共通するのは、”過剰な組織防衛”という病である。

日本マクドナルド 異物混入(2015年1月)

日本マクドナルド

2015年1月5日、青森県の店舗で販売されたチキンナゲットに青いビニールが混入していたことを皮切りに、日本全国から「人の歯が入っていた」などの異物混入が続々と報告され、店舗での客足が激減。2015年12月期決算では347億円という上場以来最大の赤字を出した。

外食産業では「不祥事のうちに入らぬほど日常的に起きている」(大手外食幹部)という異物混入がここまで大きな騒ぎになった最大の理由は、”禊”が遅かったことにある。発覚後の1月7日、本社で執行役員が会見を行なうが、状况説明に終始。サラ・カサノバ社長がメディアの前で頭を垂れたのは騒動から1カ月後だった。

個別の店舗で起きた事案で経営トップが謝罪をしたら切りがない――。マクドナルドとしては、食品業界の常識に則った対応のつもりだったが、2014年夏以降に発覚した期限切れ鶏肉の使用問題や業績低迷に結びつけられ、企業体質を問われることを踏まえれば、稚拙な危機管理対応と言わざるをえない。

新年早々で他の経済ニュースが無いなかで、情報番組などが飛びついていることも考慮すべきだった。このような世論を敏感に察知し、柔軟な対応をしないというのも”間違える企業”の特徴の一つだ。

赤福 赤福餅の消費期限偽装(2007年10月)

赤福餅

2007年10月、伊勢神宮参拝の土産としておよそ300年にわたり親しまれてきた「赤福餅」で製造年月日の改ざんが発覚して、約4カ月間の営業中止に追い込まれた。製造品の一部を冷凍保存し、必要に応じて解凍して出荷していたのだが、包装した日を製造日と偽って出荷。本当の製造日との開きは最大2週間あったという。

これは製造元の赤福社内では「まき直し」という隠語で呼ばれ、ごく普通に行なわれていた。それだけではない。遠隔地向け出荷や、繁忙期には、実際の製造日より先の日付を刻印する「先付け」と呼ばれる偽装や、売れ残りの餅やあんを回収し、関連会社で再利用する「むき餅・むきあん」というリサイクルまで発覚したのだ。

このような不正がスタートしたのは1973年。20年に1度、伊勢神宮の社殿などを一新する式年遷宮の年だった。約1300年続く伝統神事を見ようと観光客は右肩上がりで増加するなかで、赤福内部では、「需要に合わせて出荷量を調整する」ことは正義だと見なされ、誰からも咎められることなく30年以上も続けられてきた。

この背景には、赤福が日本でも有数の名門企業であることと無関係ではない。組織存続が最大の目標となった食品企業にとって、消費期限や食品衛生法などは邪魔な足かせでしかないということだが、何よりも食中毒などの実害を出していないという慢心もあった。

営業中止後、赤福は販売拡大に不正の遠因があったとして遠方地までおよぶ販売網を縮小、品質管理体制を徹底化するために製造も一箇所に集中。さらに、新しい社長の下で、冷凍保存用の設備を廃棄し、製造ラインに賞味期限の不正印字ができないシステムを導入するなどコンプライアンスを徹底したことで、2008年には64億円だった売上を5年後には92億円とV字回復を果たしている。

船場吉兆 食品偽装(2007年10月)

2007年10月、老舗割烹として知られていた船場吉兆の”間違い”に日本中が騒然となった。パート従業員らの内部告発によって、牛肉の産地偽装、ブロイラーを地鶏と偽る、無許可で梅酒販売するなど次々と不正行為が明らかになったのだ。

しかし、船場吉兆が本当の意味でやらかしてしまうのは、現場に責任転嫁をしていた経営陣が、ようやく、渋々と、指示していたことを認めた謝罪会見である。

登壇した湯木喜久郎取締役が言葉に詰まると、隣にいた母の佐知子取締役が、口元を覆い隠して「頭が真っ白で……責任逃れの……」とささやき、そのとおりに息子が答えるという腹話術さながらの”芸”を披露。「大きい声で」「記者の目を見て」「ほら、しっかり言わんか」などと小声で激を飛ばしていることが、テレビ各社が壇上に用意したマイクにしっかり拾われてしまったのだ。

佐知子取締役は”ささやき女将”として一躍時の人となり、事件の悪質性よりも注目されたものの、その後に偽装どころか、客の食べ残しの天ぷらを揚げ直したりするなど再利用していたという高級割烹にあるまじき行為も判明。”ささやき女将”は、「手つかずのお料理」だと主張したが、予約キャンセルが相次ぎ、経営破綻となった。名門の看板を維持するための過剰な採算重視が、名門の名を汚す不正を招いたのである。

ささやき女将「ほら、しっかり言わんか」

まるか食品 ペヤングに異物混入(2014年12月)

ペヤング

2014年12月2日、大学院生がTwitterに「ペヤングからゴキブリ出てきた。。。」というつぶやきとともに、カップ麺の中に黒い物体が混入している写真を投稿した。その後、ペヤングを製造するまるか食品は全商品販売停止・工場生産停止・自主回収にまで追い込まれたことから、”異物混入”を象徴するケースとして語られることも多いが、実はまるか食品が”間違える企業”なのはそこではない。

ほぼ同時期に日清食品の冷凍パスタにゴキブリが混入し、自主回収したことをもはや多くの人が記憶にないことからもわかるように、本件は”顧客対応ミス”によって世の注目を集め、事態を悪化させた事例なのだ。

最大の過ちは、ゴキブリ写真の削除を強く求めすぎたことで、大学院生が「圧力をかけられた」と受け取り拡散したことだ。その後の「製造過程で虫が入るとは考えにくい」という企業側の発表と相まって、ネット上で「責任逃れか」「大学院生を疑っているのでは」と議論を活性化させた。これで、まるか食品の企業サイトで紹介されていた工場内部の黒く薄汚れた機械の写真などに注目が集まるなど、負のスパイラルに陥ってしまった部分も大きい。

食品業界では脅迫行為などを想定し、事実関係が明らかになるまで発見者に誠意ある対応をしないことが多い。そんなムラ社会の常識が炎上を招いてしまった側面もあるのだ。

雪印乳業 集団食中毒(2000年6月)

“間違える企業”のあらゆるエッセンスがちりばめられているのが、雪印乳業の集団食中毒事件だろう。2000年6月27日、「牛乳を飲んで吐き気がする」という消費者からの苦情が寄せられるも、雪印は株主総会を控えていたということもあり放置。それが被害拡大を招き、2日間に保健所が危険を呼びかけてから、14780人という戦後最大の被害者を出してしまう。

これだけでも深刻すぎる判断ミスだが、さらに酷いのが、その後の対応。食中毒発生5日後に開催された会見で、石川哲郎社長の口からは、「知らなかった」「それは本当か、君」などの言葉が連発。経営トップに何も情報が届いていなかったことが露呈した。

挙句の果てに、次の会見を要請してくる記者陣に対して、石川社長が「私は寝てないんだ!」と愚痴る始末。雪印に対する不信感はピークを迎え、店頭から雪印の商品は撤去。社長も辞任となった。この間、わずか1週間ほどである。

そして、この不祥事で窮地に立たされたグループ企業の雪印食品が、追い打ちをかけるようにやらかしてしまう。外国産牛肉を国産牛だと偽り、農林水産省から買い取ってもらうという補助金詐欺を行なうのだ……。

結局、雪印食品は逮捕者を出して、会社は解散。不祥事の対応を誤れば、会社など簡単に消し飛ぶという現実を、世に知らしめた歴史的企業不祥事だ。

雪印乳業 石川哲郎社長「私は寝てないんだ!」

フーズ・フォーラス 焼肉酒家えびす集団食中毒(2011年4月)

食に関する不祥事の中でも、最悪と評されるのが2011年4月に発生した焼肉酒屋えびすのユッケ集団食中毒事件だ。181人の食中毒を招き、重症24人、死者5人を出した。

最大の原因は、ずさんな安全管理に尽きる。えびすでは09年から衛生検査を行なっておらず、売れ残ったユッケを翌日提供もしていた。まさに言い逃れのできない安全管理ミスだが、えびすの罪はそれだけではない。

食中毒被害が注目を集めるなかで、同店を運営するフーズ・フォーラスの勘坂康弘代表取締役社長は、やや逆ギレ気味に「生食用でない加熱用の肉を調理してユッケとして出するのは業界の慣例」「安全を考えるなら日本中でユッケを販売しないように」と開き直ったのである。

業界体質や行政を批判して飛び火をさせても事態は収束するどころか、逆に大炎上する。3日後、その過ちに気づいた勘坂社長は、同じ人間かと思えぬほどのキャラ変えをしてマスコミの前で土下座謝罪を行なったが、時すでに遅し。日本中の焼肉屋から、ユッケやレバ刺しが消えた。

被害者賠償のためフーズ・フォーラスを解散したが、焼肉業界の遺恨は今も勘坂氏に向けられている。不祥事における雄弁さは、自滅を招くことを世に知しらしめた事件だった。

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