データの”間違い”は、信用がすべてのビジネスでは致命的だ。しかし、同じ間違いでもそこに”悪質な意図”があるか否かで、社会からの制裁も天と地ほどの差が出てくる。典型的な2社を比較しよう。
スズキ自動車 燃費測定不備(2016年5月)
三菱自動車の燃費データ不正問題で日本中が揺れる5月18日、スズキ自動車でも不正が明らかになった。国が定める「惰行法」と呼ばれる測定法でなく、欧州で認められている「屋内試験」でタイヤやブレーキの転がり抵抗、車体の空気抵抗を個別に測定し、それらデータを積み上げて走行抵抗値を出していたのだ。対象は、2010年以降にスズキが販売した全16車種と他社へ供給している11車種、約210万台にも及んだ。
「またか」「スズキよ、お前もか」とマスコミも当初は色めき立ったが、謝罪会見に現れた鈴木修会長らの釈明で事情が明らかになると、目に見えてトーンダウンする。
実は、スズキのテストコースは海に近い丘の上にあるため、「惰行法」ではその日の風の強弱でバラつきが大きく、申請に必要なデータを限られた時間内になかなか揃えることができない。そこで、屋内で人工的に風を作って測定したというのだ。
言い訳のように聞こえるが、「惰行法」で改めて測定した結果は、「屋内試験」よりも良い数値ばかり。燃費性能を偽るための改ざん行為でないことは明白だった。これに市場も反応し、謝罪会見後、株価が急騰した。
もちろん、法令遵守の意識が甘かったという大きな過ちはあるものの、意図的に消費者を欺いていたわけではないということで、「三菱自動車とは違う」ということを世に印象づけた。その後、CEO職は辞任することになるが、カリスマ経営者として名高い鈴修会長に新たに伝説を作った”間違い”といえる。
旭化成建材 工事データ改ざん(2014年10月)
一方で性能を偽るために意図的に世を欺いていたのが、2014年10月に日本中のマンション住民を恐怖の底へと叩き落とした旭化成建材だ。
建物を支える杭の中で、固い地盤まで到達していないものが8本あったにもかかわらず、他物件のデータを流用していたことに加えて、杭の底を固めるセメント量のデータも改ざんしていたことが、横浜のパークシティLaLa横浜の建物が傾いたことで発覚。これを受けて内部調査をしたところ、過去約10年間で担当した3052物件の中で、360件の施工データに流用があったことが判明したのだ。
これが単なる間違いでは済まされないのは、本件とは別に少なくとも50人以上の担当者がかかわる266件のデータ流用があったことだ。これは、現場責任者が独断で行なった犯罪ではなく、企業全体にはこびる企業文化だったということにほかならない。
ただ、旭化成建材のケースが発覚以降、杭打ち大手・ジャパンパイルも18件の施工データで不正流用があったとして公表。すべて担当者は異なるということなので、建築業界全体にはこびる”病”である可能性も高い。企業としても業界としても、醜悪な現実から目を背け続けたことこそが、最大の間違いなのかもしれない。
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