上場企業が決算や会計を偽るということが株主や市場、そして社会全体を裏切る悪質な犯罪であることは言うまでもない。このような過ちを犯してしまう遠因に、実は”コミュニケーション不足”があるということを3つの事件から読み解いていこう。
ライブドア(2006年1月)
2006年1月23日、当時ライブドアの代表取締役社長だった堀江貴文氏をはじめ、経営陣3名が証券取引法違反(偽計、風説の流布)の容疑で逮捕された。投資事業組合を通じて実質的にはすでに買収していた企業の株式を、ライブドアマーケティングに取得させ、そのタイミングでグループに入ったかのように見せたことが問題視された。
その後、有価証券報告書虚偽記載容疑でも逮捕。ライブドアが実際には3億1300万円の経常赤字であったにもかかわらず、業務の発注を装い架空の売上を計上し、投資事業組合がライブドア株式の売却で得た利益を投資利益として計上、53億4700万円の利益を計上し、50億3400万円の経常黒字に転じたというのだ。
堀江氏は、「会計基準上、誤った取り扱いとの認識はなかった」などと無罪を主張。最高裁にまで上告したが、2011年4月に懲役2年6カ月の実刑が確定した。
損失額を隠蔽する従来のスキームではない粉飾事件がゆえ、法の穴を突くベンチャー企業が増えてきたことに対する”見せしめ”や、世論にも大きな影響を与えはじめた堀江氏をおとしめるための国策捜査ではないかという声もあがった。いずれにせよ当時は沖縄で同社元役員の野口英昭氏が怪死するなど、ライブドアに対するネガティブ圧力は強かった。出る杭は打たれるの言葉どおりの過ちといえる。
オリンパス(2011年7月)
2011年7月、月刊誌FACTAのスクープによってオリンパスの不正会計が明らかにされる。主導していたのは、菊川剛会長、森久志副社長、山田秀雄元監査役(いずれも当時)。バブル期の財テクで抱えた巨額損失を、実際の企業価値とかけ離れた高額なM&Aを繰り返して、投資失敗による特別損失として計上。減損処理して損失の本当の原因を闇に葬り去っていた。
しかし、犯人は上記の3人だけではない。バブル期から歴代の会社首脳は損失を知りつつ目をつぶっていたのだ。2000年ごろに会計ルールが変わり、どうしても公表をしなくてはいけない状況に追い込まれ、当時の財務担当役員だった菊川氏が、証券会社が顧客の損失を隠すために使う「飛ばし」というスキームを持ち込んで続けていた。
この不正の申し送りを断ち切ったのは、2011年4月に社長に就任したイギリス人、マイケル・ウッドフォード氏。FACTAの報道を受け独自に調査し、不正を把握。菊川会長らに引責辞任を迫った。結局、返り討ちにあって解任されたウッドフォード氏は真相を公表。同社は同年11月に不正を認め、菊川氏らは逮捕、有罪となった。
あるとき、ウッドフォード氏が森副社長に「何のために働いているのか」と問うたところ、「会長のため」と言い放ったという。「会社のため」と手を染めた不正も気がつけば「保身のため」へすり替わっていく――。これが社会とのつながりを見失ったムラ企業の末路だ。
東芝(2016年1月)
「利益を出し続けることこそが経営者」という間違った考えにとらわれてしまったのが、トップが3代にわたって不正会計を指示していた東芝だ。
2008年のリーマンショックで業績が悪化し、3435億円という過去最高の赤字を抱えたとき、当時の社長だった西田厚聰氏が出身元であるパソコン事業に圧力をかけて、50億円の利益のかさ上げをさせた。決算直前に製造を委託していた企業に高値で部品を買ってもらい、一時的に利益を確保。決算後、完成品を買い戻すという、「押しこみ」や「借金」と呼ばれるスキームをつかったのだ。
このような利益のかさ上げは09年に社長となった佐々木則夫氏、後任の田中久雄氏にも申し送りされ、7年間で1500億円にも及ぶ”粉飾”が行なわれた。この間違いをなぜ誰も止められなかったのか。
東芝は独立採算のカンパニー制度を導入しているため、各部門トップや子会社は不正の全体像を把握できない。むしろ、「利益を死守しろ」と叱責されると、とにかく黙って下を向くしかなく、かさ上げに走ってしまうという異常な空気が蔓延していた。
ブレーキ役であるはずの監査委員会には、社外取締役が3人いたが、会計の専門知識に乏しく異変に気づくことすらなかった。「外部とつながりのない組織」は必ず暴走するということを証明したケースといえよう。
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