2016年11月、総合人材サービスのパソナとシェアリングエコノミー協会が「地方創生実現に向けた包括的連携協定」を締結した。ローカル・アベノミクスと謳われた政府主導の地方創生は、一部を除き思うような成果を挙げられていないが、今回の民間の企業・団体の提携によって行われる地方創生は、どんな可能性を秘めているだろうか。
地方に眠る遊休資産をシェアエコで活用
安倍政権による地方創生政策は2014年にスタートし、各地で地域復興事業が行われているが、国の交付金に頼る地方自治体も少なくない。平成28年度は1000億円(事業ベース2000億円)の地方創生推進交付金が組まれ、予算獲得を目的とした計画を提出する地方自治体、そして、それらを採択する国という、一見、合理的にも思えるが、画一的な取り組みが広がっている。
中にはベストプラクティスと言える例もあるものの、1980年代のふるさと創生事業といった過去のバラマキと何ら変わりないという意見も聞こえてくる。2016年に入ってからは、「一億総活躍社会の実現」という政策に社会保障の要素を吸収され、政府主導の地方創生は収束に向かうように見えた。
そんななか、民間の人材サービス会社である株式会社パソナが、一般社団法人シェアリングエコノミー協会(以下、協会)との「地方創生実現に向けた包括的連携協定」の締結を発表した。
シェアリングエコノミー協会代表理事・上田祐司氏(左)、パソナ代表取締役社長COO・佐藤司氏(中)、同協会代表理事・重松大輔氏(右)
パソナ担当者は、力強く話す。
「協会とともに、シェアリングエコノミー(以下、シェアエコ)で地方に眠る遊休資産(空間、乗り物、モノ、人のスキル等)を生かした観光産業の振興を図り、地域課題を解決しながら、新たな雇用と経済効果を創出、町を活性化させる取り組みを行っていきます」
行政に頼らない!地域の課題はコミュニティで解決
現在、日本が抱える課題の一つに、地方の人口減少が挙げられる。これは生産年齢人口減、それに伴う税収減も意味しており、深刻化すると子育てから介護まで各種行政サービスの質の低下、最悪のケースでは財政破綻も免れない。
そのような事態を避けるためにも、自治体による一元的な取り組みではなく、住民や事業者とともに”協働”で地域を活性化させる仕組みへとシフトさせる必要がある。なおかつ、ムダな投資はしない、”ワイズスペンディング(賢い支出)”な取り組みがベストで、まさにそのモデルとなるのがシェアエコなのだ。
シェアエコとは、新たな投資や大きな財政力を必要としない、C to Cによる遊休資産の貸出仲介サービスのことで、最近では、空き部屋等の賃借マッチングサイト「Airbnb」や、配車サービス「Uber」などが一般的に知られている。市場規模も拡大しており、2015年度は前年度比22.4%増の285億円(サービス提供事業者の売上高ベース ※矢野経済研究所調べ)。
地方創生に生かせるポテンシャルを秘めていることから、政府側も推進への機運が高まっている。一方で、日本におけるシェアエコの認知度、利用意向、利用率は総じて低く、サービスに対して不明、不審、不安といった印象を抱いている人も少なくないのが現状だ。
シェアエコは一般消費者間の取引が基本となるので、事故やトラブルの抑止力となる仕組み作りが不可欠。ITを活用した監視システムや、SNSによるレイティング(評価システム)の導入、弁護士等の活用による法令違反とならない根拠の明確化など、安全性や信頼性を確保するためのルールやガイドライン作りが進められている。2016年には、官民による「シェアリングエコノミー検討会議」の中で議論され、11月4日の中間報告「シェアリングエコノミー推進プログラム」によって、国内での普及に向けての指針が示された。
パソナと協会との連携体制は、このような官民あげてシェアリングエコノミーを推進していこうという機運を、さらに後押しする取り組みとなる。
パソナはこれまで、地方の雇用事業や産業振興事業を通して、約330もの自治体とかかわってきた。特に、地方活性化において重要な位置づけとされている「観光立国推進」に力を入れていて、観光地域づくりのプロデュースや広報活動、SNS等を活用したデジタルマーケティング、地域観光を担う人材の確保と育成などに長けている。
一方協会は、シェアエコに関する幅広いノウハウを持ち、シェアエコ事業及びシェア事業に取り組む130超もの会員企業との連携体制を構築している。
そんな両者が、「地方創生」という共通した志の下、シェアエコの活用を推進するのだから、普及に拍車がかかるのは言うまでもない。今後は、共同で遊休資産の発掘を行っていくほか、資産の持ち手と、それを使って起業したい担い手とのマッチングも視野に入れているという。
日常の中にあるすべてが資産に
シェアエコの領域となるのは、「空間」「モノ」「移動」「スキル」「お金(ファンディング)」が主で、地方創生の初期段階においては、”観光コンテンツ”にくくられるものが有効とされている。
その材料となる遊休資産に該当するものは、実はどこにでもある。美しい自然、原風景、城や古民家といった歴史的建造物はもちろん、そこで暮らす人々の営みも対象だ。それらは、これまでのような政府主導の大きな視点や方法では、価値を見出すのが難しいものだった。
しかし、パソナと協会の自由な発想とアイデアの下では、利用すべき資産となる。改めてその価値を再認識し、シェアエコとして活用することによって、世界中の人々を魅了する、思いもよらないキラーコンテンツが生まれるという。
例えば、協会に所属する(株)ガイアックスが提供する、観光体験検索サイト「TABICA(たびか)」では、”八百屋の店番”という商品が外国人観光客にウケた。また、うなぎ屋の開店前の時間を利用した、”かば焼き体験”も好評だったという。
協会の担当者は言う。
「ゴミを拾う、漬物をつける、魚をおろす……見慣れた日常の風景の中にこそ、シェアエコの種は隠れています。シェアエコによって生まれた人の流れは、町や住む人にエネルギーを与え、経済効果が循環するきっかけとなるんです。また、自分たちの生活や保有する技術が”資産”と認識されることは、地域の人々の誇りを取り戻すことにもつながるはずです」
さらに、パソナ担当者が続く。
「そのような、地域の人たちのスキルや知識を使った”新しい働き方”も創出していきたいと考えています。それは、町全体の稼ぐ力になっていき、自立性も高めていくのではないでしょうか」
肝心なのはベストプラクティスの蓄積と全国への普及
協会では、複数のシェアリングサービスの活用を推進する地域を「シェアリングシティ」と名付け、これまでに秋田県湯沢市、千葉県千葉市、静岡県浜松市、佐賀県多久市、長崎県島原市などが認定されている。2017年までに20自治体の認定を目指していて、協会は情報提供やマッチングをサポートする役割を担いながら、これらの取り組みの中でベストプラクティスを蓄積していく。
左から、シェアリングエコノミー協会代表理事・上田祐司氏(ガイアックス)、内閣官房IT総合戦略室松田昇剛企画官、島原市古川隆三郎市長、多久市横尾俊彦市長、浜松市鈴木康友市長、千葉市熊谷俊人市長、湯沢市藤井延之副市長、協会代表理事・重松大輔氏(スペースマーケット)
パソナによると、観光立国推進に興味を持つ自治体は年々増えていて、地方創生の”熱”はまだ地方に眠っている状態だという。ただ、日本全体が活気づくためには、パソナや協会などの先導者だけでなく、担い手となる自治体や地域住民の積極的な参加が欠かせない。それにはまず、チャレンジ精神をもってシェアエコの扉をたたくこと。すべては、その一歩から始まると言っても過言ではない。