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世界を読むチカラ~佐藤優が海外情勢を解説

実は”大成功”だった日ロ首脳会談

2017.01.10

政治

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2016年12月に行われた、訪日としては11年ぶりとなる日ロ首脳会談に対するマスコミの評価は厳しい。しかし、佐藤優氏は「大成功」だという。北方領土交渉を含む対ロシア外交に深く関与した経験からそうとらえられるようだが、実質的にどんな”成果”があったのだろうか。

外交における成否の判断とは

2016年12月15日に山口県長門市、翌16日には東京で行われた安倍晋三首相とロシアのウラジミール・プーチン大統領の首脳会談について、マスコミの評価は厳しく、「北方領土問題で前進がなかった」「3000億円の経済協力だけ約束して、ロシアに食い逃げされる」というような論調が目立った。

しかし、このような評価は印象論に過ぎない。ロシアはODA(政府開発援助)の対象国ではない。3000億円はあくまでも民間プロジェクトであって、日本政府の判断で無償協力、有償協力、技術支援などはできない。日本企業が利益を期待できないと判断すれば手を引くし、”食い逃げ”の可能性はありえない。

かつて北方領土交渉を含む対ロシア外交に深く関与した経験がある筆者から見れば、今回の日ロ首脳会談は大成功だ。外交における成功や失敗は、当初に設定していた目標をどの程度達成したかによって評価される。日本政府は今回の首脳会談で形式だけでなく、実質的に領土問題や経済協力を含む重要事項について、交渉できる環境を整えることが目標だった。この目標は十分に達成された。

プーチンの発言に北方領土解決の糸口が

首脳会談で安倍首相は、北方領土の元島民からの手紙をプーチン大統領に渡した。その中には、ロシア語で書かれた手紙があった。

元島民という北方領土問題の当事者からの率直な思いにプーチン大統領は反応し、16日の共同記者会見で、「昨日(15日)、安倍首相と話をして、南クリル諸島(北方領土)の元住民の心に残る手紙を読んだ。私たちはあの島の”歴史的ピンポン”に終止符を打った方がいいと思う」と述べた。これは、プーチン大統領の北方領土問題解決に向けた重要な意思表明だ。

それも決して空手形ではない。プーチン大統領の発言を注意深く読めば、北方領土問題解決に向けた道筋が見える。

共同記者会見で、プーチン大統領は、「(安倍)首相の提案を実現していけば、この島は日ロ間の争いの種ではなく、日本とロシアをつなぐ存在になり得る可能性がある。(中略)首相の提案とは、島での経済活動のための特別な組織を作り上げ、合意を締結し、協力のメカニズムを作り、それをベースにして平和条約問題を解決する条件を作り上げていく。われわれは、経済関係の確立にしか興味がなく、平和条約は二次的なものと考えている人がいれば、それは違うと断言したい。私の意見では、平和条約の締結が一番大事だ」と述べた。

これは、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島で日ロ双方の法的立場を毀損しない形態で経済協力を行うことで信頼関係を強化し、1956年の日ソ共同宣言で合意された平和条約締結後の歯舞群島、色丹島の日本への引き渡しの環境整備をしていくという考えだ。歴史と日本の国民感情に配慮するプーチン大統領の姿勢がにじみ出ている。

安倍首相もロシアに対して譲歩している。具体的には、「四島の帰属に関する問題を解決して平和条約を解決する」という1993年10月の東京宣言の内容を一度も述べなかったことだ。これは、四島の帰属問題に焦点をあてた「東京宣言至上主義」から、日本政府が離脱したことを示す重要なシグナルだ。

 

領土問題解決は結果 ”入口論”から”出口論”への転換

日ロ両国は、領土問題をまず解決するという”入口論”から、包括的かつ戦略的な関係を発展させて、その結果として近未来に領土問題の妥協的解決を実現するという”出口論”に交渉方針を転換したのである。その結果、北方領土問題が現実的に動き出す可能性が出てきた。

さらに両首脳は、北方領土への自由訪問の一層の簡素化について合意した。現在、北方四島への元島民らのビザなし訪問は船で行われている。北方領土周辺海域は、海が荒れやすい。従って、ビザなし訪問は、5月から10月前半に限定して行われている。また、船から上陸用のバージに乗り移るときには、かなりの運動能力が必要となるため、高齢者の渡航が難しい。

しかし、国後島と択捉島には空港があり、色丹島にはヘリパッドがある。これらの施設を用いて”空の自由訪問”を行えば、北方領土へ通年の渡航が可能になるのだ。かつて鈴木宗男氏が自民党総務局長を務めていたときに、一度だけ中標津空港から国後島へサハリン航空のチャーター機を用いてビザなし訪問を行ったことがある。このときのノウハウをそのまま用いれば、実現は難しくない。

さらに、訪問団に経済専門家を加え、北方領土の共同経済活動に関する具体的な調査を行えば、ロシア側は「日本は首脳会談の合意を迅速に実現している」と肯定的に評価し、今後の北方領土交渉に向けた環境整備に貢献するだろう。

日本はケンカが弱いという印象

専門家の見方はこうなるのか、というのが僕の感想。今回の日ロ首脳会談は、日本側に思ったほどの成果がなかったとみているからだ。確かに、無駄な会談などないだろうが、やはり日本政府にはいくつかの誤算があったのだと思う。というよりも、淡い期待が崩されたと言うべきか。

ロシアにとって、北方領土問題の日本側への譲歩は、相当な見返りがなければ得策ではないのだから、簡単には進展しないだろうと思っていたし、そのように僕は言い続けてきた。親ロシアのトランプ氏が大統領になったことや、原油価格の上昇でロシア経済がひと息つけることなど、とりまく環境がロシアにとって有利に働いてきているのでなおさらだ。

ちゃぶ台返しなど当たり前のロシアを相手に、期待感をあおったマスメディアの罪も重い。外交は高度なケンカだと、ある政府の高官が言っていたが、情報戦も含めて、まだまだ日本はケンカが弱いという印象は否めなかった。

作家

佐藤 優さとう まさる

作家・元外務省主任分析官。1960年生まれ。同志社大学神学部、同大学院修了後、85年外務省入省。モスクワの日本大使館、外務本省国際情報局に勤務したが2002年に逮捕。09年6月有罪が確定し、失職。その後、作家として活躍する。

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