オラオラ・ギラギラ…きっと現代ではモテない“男”たちが格好良い【映画『孤狼の血』】

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オラオラ・ギラギラ…きっと現代ではモテない“男”たちが格好良い【映画『孤狼の血』】

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草食系、美男子、ジェンダーレス――。男性を表現する言葉がすっかりまろやかになった今、こういう“男”たちは世の中にどのようにとらえられるのだろうか。

 

“東映実録シリーズ”復活の狼煙(のろし)を上げる、血沸き肉躍る日本映画が誕生した。暴力団対策法成立直前の架空の都市・広島県呉原を舞台に、刑事、ヤクザ、そして女が、それぞれの正義と矜持を信じ戦う生きざまを描いた『孤狼の血』

 

現在の地上波では到底、放送不可能な暴力描写とエロス、数分に一度は飛び交う怒号と銃声。観る者は息つく時間を忘れ、目の前で繰り広げられる欲望にあぶられ、心がやけどすることだろう。

『孤狼の血』

劇場公開:5月12日(土)/配給:東映 ※R15+指定作品
出演:役所広司 松坂桃李 真木よう子 /中村獅童 竹野内豊/ピエール瀧 石橋蓮司 ・ 江口洋介
原作:柚月裕子(「孤狼の血」角川文庫刊)
監督:白石和彌

暴対法成立以前の昭和63年、広島の架空都市・呉原。刑事2課の新人・日岡(松坂)は、ヤクザとの癒着が噂される刑事・大上(役所)の下、暴力団系列の金融会社社員失踪事件の捜査に参加。違法捜査も辞さない大上に戸惑いながらも、日岡は経験を積んでいく。やがて失踪事件を機に暴力団同士の抗争がぼっ発し、大上は大胆かつ強引な秘策に打って出る!

ギラついていた“あのころ”の役所広司がいい

宝くじ売り場に現われたコミカルなタイムスリップ侍やランニングシューズ作りに励む熱血経営者もいいが、こんなギラギラした役所広司もまたいい。

1983年の大河ドラマ「徳川家康」の織田信長役で注目を集め、翌年には、新大型時代劇「宮本武蔵」(ともにNHK)の主人公・武蔵役で初めて主演に抜擢。

しかし、その後は出演した映画やドラマの評価は高いものの、なかなかヒット作には恵まれなかった役所が、90年代に出演していたヤクザ映画……とりわけ『シャブ極道』(1996年)というタイトルからして何とも物騒な作品(ソフト化にあたり物言いがついたほど!)でギラついていたあのころを彷彿とさせる、激熱なハードボイルドエンターテインメント映画が完成した。

原作は“警察小説×『仁義なき戦い』”と評され、第69回日本推理作家協会賞を受賞した柚月裕子の『孤狼の血』。昭和の広島を舞台に、捜査のためなら違法行為も厭わない孤高のマル暴刑事・大上章吾と、新米刑事・日岡秀一が、とある失踪事件を機に、暴力団同士の抗争に挑む姿を描いた骨物な話題作を実写映画化。予告編では、大上を演じる役所をはじめとする血気盛んな男たちが吠えに吼えまくる!

『孤狼の血』(角川文庫)

過剰なコンプライアンスに抗う東映の気概

映画『孤狼の血』予告編

紫煙をくゆらせながら、廃れた養豚場の前を闊歩するグラサン姿の大上。日岡(松坂桃李)を前に「極道を法律で抑えつけたところでなんも変わりゃせんわい。奴らを生かさず、殺さず、飼い殺しにしとくんが、わしらの仕事じゃろが」と叫ぶ大上の荒々しい声が豚舎中に響き渡る。

すかさず挿入される「『アウトレイジ』に対する東映の答えですね。」という“古舘(伊知郎)節”が冴え渡る秀逸なコメント。岸壁にドドーンと波しぶき。現われる「東映」のロゴマーク。ここまで、わずか15秒。すでに腹いっぱいだ。

ちなみに、東映おなじみのオープニングは、千葉県銚子市にある犬吠埼(いぬぼうさき)で撮影されたもので、名称は「荒磯に波」という。1955年に公開された『血槍富士(ちやりふじ)』で初登場以降、何度か撮り直され、現在は2014年に撮影された5代目となる。

波しぶきが打ちつける3つの岩は、東映の前身である東京映画配給、太泉映画、東横映画の3社の統合と結束をイメージし、押し寄せる文化の波にも負けずに三位一体で立ち向かう姿勢を表現したものと言われているが、まさに。

今は亡き深作欣二が生み出した『仁義なき戦い』(1973年)の大ヒットを機に、70年代に一世を風靡した“東映実録シリーズ”。予告編はコンプライアンスうんぬんと、“押し寄せる波”に何かと及び腰になる昨今、その熱き精神を自らの手で現代に蘇らさんとする東映の気概をそこかしこに感じる。

続いて予告編では、署内での暴力を制止する日岡に「何、眠たいことぬかしとんじゃ!」とキレる大上が映し出される。息つく間もなくカットバックされるドスの効いた怒号と響き渡る銃声、血で血を洗う男たちの魂のブツかり合い!

「あんた、狂うちょる……」と、大上が壊滅を目論む加古村組の構成員が震え上がれば、「おう、狂うちょる。警察じゃけえ、何をしてもええんじゃ」と開き直る大上の目は、獲物を追う、ただの狂犬でしかない。

日岡をはじめ警察署内には大上のやり方に否定的な面々も。そんな同僚にも構わず怒鳴る、怒鳴る。

強くて熱い、かつての東映を取り戻す

喰うか喰われるか。抗い、叫び、生き残りを懸ける男たちの生きざまを“昭和感”漂う渇いたタッチで活写したのは、映画『凶悪』(2013年)や『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)など、人間を鋭く生々しく描写し、世界的に定評のある白石和彌監督。

本作の完成を前に、ロケ地として使用された広島県呉市で行われた記者会見では、監督もまた「東映のプロデューサーの方から、深作欣二監督らが作っていたエネルギーのある映画の勢いや力強さを、今の東映に取り戻したいとお話をいただきまして。そんな監督冥利に尽きる言葉はないと。皆さんの熱量に僕がまず感染して始まった企画です!」と叫ぶ。

「久々に“暴れる役所広司”を、彼の次世代である桃李君と併せて撮れたことは何よりの幸せでした」と白石監督。

これに役所も「近年の日本映画は元気が無いから、元気な映画を作りたいと言われ、脚本を読むとそのエネルギーを感じました。(過激なシーンも多々あり)テレビでは問題になるんでしょうけど、監督は絶対にやめようとはしない。男らしい映画ができたと思っています!」と、高らかに吠えた。

実は原作者の柚月も“東映実録シリーズ”の大ファンで、本作の製作発表の席では「何度も繰り返し観た不朽の名作『仁義なき戦い』があったからこそ生まれた作品です。あんなに熱い物語を、いつか自分も小説で書きたいと、ずっと思っていました」と、『孤狼の血』の誕生秘話を披露。3枚岩どころか4枚、5枚……幾枚もの情熱と団結が映画を完成に導いたことがうかがい知れる。

ベテラン極道たちの中で若手俳優の好演が光る

共演する俳優陣も素晴らしい。予告編の冒頭で大上に恫喝され、ビビりまくる一流大学出の新人・日岡役の松坂。「極道は顔でメシ食うとるんで」と頑強な態度を崩さない尾谷組の若頭・一之瀬守孝をクールに演じる江口洋介、「どっちかが壊れるまで戦争しちゃろうじゃないの」と、ふてぶてしく宣言する五十子会会長・五十子正平を怪演する石橋蓮司。

股間の“ごっつい真珠”が自慢のヤクザ・吉田(音尾琢真)は、いずれ大上の狂気の餌食に。

ほかにも滝藤賢一、音尾琢真、駿河太郎、中村倫也、中村獅童、矢島健一、田口トモロヲ、ピエール瀧、竹野内豊……ほぼほぼノーメイク(たぶん)、脂ぎった男たちの、歴史を刻んだシワの奥まで映し出し、汗の匂いが充満する本作なだけに、真木よう子、阿部純子の妖艶さも際立つ。

味の濃い男たちの中でも存在感を発揮する女たち。艶っぽい美人ママ・里佳子(真木)とは異なるベクトルで、妙なエロさを醸す薬剤師・桃子(阿部)。

若手の好演も光る。手段を選ばぬ大上の捜査に、当初は疑問を抱くが、上司と部下という関係から徐々にバディとなり、時に師や父のような関係性へと変わっていく姿を丁寧な芝居で積み上げていった松坂。

狂気のチンピラ役が、ことのほか似合った(失礼!)中村。背脂こってりな俳優陣が演じる強烈なキャラクターが火花を散らすなか、それに負けじと奮闘する若手俳優たちは作品に躍動感をもたらしている。

ドラマなどでクセのある役を演じることも多い中村は、本作でも振り切ったチンピラ役を披露。めちゃくちゃ格好良い。

「じゃあ聞くがの、正義とはなんじゃ?」

主役の役所は、言わずもがなだ。大上と女たちとの関係、愛用するライター。皆が呼ぶあだ名「ガミさん」とは? タイトル“孤狼の血”の意味とは……? バイオレンスな世界観の要所要所で、役所が繊細な芝居を入れ込んだからこそ訪れるカタルシスに、涙せずにはいられない。

勤めていた千代田区役所を辞め、俳優養成所「無名塾」に。1978年『オイディプス王』で初舞台を踏んでから40年。1988年に『アナザーウェイ・D機関情報』で映画初主演を飾って30年――。ここ数年の姿からは想像できない役所広司が見られる、ある種の区切りでもあり、集大成ともなる本作。

予告編の最後に、大上が日岡に問いかける「じゃあ聞くがの、正義とはなんじゃ?」の意味、激化する抗争の行方、そして観る者の想像を超える驚がくのラストは、ご自分の目で確かめていだだきたい。

映画『孤狼の血』 は5月12日(土)より公開。