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再任の黒田総裁、最大のミッション 日本経済のリスクと出口への道

2018.05.08

経済

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写真/Getty Images

安倍内閣は日本銀行総裁に黒田東彦氏を再任。2期連続で務めるのは約60年ぶりのことだ。黒田総裁の1期目はデフレ脱却を目指し、アベノミクスの一環として異次元金融緩和を続けてきた。しかし、消費者物価指数は0.9%(3月、生鮮食品を除く総合)と目標の2%にはいまだ届かず、金融緩和をやめるにやめられない状況。新たな5年間で、出口に向かうことはできるのか?

「あらゆる政策を総動員してもらいたい」

4月9日、黒田東彦・日銀総裁の2期目(5年間)がスタートした。2013年4月、総裁に就任するとすぐ、2年間で消費者物価を2%に引き上げるとするバズーカ砲(異次元緩和)を発射し、大量の国債等を買い上げてきた黒田総裁。2期目の最大のミッションは、その出口戦略にほかならないが、消費者物価は目標の2%に届かないばかりか、米国トランプ政権による円高圧力もくすぶる。

また、マイナス金利政策や短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に誘導するイールドカーブ・コントロール(長短金利操作付き量的・質的金融緩和)に疲弊する金融界からは怨嗟の声があがる。長短金利の差で利鞘を稼ぐ金融機関にとって収益機会が失われるためだ。4月9日午後、辞令交付のため官邸に呼ばれた黒田総裁は、安倍晋三首相から「物価安定目標に向けて、さらにあらゆる政策を総動員してもらいたい」と語りかけられた。黒田総裁は「(政府と日銀の)共同声明を堅持し、2%の物価安定目標に向けて最大限努力する」と返した。

物価指数目標の達成時期はもはや日銀にもわからない

黒田総裁が言及した共同声明は、2013年1月に政府と日銀が結んだ政策協調で、政府と日銀が一体となって「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現」に取り組むことが明記されている。その中核として打ち出されたのが「3本の矢」と呼ばれる「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の施策だ。

しかし、日銀の最大限の尽力に対して、政府の取り組みは思うように進んでいない。2014年4月に消費税を8%へ引き上げたことにより、日銀の異次元金融緩和効果が減殺されたばかりでなく、規制改革などの構造的な問題は、数々の壁に阻まれ想定されたほどには進んでいない。

結果として異次元金融緩和だけが突出した形となったことで、日銀は副作用が懸念される状況に立たされている。日銀の国債保有残高は黒田総裁就任直前の13年3月の125兆円から、今年3月には416兆円を超え、日本国債全体の約4割を占める異常事態だ。

2期目の記者会見で黒田総裁は、金融緩和を縮小する出口戦略について「物価目標の実現にはなお距離があり、検討する局面にはない」と述べたが、4月27日の金融政策決定会合で、ついに「19年度ごろ」としていた2%の物価目標の達成時期に関する文言を削除した。

異次元緩和の導入以降、6度にわたり物価目標2%の達成時期を先延ばした日銀にとって、これ以上の延期は無理と判断したためだが、かといって物価目標の旗そのものを下ろせば、市場は緩和の終結を読み取り、円高・株安を招きかねない。2%の物価目標は維持するものの、達成時期は“玉虫色”にする苦肉の策といっていい。

出口戦略に向かうための布陣

実は、すでに日銀は事実上の出口戦略に手を染めている。「ステルス・テーパリング」呼ばれる国債の購入額減少はその一端であろう。日銀は14年に年間80兆円の国債を買い入れる緩和拡大に踏み込んだが、足元の買い入れペースは40兆円台にまで減額されている。明確な説明がないまま減額(テーパリング)されているため“ステルス”というわけだ。

その黒田総裁の出口戦略を支える日銀プロパーの注目人事が発出された。3月20日に中曽宏副総裁の後任に雨宮正佳理事(63)が就任したのに続き、4月2日に内田真一名古屋支店長(55)が理事に昇格した。

雨宮、内田の両氏はそれぞれ企画担当理事、企画局長として異次元緩和やその強化にかかわった政策参謀。「黒田総裁の2期目を支える布陣として雨宮氏を副総裁に引き上げ、内田氏を理事として名古屋支店長から呼び戻した。雨宮、内田の両氏は将来の総裁候補」(日銀関係者)と目されている。

最大の懸念は金利上昇と国債価格の下落

日銀の出口戦略は危うさと表裏一体とならざるを得ない。白川方明前総裁は、かつて米ダートマス大学での講義で、「日本の主な問題はデフレではなく人口動態だ」とした上で、「日本のデフレは批判されるほど有害ではなく、日銀にデフレを解消する力はない」と指摘した。名指しこそしなかったが、明らかな黒田批判である。

また、早川英男前日銀理事は、「潜在成長率がゼロ近傍で推移するなか、物価だけが2%の目標値に近づけば、国債価格暴落の可能性が高まる」と警告している。

◇潜在成長率

景気循環の影響を除いた経済成長率。資本・労働・生産性の3要素から算出される。

出口戦略の過程で生じる金利上昇、国債価格の下落は最大の懸念材料だ。日銀自身も国債暴落に備えて2013年度の異次元緩和以降、日銀法で定められている法定準備金(最終利益の5%)の5倍もの準備金を積み立てている。それでも日銀が債務超過に陥りかねないとの懸念はくすぶり続けている。

年内にも1%超え?

異次元緩和の一環として年間6兆円規模で買い上げているETF(指数連動型上場株式投資信託)の暴落懸念も残る。日銀が保有するETFは、すでに簿価で19兆円を超えており、自己資本の8兆円に比べて過大だ。株価がひとたび大きく下落すれば、日銀は一気に赤字あるいは債務超過に陥るリスクがある。

このため日銀内部では、密かにETFを日銀のバランスシートから外す手立てが練られている。2002年に設立された「銀行等保有株式取得機構」をモデルに、ETFの受け皿機関に移す案が有力視されている。だが、体のいい“飛ばし”との批判は免れない。

◇銀行等保有株式取得機構

銀行等が保有する株式を買い上げる受皿機関。持合い株式解消売りに伴う株価下落を回避するために活用された。

日銀は2%の物価目標の達成時期を削除したが、有力日銀OBからは、「早ければ年内にもコアコアCPI(生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数)が1%に達する可能性があり、日銀が長期金利の引き上げに動く可能性がある」との指摘も出されている。

出口戦略は近づきつつあるようにみえる。そのとき、日本経済はどうなるのか。円高・株安が襲う懸念は尽きない。

経済ジャーナリスト

森岡英樹もりおか ひでき

1957年生まれ。早稲田大学卒業後、 経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・ アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト ・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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