個人が持つ固有の遺伝子型の情報を読み取ることで、将来かかりやすい病気や体質の遺伝的な特徴がわかる「遺伝子検査」。自分の遺伝的傾向に合わせた病気の予防法が見えてくるということで、近年の健康意識の高まりとともに注目が集まっている。DeNAライフサイエンスが提供する、神奈川県の「未病市場創出促進事業」や業界内の認定制度「CPIGI認定」にも採択された遺伝子検査「MYCODE(マイコード)」の担当者に、サービスの特徴を聞いた。
病気予防のニーズに応える遺伝子検査
健康リテラシーが高まり、今や、病気は”かかってから治す[Sickケア]”ではなく、”かかる前に予防する[Healthケア]”の考え方が主流になりつつある。一方で、巷には健康食品からダイエット情報、病気予防まで数多の健康情報があふれ、一体どれが正しい情報なのか、自分に必要な健康法はどれなのかを見極めることが非常に難しくなっている。
そんななかで、インターネットサービスを展開するDeNAは、「自社が持つITの技術やノウハウを生かして、人々にもっと役立つ健康情報をわかりやすく伝えられないか」と考えるようになった。そうして新たに立ち上げたのが、ヘルスケア事業を展開するDeNAライフサイエンスだ。
事業の主軸は、遺伝子検査サービスの「MYCODE(マイコード)」 。実は今、健康への高い関心を持つ人たちを中心に、遺伝子検査を受ける人が増えている。
自分の病気や体質の遺伝的傾向がわかるから予防に役立てられる
そもそも遺伝子とは何か。細胞の中には核と呼ばれる場所があり、ここにDNAがある。DNAは遺伝情報を記録している物質で、私たちの細胞、器官、臓器はすべてDNAの遺伝情報どおりに作られている。DNAの中でも、タンパク質の作り方を決定しているのが遺伝子だ。
私たちは一人ひとり異なるタンパク質のレシピを持っていて、これを調べるのが遺伝子検査というわけだ。「MYCODE」の担当者は言う。
「代謝にかかわる酵素やホルモン、ウイルスと戦う抗体などは、いずれもタンパク質でできています。私たちが持つDNAは誰でもほぼ共通していますが、わずかに0.1%程度の違いがあります。
このDNAの微小な違いにより、生命活動を支え、さまざまな機能を担うタンパク質の働きが異なってくること、さらには、病気のかかりやすさや、お酒に対する強さ・弱さなどの一人ひとり異なる個性が生まれることがわかってきています。これを調べるのが遺伝子検査です。
遺伝子検査を利用することで、より効率的に予防法を選ぶことができます。例えば、がんはその種類によって有効な予防法が違ってきますが、遺伝的にかかりやすいがんを知ることで、取るべき対策が見えてきます」
自分の遺伝的特徴を知ることで、発症リスクの高い病気から優先的に予防したり、遺伝的な体質傾向を知って重点的に検査したりといった選択と集中が可能になるのだ。
簡単な検査で最大280項目の詳細レポート
とはいえ、いざ遺伝子検査となると「検査が大変そう、痛そう」と尻込みする人もいるかもしれない。しかし、「MYCODE」の検査方法は簡単で、自宅に届く検査キットを使って自分で唾液を採取するだけなので痛くもない。
それをポストに投函すれば、通常3~4週間ほどで結果がわかる。自宅に居ながらにして、がんや生活習慣病などをはじめ最大280項目の検査ができてしまうのだ。
レポートには解析したDNA型の情報、病気のリスク、病気の初期症状、病気や体質の詳細などが示される。わかりやすい図と文章で説明されているので、遺伝子の知識が無くても問題ない。医師や管理栄養士監修の生活改善のためのアドバイスも具体的だ。
「病気にもよりますが、一般に病気の発症には遺伝要因が30%、生活習慣などの環境要因が70%といわれています。生活改善が何より大事なので、誰もが理解できて実生活で役立つレポートを心がけています」
疾患別の遺伝要因と環境要因の割合出典1:N Engl J Med. 2000 Jul 13;343(2):78-85./出典2:2.Diabetologia. 1999 Feb;42(2):139-45.
検査データはウェブ上に保存され、パソコンやモバイルでいつでも確認できる。もちろんデータは厳重な管理体制に置かれ情報セキュリティーも徹底。また、電話やウェブを通じて疑問や不安を相談できるカスタマーセンターがあり、専門的な内容には医師や「認定遺伝カウンセラー」と呼ばれる遺伝の専門家が回答してくれる。
高精度の解析技術と科学的根拠に基づく確かなロジック
検査の受けやすさやレポートのわかりやすさに加えて、遺伝子検査でもうひとつ肝心なのは、検査の精度だ。
「遺伝子検査の精度は、遺伝子解析の技術的な精度と、それを読み解くロジックの精度で決まります。『MYCODE』の遺伝子検査は、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターとの共同研究で行っています」
同センターといえば、ゲノムワイド関連解析(GWAS)という遺伝子の解析手法により心筋梗塞と関連のある遺伝子を発見し、世界で初めて報告した遺伝学の世界的権威だ。
「MYCODE」では、約75万もの「SNP」と呼ばれる個人間のDNAの違いを解析し、同センターと構築したロジックに基づいた詳細なレポートを一般消費者向けに提供する。
ロジックについては、国際的に認められた遺伝子解析の論文の中でも、統計的な確からしさ(統計的優位性)の基準を満たしているか、また、日本人向け・アジア人向けのエビデンスがあるか、という観点で精査をして作成している。欧米人を対象にした研究だと、日本人に当てはまらないケースもあるからだ。
最新のエビデンスが発表されれば、随時ウェブ上でレポートが更新され、会員にメール等で報せが届く。また、第三者機関の審査による遺伝子検査サービスの認定制度「CPIGI認定」も2016年5月に取得した。
これからのHealthケアは警戒すべき相手を絞り対策を練る
「MYCODE」はサービス開始から3年弱。利用者は順調に増え、40代を中心に20代~60代まで幅広い年齢層に利用されている。
「将来のがんや認知症が心配な方、健康意識が高く、効率よく病気予防をしたい方が多く利用されます。
自分が食道がんのリスクが高いことを知り、病院で検査を受けて早期の食道がんを発見され、無事に治療できた方もいました。あるいは、自分の遺伝子を調べることで、子どもや兄弟など血縁者の病気リスクにも気をつけようと思われる方もいます」
遺伝子は生涯変わらないと言われている。それゆえ遺伝子検査で病気のリスクを知るのが怖いという人もいるかもしれない。しかし、やみくもに病気を恐れて、的外れな対策をしたり、漫然と遠まわりな対策をしているよりも、警戒すべき相手を絞ったうえで対策を練るほうが得策ではないか。
病気を予見し、リスクを回避する手段として、遺伝子検査は間違いなく次のHealthケアのトレンドになるだろう。