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北朝鮮 vs アメリカ 核戦争チキンレース 強硬姿勢の裏を読む

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緊迫する朝鮮半島情勢。たびたび核実験やミサイル発射実験を行い、来るXデーに向けて準備を整えているかのような北朝鮮。一方、有事に備えて朝鮮半島に空母を差し向けるアメリカ。すべては核兵器をめぐる駆け引きだ。なぜ、北朝鮮はここまで頑なに核兵器を持とうとするのか、異常なまでに強硬な姿勢の裏を読む。

虚勢を張る気はないのだけれど…

北朝鮮の韓成烈(ハン・ソンリョル)外務次官は今年4月17日、海外メディアのインタビューで「米国が選択すれば戦争に乗り出す」「米国の無謀な軍事作戦に先制打撃で対応する」「最高指導部が決心した時に核実験を行なう」(聯合ニュース)などと発言。

いかにも勇ましいコメントだが、行間をつぶさに見ると、米トランプ政権に対して、戦争回避のシグナルを送っているとも思える内容だ。

裏を返せば、アメリカが無謀な行動、つまり特殊部隊を使って北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)氏の暗殺を図るといった軍事作戦を行わなければ戦争に乗り出さないし、先制打撃、つまり弾道ミサイル攻撃での対応もしない、という意味を示唆していると思われる。

最後のコメントも、最高指導部=金正恩氏が”決心”したとき、とわざわざ念押しした点がミソで、これは、「まだ核実験を決心していない」=「核実験をこれ以上行なわない、という選択肢も用意している」というメッセージを包含する、とも読み取れる。

このコメントは、シリアのアサド政権(?)が反政府勢力に化学兵器で攻撃したことに対し、トランプ大統領が報復としてシリアの空軍基地を59発ものトマホーク巡航ミサイルで攻撃した4月7日より後のものだけに注目に値する。

トランプ大統領は就任以前から「アメリカ一国主義」を掲げ、自国とあまり関係のない国際問題には関与しない、と喧伝したのも束の間、これをいきなり覆し、”人道的立場”からシリアをミサイル攻撃した。

ソフト・タイプの前任者・オバマ前大統領とはまったく違う、まさに「世界の警察」の復権をにじませる行為。どう考えても北朝鮮を意識したもので、「軍事的オプションに躊躇しない」という強力なメッセージを北朝鮮に送った格好だ。これには金正恩氏も肝を潰したはず。

こうしたことから、前述のコメントには、「トランプさんよ、ちょっと待ってくれ、話し合おうじゃあないか」といった金正恩氏の焦りを反映したもの、とも深読みできそうだ。

北朝鮮

社会主義国の敗北が北朝鮮に恐怖を植えつけた

ではなぜ、北朝鮮は世界に批判を受けながらも強硬姿勢を貫くのだろうか。それは、冷戦終結=社会主義国敗北の歴史が、北朝鮮にある種の恐怖を植えつけたからだ。

1948年の建国以来、祖父・金日成(キム・イルソン)、父・金正日(キム・ジョンイル)、そして3代目の金正恩といった具合に、北朝鮮の最高権力は世襲されてきた。社会主義国をまとった、まさに”金王朝”そのものである。

しかし、王朝にとって衝撃的だったのが、1989年に訪れた東西冷戦の終結だった。「資本主義陣営 vs 社会主義陣営」という枠組みが消滅、その後、北朝鮮が組みしていた東側陣営の盟主・ソ連自体が崩壊、東欧の社会主義諸国も軒並み「共産党」の看板をかなぐり捨ててしまう。

特に衝撃的だったのが1989年に発生したルーマニアの民主化革命で、当時権勢を誇っていた最高権力者チャウシェスクは反旗を翻した国軍に拘束され公開処刑されてしまう。当時王朝の最高実力者・金正日氏にとってチャウシェスクは盟友であり、同じ独裁者の似た者同士だっただけに”明日は我が身”との思いが脳裏をかすめたはずだ。

冷戦終結後、しばらくすると、強力な庇護者だったはずのソ連と中国が、相次いで宿敵・韓国と国交を結ぶ有様。旧ソ連の事実上の後身であるロシアは、これまで北朝鮮と結んでいた軍事同盟すら破棄する状況だった。

加えて、これと並行する形で勃発した1991年の湾岸戦争も、王朝にとっては背筋が寒くなる思いだったに違いない。というのも、石油に、ものを言わせて最新兵器を大量に買い込み、総兵力100万人、中東屈指の軍事大国だったイラク・フセイン政権がアメリカを中心とした多国籍軍にあっけなく敗退したからだ。

その後、フセイン政権は、「核兵器開発の証拠がある」と米英から一方的な”言いがかり”をつけられ、2003年のイラク戦争で崩壊、フセイン大統領自体も処刑されてしまった。ちなみに、その後フセイン政権による核兵器開発の証拠は何も見つかっていない。

これらを考えれば、どれだけ通常兵器を持とうが、アメリカのハイテク兵器には適わないこと、また、フセイン政権が仮に核兵器を持っていれば、アメリカは手出しできず、政権は安泰だったことを、王朝は教訓として学び取ったのではないだろうか。

その証拠に、1990年代以降、北朝鮮はIAEA(国際原子力機関)からの脱退宣言(1994年)、テポドンICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験(1998年)、NPT(核不拡散条約)からの脱退宣言(2003年)、初の地化核実験(2006年)といった具合に、核兵器・弾道ミサイル開発に拍車をかけていくのである。

核兵器が無ければ勝てない北朝鮮

北朝鮮

核兵器が無ければ勝てない北朝鮮

経済が振るわず資金的にも窮している”金王朝”にとって、限られた国家資源を核開発に集中投下した方が通常戦力を強化するよりもはるかに費用対効果が高い、と結論づけたのもうなずけるだろう。

核兵器開発に関しては、弾道ミサイルに搭載するには小型化が必須だが、北朝鮮は小型化技術を十分に持ち、すでに10数発の小型核弾頭を保有するとの見方が一般的。

ちなみに北朝鮮は2006年~2016年までに計5回の地下核実験を行なっており、国連による制裁決議にひるむことなく、現在は6回目の実施をめぐり、米トランプ政権と核戦争をちらつかせたチキンレースを展開中だ。

一方、通常戦力についてはどうか。結論から言うと、米韓連合軍に敵わない。まず、北朝鮮の戦闘機・攻撃機数は800機以上と、数だけ見れば世界有数だが、一皮剥けば、大半が1950~60年代に活躍した旧ソ連・中国製の”博物館入り”レベルの代物で、稼働率も怪しい。

ステルス機や、機体の上に大きなお皿を載せる”空飛ぶレーダー”早期警戒管制機、加えて強力な妨害電波(ジャミング)を放つ電子戦機を抱えるアメリカ空軍にはまったく対抗できない。開戦と同時に制空権は米韓側が握るのが確実だ。

潜水艦を含む海上戦力も同様で、隻数だけは多いものの、こちらも旧式の小型艦艇が大半。その脅威を指摘する向きもあるが、なにぶん小型・旧式のため、「太鼓を鳴らしているようだ」と揶揄されるほどで、発見は容易だ。”無敵艦隊”を自負するアメリカ第7艦隊の敵ではない。

また、北朝鮮軍は兵力100万人超を誇るものの、前述のように相手に制空権・制海権を握られた状態で、補給路を潰されたまま果たしてまともな作戦ができるのか甚だ疑問だ。

もちろん、38度線(軍事境界線=MDL)に大砲やロケットをずらりと並べ、韓国の首都ソウルを正恩氏曰く”火の海”にする手もあるだろう。ただし、これは1回だけしか使えない戦法。米韓軍の報復の砲爆撃が100倍になって返ってくること必至で、こうなれば肝心の北朝鮮軍自体が瓦解しかねない。

ただし、兵力10万人以上を誇る世界最大の特殊部隊は、不気味な存在感を醸し出している。その能力は侮れず、1996年に韓国東海岸から潜水艦で上陸、山林でゲリラ戦を展開した「江陵侵攻事件」では、完全掃討するまで実に2カ月もかかっている。

これらが後方かく乱や奇襲作戦で米韓連合軍を悩ます可能性は高い。在日米軍の基地やあるいは日本の原子力発電所や新幹線などを襲撃することも考えられるが、いずれにしても核兵器以外は窮余の一策感は否めない。

北朝鮮

「なぜ我々だけが非難?」北朝鮮側のロジック

別に金正恩の肩を持つわけではないが、素朴に考えて仮想敵の相手と同等の兵力・兵器を持って競うのは世界の常識だ。

まさに軍事的均衡で、互いに抑止力がかかり、皮肉ではあるが、かえって平和が保たれる場合が多い。逆に彼我の戦力にかなりの差がある場合、優位に立つ側の為政者が軍事力行使の欲望に駆られて戦争突入、という事態に陥る危険性がある。

この典型例が、冷戦時代に米ソ間で取り決めたMAD(相互確証破壊)という概念。互いの核兵器とその運搬手段(弾道ミサイル、弾道ミサイル型原潜、長距離爆撃機)の数を決め、互いの戦力を確実に破壊できる分の核兵器を備えようという、まさに”悪魔の取り決め”だ。

一方、日米韓は北朝鮮の核開発を猛烈に非難するが、そもそも核兵器を”非人道的”として断罪し、保有を禁じる国際法など存在しない。

毒ガスや細菌兵器に関しては、1925年のジュネーブ議定書や第2次大戦後に発効した各種条約によって国際的に禁止されているが、核兵器に関しては、米英仏ロ中の国連安保理常任理事国5カ国による独占保有を定めたNPTが存在するだけ。しかも、常任理事国以外の国に核兵器は持たせない、という不平等条約で、核兵器をむしろ肯定している状態だ。

ただし、裏を返せばNPTに加盟しなければ保有は可能、ということで、現にイスラエル(保有する、しないを名言せず)やインド、パキスタンがNPT非加盟の核保有国であり、北朝鮮もこれに倣った格好。

金正恩からすれば「なぜ、われわれだけが非難されるのか」といった思いだろう。