総務大臣・野田聖子氏を古くから知る尊徳編集長が、今後の自民党と、”政治家・野田聖子”について聞き出す対談[第2回(全2回)]。
第3次安倍第3次改造内閣では、野田総務相と上川陽子法務相、2人の女性大臣が生まれたが、世間は「女性活躍を目指しているのに少ない」と批判的な意見も少なくない。 しかし、女性活躍担当大臣を兼任する野田氏は、女性活躍の場が広がらないことを憂いつつも、”数”ではなく適材適所を訴える。 批判の目が多い安倍政権の閣僚として野田氏が成すべきことを、尊徳編集長が問いただす。
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担当大臣が考える”真の女性活躍”
尊徳 さて、今回、野田さんは総務大臣だけでなく、女性活躍担当大臣も兼務されますので、女性の活躍についてお聞きしたい。
野田 政治は恣意的に女性を高い位置に持ってくることはできます。しかし、経済界、とりわけ製造業をメインにした大手企業は相変わらず、女性が活躍できるような土壌が育っていません。
尊徳 経団連に所属し、世間への影響が大きい大手企業の多くがその有様ですからね。
野田 女性が活躍できない企業は、発想そのものが時代遅れになっていることに気づいていません。でも、企業だけではなく、この国自体がそうなんです。”脱・製造業”の時代を迎えなきゃいけないのに、相変わらず製造業マインドにどっぷり漬かっている。
クリエイティブな仕事には、オフィスに出勤しなくてもいい、時間に縛られなくていい、というものもたくさんあります。そして、そういう仕事は旧来の製造業よりも労働生産性が高い。
そんな仕事を増やすことこそ、経済的に成熟した国家が取り組まないといけないはずなのに……。9時から5時までデスクにかじりつくことが正しいとされるような硬直化した経済では、これからは世界と戦えませんよ。
尊徳 デスクに張り付いてる人ほど人事評価も有利。そんなのおかしいですよね。それじゃあ、ササッと仕事を終わらせてる優秀な人が評価されない(笑)。
野田 まったくその通り。明治以来の、”工場で朝から晩まで製品を作ります”的なマインドが重要だった時代は確かにあるでしょう。でも、それがいつまでも幅を利かせすぎている。
単純労働とは質が異なるホワイトカラーに、古い価値観を押しつけているうちは、生産性は上がりません。そこで女性の出番ですよ。女性が企業に入れば、工場の”ライン的発想”の企業では働き方が壊れます。
尊徳 女性には妊娠・出産というライフイベントがありますからね。
野田 そう。女性は途中で”ラインから外れる”から、旧来の製造業では落伍者と見なされていた。でも、”ライン的発想”から脱却できれば、企業の稼ぎ方は変わるし、”ラインから外れる”ことがある人も出世できるようになる。どちらがいいか、ということですよ。
尊徳 今までも散々、国が音頭を取って「考えろ」と言ってきていると思いますが、本気で取り組んでいる経営者は数えるほどしかない。
企業は女性活躍が利益につながることを理解していない
尊徳 思うに、まだ考え方が切り替わっていない経営者は、女性に限らず優秀な男性も埋もれさせていませんか。
野田 私や尊徳さんが思う”仕事ができる人”と、ダラダラと終身雇用の階段を上がってきた人たちにとっての”できる人”が違うんじゃないかと。これまでは長時間労働に耐える人が”できる人”とされてきたけど、これからは、いかに生産性を上げるかがポイントになる。
尊徳 そうですね。高い生産性を持つ人材にとって、妊娠や出産のブランクなんて、悪影響にはならない。
野田 だから、そんな人材に仕事場を提供しないといけないし、人材獲得のために、どういうリクルートをすべきかを考えることこそ、経営者の仕事です。
尊徳 これまでの企業、経営の在り方をいったんゼロベースで見直さなきゃいけない。それができれば、時代に合った強い企業ができあがる。
野田 これまでメインストリームから除外されていた女性を活躍させることで、実績を上げている経営者はたくさんいます。世の中の多くの経営者には、それに続いてもらわなきゃいけません。
尊徳 政府は2020年までに女性管理職30%という目標を立てています。しかし、それに反発したり、クリアできていない企業がほとんど。そんな現状を変えるために具体的にどんな施策がありえるでしょうか。
野田 やはり法律を作って、インセンティブやペナルティを与えることでしょうか。
尊徳 法的な強制力を持たせるということですね。
野田 大臣になって行政府の一員になったわけですが、まだ立法府の感覚が抜け切らない(笑)。
尊徳 努力目標で変わらないなら、ペナルティもやむを得ないでしょうね。
野田 「リストラ」と「女性の採用」って似ているんです。大体の企業において、トップはリストラができない。日本の企業で一番有名なリストラは日産自動車のケースだと思いますが、あれを断行したのは……。
尊徳 ルノーから日産に乗り込んできたカルロス・ゴーン氏ですね。
野田 象徴的じゃないですか。縁もゆかりも無い人じゃないとできないのがリストラ。終身雇用のなか、みんなと足並みをそろえて上り詰めて、縁もゆかりもある人たちに取り囲まれた社長が、果たして優秀な女性を入れるという判断ができるか。
尊徳 男性たちから”裏切り者”と見なされるのを怖がってできないでしょうね。
野田 しかし、そろそろ「女性活躍は女性のためだけじゃない」ということに気づいてもらわないと困ります。
尊徳 労働人口も減少するし、将来的には自分に跳ね返ってくることですからね。法的な強制力を設けるにしても、女性活躍に取り組むことは、長期的には企業のメリットになる。
野田 そうです。道徳の話をしてるわけじゃなくて、生産性向上につながり、収益にも直結する話。女性を雇用することが、CSR(企業の社会的責任。日本では「社会貢献」といった意味合いで使用される)だと思っている企業は、どれだけ遅れているのかを自覚すべきです。
尊徳 世代交代が起こらなければ、今の経団連では無理なようにも思いますが。
野田 動けないなら、嫌でも動かないといけなくなる仕掛けを作るしかないですよね。でも、勘違いしてほしくないのは、企業に嫌がらせをしてるわけじゃないということ。結果的には企業としても、納税してもらう国家としてもハッピーになるはずですから。
適材適所が女性活躍のカギ
野田 ただ、女性活躍を急ぐあまり、いろいろなところでミスマッチを起こしてしまったことは事実です。今回の内閣改造でも女性は2人しかいませんが、数が多ければいいというものではありません。
尊徳 メディアが「女性閣僚は2人だけ」と騒ぐように、これまで、女性大臣は質以上に、数を求められてきた。
野田 それはやっぱりおかしくて、大切なのは、適材適所かということです。内閣改造に先立って、稲田朋美さんが防衛大臣を辞任しましたが、稲田さんにとって気の毒だったのは、彼女は防衛の専門家じゃないということです。
尊徳 副大臣で経験を積んで……というような従来のコースからは逸脱していますよね。
野田 だけど女性議員の中では有能だったから、「彼女なら大丈夫だろう」と任命された。稲田さんの件では、安倍総理が「何かあれば自分が支えればいい」と考えていた節もあります。
尊徳 でも、それは考え方が逆。大臣が首相を支えなきゃいけないのに。
野田 女性議員は絶対数が少ないぶん、自分の得意とするポジションに就けない。そんな女性大臣の悲哀は、今までに幾度もありました。
私が尊敬している南野(のおの)知惠子先生は、元看護師の国会議員で、極めて優秀な方でした。しかし、本来、厚生労働政策が得意なのに、小泉内閣では法務大臣に任命され、畑違いな法務で苦労された。
今回の内閣改造は、女性の起用の仕方も含めて面白みがないと言われますが、私としては安倍総理の方針転換を国民に喜んでもらいたいですね。
特に女性には、「女性だから大臣になれたのではなく、働き手として、男性と同様に認めてもらえるんだ」と安心感を持ってもらいたい。本当の女性の活躍というのは、そのポジションで仕事を十分にこなし、成果を出すことですから。
尊徳 少し話は変わりますが、稲田さんだけでなく、自民党の油断もあって、最近は政治家がメディアにたたかれる機会が非常に多い。その状況をもって、メディアと政権の関係がこじれていると見る向きもありますが。
野田 私個人はずっとメディアにたたかれてきました。特に郵政民営化のときは一方的でしたね。
尊徳 野田さんの2回目の”造反”のときですね。
野田 ええ。あのとき、すべてのテレビ局で、私は”悪党”という位置づけをされたように記憶しています。だけど、政治家とメディアが緊張関係にあるのは当たり前のことです。
なおかつ、最近ではネット発のフェイクニュースが社会に影響を及ぼすこともある。そうなってくると、メディアがどうあるべきかという以上に、一人ひとりのリテラシーが大事なのではないでしょうか。
尊徳 ネットは、どこから情報を持ってくるかも、どこから情報を得るかも自由ですからね。政治家だって、一次情報の発信はホームページでもTwitterでもできるし。
野田 実直に仕事をやっていれば、見ている人は見ているものだと思いますよ。私はアナログな人間関係を大事にしてきたので、なおさらそう思いますね。
法律が追いつけない現状に大臣としてどう向き合うか
尊徳 昨年から、NHKがテレビ番組をネットで同時配信すべく動き始めています。NHKを所管する総務省の大臣として、この動きをどのようにとらえていますか。
野田 私は1998年の小渕内閣で郵政大臣に任命されました。実はそのときから議論は始まっているんですよ。
尊徳 20年前、インターネットの黎明期ですね。
野田 一昔前の人にとって、通信は固定電話、放送はブラウン管の受像機。まったく異なる存在でした。法律においても、放送と通信は別物として扱われている。
でも、法律の整備よりも、イノベーションが先行したことにより、そのすみ分けが崩れました。きっかけはインターネットの出現と発展ですね。大容量のネットワークができたことによって、かつては音声しか伝えられなかった通信が動画も扱えるようになった。
尊徳 ユーザーにとっては、スマホの動画とテレビの動画にもはや違いはありませんよね。若い人なんて特に「どこが違うの? 一緒じゃん」という感じでしょう。
野田 スマホの出現は大きいですね。既存の法律に従って、長年にわたって作り上げてきたものがある。それを、どうやって実態に沿わせていくかは大きな問題で、事業者にもチャレンジが求められる。
アナログ放送からデジタル放送に切り替えるときも、全部を国費で賄うわけにはいかないから、設備投資が大変でした。ユーザーと事業者の双方がWin-Winになるような落としどころを見つけていきたいです。
尊徳 現時点で、国としての展望は?
野田 まだ見えませんね。まずは実態を精査して、エビデンスに基づいて話を進めたい。ただ、現在調査中とはいえ、スマホでテレビ番組を流せば見る人が増えるなんて思いますか?
尊徳 ”若者のテレビ離れ”がそんな単純に解決するとは、とても思えない。
野田 ですよね。スマホで動画を見る人の性質を深堀りしないと断言はできませんが、やはりコンテンツに力が無ければどうしようもないでしょうね。
尊徳 NHKや民放がネットでの配信をしようがしまいが、あるいは国がどういう方針を立てようが、それとは関係無しにイノベーションは起こり続けるし、テレビ番組以上に訴求力のあるコンテンツもいくらでも出てくることでしょう。
そういう意味では、いくらテレビ局があがこうとも、最終的には技術の進歩や、ユーザーが決めることだ、という見方もできますが。
野田 法律はどうしても後手に回ってしまうものですからね。
尊徳 テレビに限らず、通信の分野はネットの誕生で様変わりしています。
野田 ネットはグローバルでアナーキーなものです。日本の法律は、当然と言えば当然ですが、日本国内に目が向いていて、域外を想定していない。だからなおさら対応が遅れているという側面があるでしょう。
尊徳 フィンテックや仮想通貨など、これから対応していかなきゃいけないことは山ほどありますよね。
野田 そうです。私としては勉強する気満々ですが、政治家も官僚も、みんながみんな必ずしもそうじゃない。
尊徳 若い官僚の中には関心を持っている人はいるだろうけど、そこから一歩踏み込む人はあまりいないでしょうね。結果、リテラシーが醸成されず、国として十分な規制もサポートもできない。そして、海外に負けてしまうという。
野田 検討会のような組織を立ち上げて、私のやる気を感じてもらわなければ、と考えているところです。
尊徳 これまで日本は技術革新への対応で失敗を重ね、世界から置いてけぼりを食らってきました。野田総務大臣の下、同じ過ちを繰り返さない行政に生まれ変わってほしいと思っています。