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IT企業Amazonにアナログ物流業界へ参入する余地はあるか

2017.08.25

経済

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ネット通販の増大によって物流量が増え続ける昨今。物流業者にとっては市場拡大ではあるが、一方で、小売の競争激化の結果、求められるサービスレベルは上がり、人手不足という深刻な問題のなかで、業界自体は変革を余儀なくされている。 そんななか、宅配の最大顧客&ネット小売りのリーダーAmazonが宅配に参入、業界をかく乱している。Amazonの配送の大部分を担ってきたヤマト運輸は強気の値上げ交渉に出るが、果たして勝ち目はあるのか?

宅配事業は甘くない?

通販大手Amazonで商品を購入する方法は2通りあって、Amazon自身が販売する「Amazon」か、Amazon以外の販売者が出品する「Amazonマーケットプレイス」がある。

マーケットプレイスは楽天市場と同じような”市場”なので、そこで購入した商品は、Amazonの倉庫に在庫がある一部商品を除き、出品者それぞれが発送する。そのため配送業者もまちまちで、今でも佐川急便(以下、佐川)や日本郵便(以下、JP)で届くことがある。

今年の4月まではAmazonで購入された商品の大部分をヤマト運輸(以下、ヤマト)が配送してきたが、労働環境の改善やコスト増を解消するために、ヤマトはAmazonの会員サービスの肝であるAmazonプライムの”当日配送”から撤退することを表明し、配送の時間指定も制限した。

これまで配送業者と強気の交渉をして、日本通運→ヤマト&佐川→ヤマトと渡り歩いてきたAmazon側としては困ったことになった。そこで繰り出したのが、個人運送業者と提携し自社で配送業者を組織化することだ。

楽天も以前、自前の物流事業 「楽天物流」を持とうとしたが、単独で立ち行かなくなり、楽天本体が吸収し、その後解散している。宅配業界に詳しいSGシステム元社長の安延申氏は、「楽天は”市場”であって、自社倉庫から発送される量は多くない。自社在庫が少なければ自社物流を行っても効率が悪く、ペイするのは難しい」と指摘。

ヤマトも佐川もJPも、年間の宅配便取扱個数が5億個を超えるような荷物があってはじめて400~500円台の値段が可能になるのであって、いくら天下の楽天とはいえ、2000~3000万個程度の量では500円を切るような送料では運べないのだ。

»アマゾンですら一筋縄ではいかない 寡占で成り立つ日本の宅配業界

Amazonはすでに、「デリバリープロバイダ」と呼ばれる配送業者と提携し、首都圏を中心に宅配を始めている。安延氏も、海外でのAmazonの行動パターンから見て、特に、札幌や仙台、東京、名古屋、大阪、福岡と言った主要都市では、本気で物流に乗り出す可能性も否定できないという。

ただ、配送網の構築から数カ月がたち、「配送中の案内が出ているのに一向に届かない」「在宅していたのに不在通知が入っていた」などの問題は起きている。Amazon側も頭を痛めているようだが、彼らの投資額によっては、いずれ解消されていくだろう。

赤字覚悟で投資するAmazonの脅威

積極的な投資を続けるAmazonは、少しくらいの赤字でも宅配業界に参入してくる可能性は大いにある。先の安延氏も、「そういった恐怖は常にあるだろう。同じIT企業のGoogleやAppleと違ってAmazonが怖いのは、儲けようと思ってないのではないか、それ以上に規模の拡大に遮二無二なっているのではないかと思えること」と語る。

アマゾン・ドット・コムが7月に発表した2017年4~6月期決算 を見ても、純利益が1億9700万ドル(約220億円)と前年同期比77%減。株価は下がったが、利益を圧迫する投資をものともしていない。

事業もさまざまで、いまや収益の柱にまでに成長したクラウド事業のAWS(アマゾンウェブサービス)やコンテンツ配信に加え、主要な通販では、生鮮食品を扱うAmazonフレッシュが7月に日本にも上陸、ドローンを使ったAmazon Prime Airはすでに実証実験段階だ。

「Amazonは昔の日本の財閥企業のようなもので、すべての業種を手がけるつもりがあるのではないかとすら思います。運送業をやるにしても、彼らが自分たちの荷物を扱うためだけに始めるとは思えません」(安延氏)

米Amazonが動かすキャッシュフロー は約15兆円(2016年)。ヤマト(約1兆4千万円)や佐川(1兆円 )とはケタが違う。Amazonが本気で物流に参入しようと思ったら誰も止められないのではないか。

だた、「物流」は国の根幹を支えるインフラだ。災害時、例えば東日本大震災のときには、佐川は2週間後、ヤマトとJPは1カ月後に輸送を再開した。これがアメリカに本社を構えるAmazonだったらどうだろうか。

テクノロジーでは乗り越えられない壁がある

ヤマト、佐川、JPの3社が寡占する業界事情、対応に差がある個人運送業者の問題などを見てみると、Amazonが広域で配送網を手配するのは簡単ではない。

ただ、IT企業としてのAmazonは、自動運転を開発しているとされ、海外ではドローン配送も実施されている。テクノロジーに分があるAmazon側に優越性はないのか。

「パナソニックの宅配ボックスなど、技術で解決する手段はあると思う。しかし、この業界はアナログな部分が絶対にあり、長期的にすべての制度などが改められればともかく、現在直面している問題を乗り越えるには、物流での自動運転の実用化は時間がかかり過ぎるだろう」(安延氏)

工場から工場、工場から小売店に運ぶという物流は、どんなにネット通販が発展しても必ず存在するもの。その点は全国に根を張った日本の宅配業者に分があるのではないか。

安延氏曰く、今後BtoCにおけるアナログ→ネットへのシフトはさらに進み、その意味で佐川もBtoCは手掛けるだろうが、基本的な戦略はAmazonから撤退したときから一貫していて、BtoBに軸足を置くことには変わりないだろうという。

佐川急便のルーツ

佐川の本社は京都。1957年に飛脚業として創業している。西陣織を作る際の織屋、染屋、仕立屋、帯屋、呉服問屋などの間の荷物を運んでいたのがルーツ。BtoBのビジネスモデルは当時から受け継がれているといえる。

一方、ドライバーの労働環境に関する指摘もあって働き方改革を進めるヤマトは、10月1日からサイズ別に140円~180円(税抜)の27年ぶりの料金改定に踏み切る。また、Amazonの値下げについても強気の交渉に臨んでいるようだ。

今すぐに「運送そのもの」にテクノロジーを導入する余地はあまり無いのかもしれない。しかし、機能的な倉庫の管理システムで効率を上げるなど、日本が見習う部分もあるはず。さらに、より長期的に見れば、コストや労働環境のボトルネックになっている人間依存の部分が解消されれば、体制はガラッと変わる可能性もある。

日本の宅配業界は、確実に変革を求められている。いずれにしてもAmazonの参入をきっかけに、そのスピードは加速度的に増していくはずだ。

政経電論せいけいでんろん

「政経電論」の編集部です。佐藤尊徳(そんとく)編集長の下、若い世代に向けて政治・経済・社会問題を発信しています。イノベーションや働き方改革、北欧型の社会保障、国防、原発、クジラ等に注目中。

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